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非日常高校  作者: IK_N
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第五章

 まあ、なんだかんだ言っても犯人は捕まえなければならないわけで。

 有彦と早苗は街灯が照らす道を歩いていた。とくにミサイルの直撃を食らったような人間は見かけない。


 ちらり、と有彦は早苗を見た。横で歩いている早苗は一言も発さずに黙々と歩を進めていた。

 まあ、なんだ、やはり……。


(夜の街に男女二人きり……って、やっぱりまずくないか?)

 と、有彦は少し緊張していた。これから捕まえる犯人にではなく、隣の早苗に。


(どうやって声をかければいいのかわかんないしな……いや、それとも声をかけないほうがいいのか?)

 有彦は黙考した。それはもうかなり考え込んだ。数学のテストに三角比が出てきたとき並に。

 そして思考の堂々巡りに気づいた。一回頭を左右に大きく振る。


(こんなことを一まで考えていても状況は変わらない! 声をかけるぞ! エイッエイッオーーーーー!)

 心の中で気合を入れてから。


「あの、坂之上さん?」

 声をかけてみた。


「………………………」

 無視。


(え!? ちょっと待て! 無視? 無視と書いてシカト!?)

 有彦は想定していなかった事態に混乱した。無視である。シカトである。相手にされていないのである。


(い、いや、そんなはずは…………もう一回!)

「坂之上さん?」

「………………………」

 また無視。


(そんな!? 俺嫌われるようなことしたか!? いつ? どこで! 何をしたって言うんだあぁぁぁぁぁ!)

 脳みそをひっくり返して考え込んでみたが答えは見つからない。まあ、それもそのはずなのだが。


「あ、あの、『凡人』さん? 作戦中はコードネームで呼んでくれないとダメなんですけど……」

 あ、そういやそうだった。と有彦は大事なことを思い出した早苗のコードネームである。


「ああ、そうだった……あの、『サダコ』さん?」

「はい、何ですか?」

 はい、何ですか? と聞かれて有彦の思考は一瞬停止した。声をかけた後をシュミレーションしていなかったのだ。


(な、何を言えばいいんだ!? と、とりあえず今の状態に関係があることで疑問なこと……)

「え~とさ、康成たちが言ってた拷問って本当にやるの?」

「やりますよ」

 またもや有彦の思考は停止した。


(イカン! 真正面から返されてしまった! いや、別にそれがいけないわけではないんだけど……)

 有彦の頭が回りだした。このまま会話を続けるために次に喋る言葉を考えたのだ。

 その思考時間約コンマ2秒。


「あのさ、俺入ったばかりで『ひびつね同好会』のことあんまりよく知らないんだけど……邪魔じゃなかったらいろいろ教えてくれない?」


「いいですよ」

 早苗が答えた。


(……………………ああ)

