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4月(上)ーー装備品報告書

 記録的な寒波の襲来から10日後。私はギルドの調査官室でペンを片手にぼんやりと考えていた。


 先月の「春の祝祭」の夜、エレンシアさんと二人でせっせと上空を〈冷却〉したことを覚えておいでだろうか。あれね、連休明けにギルドで新聞を読んだら、王都の周辺だけじゃなくて大陸の西半分で雪が降ったみたいなんですよね。私たちが何もしなくても、雪が降ったんじゃないかな~って思うんですよね。


 それから、その日の夕方家に帰ると、花屋さんが両手いっぱいの白いマーガレットの花を届けてくれました。誰が送ってくれたか分からないんですが、カードがついていまして、『こんなに愉快な喜劇(コメディー)は初めて見ました。存分に笑わせて貰ったお礼デス。』って書いてあったんですよ~。ついうっかり、追伸も読まずにカードをぐしゃりと握り潰しちゃったよ!!



 えっ? 追伸に何が書いてあったかって?



『花屋に寄ったらマーガレットの花が大量に売れ残っていてとても安かったです。』って書いてあった気がするんですよね。読んだ後すぐに破いて捨てちゃったから、たぶんですけど。



 はぁ。



 何回考えても不審者が大爆笑している声が聞こえるような気がする。私はこの10日間で何度目になるか分からないため息をついた。



「先輩! 何をため息ついているんですか? それもう書けましたか?」



 今日も爽やかに出来る後輩のシエル君が声をかけてきた。私が今書いているのは、ギルドに提出する装備品の報告書と使える魔法の一覧表だ。誰がどういった装備を持っていて、どういったことができるのかを把握しておけば、有事の際に素早く対応できるはず! ということで定期的な確認が行われているのだ。

 もっとも、全ての装備品や魔法について報告を要する訳ではなく、装備品なら銅級以上、魔法なら第5階位以上の魔法だけを報告すれば足りる。



「なになに、先輩の装備品は~っと!」



 横からもう一人、後輩魔導士のミュルミューレちゃんがゆる~く覗き込んで来た。席が隣なので、最近よく話すようになったのだが、幻想的な見た目に反して中身は緩い残念な後輩だ。

 シエル君が「人の装備品を覗き込むなんて失礼だよ。離れなさい!」と言ってくれているが、「まぁまぁ同僚なんだから、大丈夫よ。なんならシエル君も見る?」と水を向けると、ちょっと嬉しそうな顔をしてミュルミューレちゃんと仲良く報告書を覗き込み始めた。



 ちなみに私の装備品報告書と魔法一覧表はこんな感じだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〜装備品報告書〜


【防具】

該当なし。


【武具】

1.アセイミナイフ(銅級。2本。魔銀製。儀礼用。)


【特殊魔道具】

1.全自動迎撃装置(白金(プラチナ)級。一定範囲内に入った敵対的攻撃を物理力・魔力問わず全自動で迎撃し、可能であれば相殺する。)

2.真夜中のベル(銀級。有効範囲内にいる魔力を持つ生き物を強制的に眠らせる。ただし第5階位以上のレジストで防御可。)

3.影の硝子玉(銅級。2ダース。割ると爆発する。)


【衣服・装身具】

1.星明かりの外套(銀級。1着。魔法防御効果あり。隠匿効果あり。)

2.黄金のサッシュ(銅級。1着。物理防御効果あり。魔道具の収納が可能。収納能力は低。)



〜使用可能魔法一覧表〜


1.運命の書き換え(リライトザスターズ)(第7階位魔法。1回。短杖による行使。超広域にメテオを降らせる攻撃を行う。)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

「「・・・・・・・・」」


「ん? なんか変なところある?」



 二人が黙り込んだので、聞いてみた。シエルくんが代表して発言する。



「先輩、オリジナル装備の命名センス酷すぎません?」


「そこっ!?」



 ミュルミューレちゃんが叫んだ。私もまさか自分の命名センスを貶されるとは思わなかった。



「いやいやいや。普通、白金プラチナ級装備の方突っ込むよね? ありえないでしょう!?」


「確かに白金プラチナ級はすごいと思う。けど、僕は先輩がこれの元になった魔道具を卒業研究発表で披露してるのを見たことがあるから。」


「あぁぁぁ、なるほどね~。」



 シエルくんが種明かしをすると、ミュルミューレちゃんは簡単に納得した。



「先輩、でも確か昨年の報告時は金級でしたよね?」


「この前壊れちゃってね。いい機会だからバージョンアップしてみました!」


「壊れたって、一体何をどうすれば金級の魔道具が壊れるんですか?」


「結構あっけなく逝ったよ。私もまだまだ精進が必要ということだね。」


 にっこり笑って、それ以上は聞かないでねと雰囲気を醸し出すと、シエルくんは素直に引いてくれた。


「まったく、気をつけてくださいよ。それより、せっかくのオリジナル魔道具なんですから、もっといい名前をつけてあげてください。」


「いやぁ、でも、変にカッコつけた名前って恥ずかしいだけだからね?」


 世の中には自分の考えた魔法や技に黒歴史間違いなしの名前をつけてしまう恐ろしい病があるんだよ。それに、小洒落た名前をつけるよりも分かりやすい方が良いと思うのだ。〈全自動迎撃装置〉。いいじゃないか。


 しかし、シエルくんもミュルミューレちゃんも納得いかないという顔をしていた。



「私もオリジナル魔法持ってますけど、ちゃんと命名してますよ!」


 

 そう言って、ミュルミューレちゃんは私たちに使用可能魔法一覧表を見せてくれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〜使用可能魔法一覧表〜


1.フェアリーブレス 第5階位魔法。光線型の攻撃魔法。

2.きのこマウンテン 第5階位魔法。オリジナル魔法。きのこを生やし栄養と魔力を吸い上げる。

3.金の鞠      第5階位魔法。対象をカエルにする。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 


 「「・・・・・・」」


 うーん。なんと言ったら良いか…

 私が懸念していた方向性とは違うけど、これはこれでひどいな。シエルくんも引きつった笑みを浮かべている。

 


「〈きのこマウンテン〉って言うんですよ! いい名前でしょ!!」


「……元気のいい名前ね。この魔法は絶対に受けたくないわぁ。」



 私は後輩を傷つけないように、なんとかコメントを捻り出した。嘘はついていない。こういうことになるから、命名したくないのだ。シエルくん、分かってもらえただろうか?