 そのとたん、有彦は奇妙な感覚にとらわれた。言葉に乗って感情が流れ込んでくる感じ。それで、あの前髪に隠れた顔は今笑っているんだろうと不思議に確信を持てた。



 それから有彦は早苗の口から語られる意外な事実の数々を知らされることになった。

 実は非日常区に初めからいたのは康成だけで、他のメンバーは全員ここに引っ越してきたこと。

ひびつね同好会は一年前、康成、魔耶、光一だけで結成されたこと。

 そして、七海、英志、早苗の順に新しいメンバーとなったこと。


 沖田有彦が、待ち望んでいた七人目のメンバーだということ。


「………待ち望んでた?」

「はい。七という数字は完全数で、メンバーがその数だけそろえば『ひびつね同好会』というグループは完全態になることができるんです」

「ふぅん?」

 有彦はよく分かっていなかったが、とりあえず相づちをうっておいた。

 有彦たちが歩いている路地には相変わらず人気がなく、犯人どころかネズミ一匹すら出てくる気配はない。このまま犯人なんて出てこなければいいと有彦が思ったときだった。


 ガサッ……


 前方の茂みが何者かによって揺らされた音、そしてその何者かが姿を現した。人数は五人といったところか。


「あ!」

 有彦は一瞬でその五人が犯人グループだと確信した。服はボロボロでススまみれだったからだ。犯人グループはまだこちらに気付いていない。


「きましたね……」

 早苗がスッと有彦の前に出る。おもむろに頭に触れたかと思うと髪の毛を1本引き抜いた。


「……応龍、召喚」

 早苗が小さくそう呟いた瞬間、早苗の抜いた髪の毛に変化がおきた。ただの髪の毛がだんだんと大きくなり別の形になり始めたのである。


「あ、それって……」

 病院でカモさんを呼び出したときと同じような方法だ、今回は魔法のランプのごとく煙も出ないし一瞬で現れもしないが……。


「コレが私の能力です。自分の髪を使って式神を作り出すことができるんです」

 早苗の説明が終わらないうちに数秒前までただの髪だったそれは翼の生えた胴長の龍と化していた。大きさは五メートルはあるだろう。当然、その異様な光景には犯人達も気付いた。


「な、なんだありゃあ!?」

「ど、ドラゴンだ……ほら! あのDQに出てきた神龍に似てね!?」

 まあずいぶんと余裕のある奴もいたものだ。まあ、確かに姿は似ている。違うのはこっちの奴は翼が生えているということだけだ。


「行きなさい、応竜」

 そう早苗が口ずさむと同時に応龍と呼ばれた式神は犯人たちに襲いかかった。


「うわ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 犯人達は一目散に逃げ出したが、高速で空を翔る龍から逃げ切れるはずもない。瞬時に追いつかれその長い胴体で五人とも締め上げられてしまった。


「す、すげー」

 有彦はその光景をただ見ているだけだった。


「康成から坂之上さんのサポート頼まれたけど……むしろ俺のほうが足手まといなんじゃないのか?」

 そう言わずにはいられないほど早苗の行動は迅速であった。有彦が付け入る隙などミジンコの眼球ほどもない。


 ガサッ


「うわっ、別の奴らか!?」

 今度は有彦たちの後ろのほうから八人ほどボロボロの男達が出てきた。しかし、出てきた直後すぐに応龍の胴体で締め付けられてしまった(さっきの五人は気絶していた)。


(…………本当に俺なんかいなくても大丈夫なんじゃないのか?)

 有彦がそう心の中で呟いた時だった。


「うっ………」

 早苗が、倒れた。


「……え?」

 すぐ横で今まで立っていた早苗がアスファルトの地面に倒れこんでいる。一瞬有彦は犯人達にやられたと思ったが、あんな状況の犯人達が早苗に反撃なんてできるわけがない。考えられる可能性は……。


(傷がひらいた!?)

「坂之上さん!?」

「う…………」

 抱きかかえた早苗の体はぐったりとしている。医者でもない有彦に今の早苗がどんな状況かは分からないが、とりあえず今すべきことはハッキリと分かる。


(病院に連れて行かないと!)

 しかし、つい先日引っ越してきたばかりである有彦はこの地区の病院がどこにあるかどころか、いま自分がいる場所がどこなのかさえも分からなかった。


「くそっ、病院の場所知ってる奴は……」

 そう言いながら辺りを見回して、重大なことに気がついた。


「おう、なんかわかんねぇけど……覚悟はできているか?」

「くそっ、化け物どもが……」

「死ぬかと思ったぜ」

 さっきまで応龍にやられていた犯人達が鉄パイプを持って有彦たちを取り囲んでいたのだ。どうやら早苗が気絶したと同時に式神も消えてしまったようだ。


「え、ちょっ、あんたらいつの間に鉄パイプなんて所持してんの!?」

 有彦が動揺しすぎて場違いなツッコみをする。確かにさっきまで鉄パイプはもちろん武器など一つも持っていなかった。


「知るかよ! なんか知らんが気付いたら手にしてたんだよ!」

「ああ、本当になんか知らんけどいつの間にか鉄パイプを握ってた」

「そんなことどうでもいいんだよ! とにかく覚悟はできてんだろうな!?」

 犯人グループが口々に言う。結局分かったのは状況が非常にまずいということだけだった。


 じわり、じわり、と犯人が二人に近づく。さすがに応龍のこともあり、慎重になっているようだ。


(どうする!? どうするよ俺!?)