「すっごい威力なんですよ! 創作するとき、どんなきのこを生やすのがいいかなって色々考えたんですけど、やっぱ、きのこといったらやっぱり赤地に白の水玉模様ですよね! 〈きのこおひとつ、ほいっとな!〉」


 ミュルミューレちゃんがこれまたユニークな詠唱をする。魔術は〈式〉を発動直前まで組んだ状態で〈凍結〉しておくと、予め指定した文言を唱えるだけで発動できるらしい。文言はなんでもいいので、こちらもセンスが問われる。


 宙からキラキラした粉が降ってきたかと思うと、目の前の机にきのこが一つにょきっと生えてきた。



 うん、どこからどう見てもきのこだね! しかし、このきのこはどうすれば良いのだね? 机のど真ん中にきのこが生えていると地味に邪魔なのだが。



 つんつんとペン先できのこを突いてみると、胞子がボワッと舞い散った。



「あっと、先輩胞子を吸い込んじゃだめですよ!」



 ミュルミューレちゃんが慌てて長杖を振ってきのこと胞子を消そうとしたが、その前に〈全自動迎撃装置〉が作動して、胞子を弾き消してくれた。



「うわ~! すごーい!」



 作動したところを見るのは初めてだったのかな? ミュルミューレちゃんが目を丸くして驚く。自分の作った魔道具が褒められるのは嬉しいけど、ちょっと照れちゃうね。


 きのことミュルミューレちゃんから用心深く距離をとっていたシエルくんも戻ってきて、興味深そうに〈全自動迎撃装置〉を〈魔眼鏡〉で覗いている。



 「先輩! もう一度発動させて貰っていいですか? 発動してるところをもっとよく見てみたいです!」


 

 シエルくんが腰にはいた〈魔剣〉の柄を握りながら言った。シエルくんは調査官には珍しく、戦闘もこなせる錬金術師なのだ。騎士の名門リュニエール家の出身で、小さい頃から今は騎士団にお勤めのお兄さん達と一緒に訓練を受けていたとか。ギルドの水曜朝に行われる戦闘訓練の際も、冒険者上がりの職員や戦闘職の方々を相手に連戦連勝している。


 しかも、シエルくんの〈魔剣〉〈オートクレール〉はリュニエール家に代々受け継がれてきた3振りの魔剣の一つで、金級でも最上位の破壊力と黄金造りの鍔に水晶の柄頭という派手な美しさを誇る名剣だ。

 〈オートクレール〉を装備したシエルくんよりも強い人って、このギルドにいるのかな? まだ見ぬウォルフガング室長とどちらが強いか気になるところだ。


 噂に聞く〈オートクレール〉を私も是非見てみたかったので、私たちは部屋の真ん中に移動した。他の調査官も野次馬にやってきて〈結界〉をはったり、スペースをあけたりしてくれている。音頭をとっているのはミュルミューレちゃんだ。



「〈我、抜くを得ざりき〉」



 先輩調査官が〈結界〉を何重にも重ね始めたので、「えっ!? そこまでするの?」と思っていると、シエルくんが〈魔剣〉〈オートクレール〉を起動させた。


 〈魔剣〉は不思議なもので、起動しない限り刀身がない。剣に魔力を通すと刀身が現れるらしい。ちなみに魔力が合わないと刀身は現れないので、「使い手を選ぶ」とも言われる。

 

 シエルくんは壁際まで下がっていた。いつもの爽やかな笑みは消え、ほとんど無表情でこちらを見ている。

 

 部屋の温度が急激に下がり、それとともに根本から氷のような刀身が伸びていく。氷のような、でも氷より遥かに硬い白銀の刀身が部屋の空気を凍てつかせる。



 やばいよ。これはマジで攻撃されるやつだ! 



 もっと穏やかな実験を想定していたのに、どうしてこうなった? でも、野次馬(ギャラリー)は固唾を呑んで見守っているし、今更やめてくださいとは言えない雰囲気だ。



「測定器準備オーケーです!」


 

 ミュルミューレちゃんが笑顔で報告してくれるけど、そこまでする必要ある?



「先輩、行きますよ。」



 シエルくんが声をかけてくれる。私は全てを諦めて頷いた。



装備品を考えるのは楽しいというお話でした。

〜ミュルミューレちゃんの装備報告書〜


【長杖】LV48

【魔導書】LV56

【魔力増幅装置】LV34

【予備の発動体】LV12


【防具】

1.魔羊のローブ(銅級。1着。物理攻撃軽減)


【武具】

該当なし。


【衣装・装身具】

1.囁きの雫(銀級。ピアス型装身具。一対。魔法防御中。精神異常軽減)


【特殊魔道具】

1.魅惑の香水瓶 (銅級。1個。吹きかけると酩酊状態になる。)

2.朝靄のアミュレット (銅級。1個。靄を発生させ、姿を眩ませることができる。)

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