 有彦だけならば隙をついて逃げることもできるかもしれないが、今は早苗がいる。早苗を担いでこの包囲網を突破するのは至難だ。


「……おい」

「ああ」

 犯人達の顔がにやけ始めた。どうやら二人の雰囲気を感じ、自分達が優勢に立っていることを確信したようだ。ふたりに近づく速度も次第に速まる。


(ま、マジでヤバイ!)

 有彦が最悪の事態を覚悟した時。


「有彦さん!」

 ドガン、と後頭部に強烈な衝撃がはしった。有彦は犯人に殴られたのかと思ったがどうやら違うようだ。有彦の目の前には、カモさんの顔があった。

「有彦さん! 何をやっているのです! このままでは早苗さまが死んでしまいます!」

「あ、あれ? ここは……」

 有彦とカモさんが立っているのは真っ暗な空間だった。さっきの路地とは明らかに違う。


「カモさん? ここは一体……」

「ここは無意識空間の中……いえ! そんなことはどうでもいいのです! とにかくさっさとこの状況を脱してください! でないと早苗さまが死んでしまいます!」

 なぜ自分の心配はしてくれないのか、と少しカチンときた有彦だったが、そこは早苗の守護霊、仕方がない。


「俺だって脱したいのは山々だけど、こう八方ふさがりじゃ……ってそうだ! カモさんがどうにかしてくれればいいじゃないですか!」

「いえ、私は早苗さまに呼ばれないと力を発揮できないのです……」

「あ、そうか……」

「あなたも男なら迅速で劇的でマーベラスな方法でこの状況を脱してください!」

「え? は? マーベラス?」

 言っている意味がよく分からない。どうやらカモさんもテンパっているようだ。


「早苗さまの顔に傷を一つでも付けたら呪い殺しますよ!」

「は!? ちょっと待って……」

 カモさんの体が薄くなっていく……と同時に有彦に視界が戻ってきた。犯人たちの位置は先ほどと変わってはいない。


(い、一体なんだったんだ!?)

 突然現れ意味の分からないことと脅迫を言って消えた守護霊に有彦は困惑していた。


(迅速で劇的でマーベラスって…………)

「う…………」

 横から聞こえてきた声に、横で気絶したままになっている早苗を改めて有彦は確認した。

 そして、にやけ顔で鉄パイプを持ち、じわじわと近寄ってくる犯人。


(……っこのままじゃ坂之上さんまで……!)

 有彦は目をギュッと閉じた。

 恐怖からではない、現実から逃避しているわけでもない。



 ……………………………………………………………………ある。


 あるのだ。


 劇的で、マーベラスかどうかは知らないが、迅速にこの状況を脱出できる方法が。

 実行するのもそれほど難しくはないだろう。

 たった一つの問題は…………。



『おとーさんには怖いものってある?』

『ん? 怖いものか?』

『やっぱりおとーさんには怖いものないの?』

『いや、あるぞ、お父さんにも怖いものが……』

『え! なになに!?』

『それはな……失うことだ、いくら万能のお父さんでも、失ったものは取り戻せないんだ』



「…………俺も男だ」

「はぁ?」

 有彦が突然発した言葉に犯人たちが反応した。有彦はうつむき、地面を見つめている。


「いきなりなに言い出すんだこいつ」

「怖くておかしくなっちまったんじゃねぇか?」

 話し合う犯人達に、地面に顔を向けたまま有彦が再び口を開く。


「俺たちを見逃してくれたら、俺たちの方から再びあんた達を襲うことはしない。だからこの場は引いてくれないか?」

「…………」

 しばしの沈黙。


「はっ!」

 犯人の一人が笑った。それが次第に他の犯人にも感染する。

「こいつ、いまさら命乞いかよ!」

「誰が見逃すか! なめた真似してくれたぶん、きっちりお返しは受けてもらわないとなぁ」

 犯人たちは有彦が命乞いをしているものだと思い込んでいた。しかし、それは違う。有彦がしていたのは確認だった。


「そうか…………」

 有彦は顔を地面に向けたまま立ち上がる。




「わかった………ならば恐怖するがいい、コレが絶対神にすら蜂起した悪魔の力だ!」




そのとき犯人たちを見た有彦の瞳は人間のそれではなかった。



「ふぅ……」

 時を同じくして康成は喫茶店『サンライズ』でアイスコーヒーを飲んでいた。店内に客は数人いるが、それももうすぐいなくなるだろう。


(この波長、強烈な威圧感。離れていても感じるぞ……コレが悪魔の力か)

 アイスコーヒーを口に運ぶ。


(想像通り……いや、以上だな)

 そして康成は微笑んだ。


(ここのアイスコーヒーの味は逸品だ。お気に入りルートに登録しておこう)



 犯人たちはすでに戦意を喪失していた。それはそうだろう。巨大な黒い翼、爪を尖らせ肘まで黒くなった腕、そして紅い瞳。そのような風体の者が目の前に現れれば誰だって戦う気など失せてしまう。


 それに、今の有彦から放たれている強烈な威圧感に捕らわれてしまっているということもある。有彦は戦わなくてもその姿になるだけで相手が勝手に恐怖してくれるのである。

「…………」

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 悪魔のような姿になった有彦は無言で近くにいた犯人の襟首を掴んだ。そして、ただ単純に茂みのほうへ放り投げる。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ボスッ、と鈍い音がしてその男は茂みに頭から突っ込んだ。動かないところをみると気絶しているようだ。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ばっバケモノだあぁぁぁぁぁぁ!」

 犯人の中の一人がそう叫んで逃げ去った。それと同様の叫び声をあげながら他の犯人たちが有彦の前から姿を消すのにそう時間はかからなかった。


「バケモノ……か」

 作業が終わると病院に運ぶため有彦は早苗のほうへ振り向いた。

 そして、有彦は自分の背筋が凍りつくのを感じた。


「沖田さん…………」

 早苗が立ち、有彦を見つめていた。今の有彦を。


「―――――――――――!」

 有彦は一瞬で翼を広げ、この場から逃げ出そうとした。おそらくは核を含めた現有兵器では傷一つ付けることさえできない今の有彦が、たった一人の少女から逃げ出そうとしたのである。


「待ってください沖田さん!」

 有彦のその行動は早苗の一声で中断させられた。


「……坂之上さん、俺は……」

「大丈夫です。知ってましたから」

「え…………?」

 予想していなかった早苗の言葉に有彦の姿が元に戻る。


「知ってたって……さっきの俺のことを?」

「はい、沖田さんは……悪魔と人間のハーフなんですよね」

 確かにそうである。有彦は悪魔の父と人間の母から生まれ、悪魔としての力を受け継いでいるのである。


「でも、どうして?」

「実は沖田さんが非日常高校に転校してくる前から川本さんが私達に伝えていたんです。『もうすぐ転校してくる奴は悪魔の力を持っている。この男をひびつね同好会の七人目のメンバーにしようと思う』と」

「川本……ああ、康成のことか」

 いつも名前で呼び合っているから苗字を忘れてしまっていた。


「ってことは俺が悪魔の力を持っている事は……」

「同好会のメンバーと顧問の宇都木先生は知っています」

「そう……」

 早苗の言葉を聞いてから有彦は今までのことを思い出してみた。転校当日に宇都木先生と会い、康成の隣の席に座った。もしかするとあれも計算の内だったのかも知れない。そして放課後にメンバーを紹介されて鬼ごっこ。そのときにはすでに有彦が悪魔の力を持っていることは全員知っていたのだ。だが、そんな素振りは一度も見せなかった。


「なんか……怖い」

「有彦さん?」

「何でみんながこの力を知っているのに普通に接してくるのか分からない……なんか怖いんだそうゆうの、とてつもないことに利用されているような気がしてくる」

「はい、そうですね」

「ぶぅっ!?」

 有彦はふきだした。早苗が自分の言葉を否定してくれるとばかり思っていたからだ。


「正直、川本さんが考えていることは私にも分かりませんし、利用されているように感じることもあります。でも信じているんです。利用されているにしてもそれは悪いことではないと」

 今この同好会の状況はすでに悪ではないか? というツッコみをその場のシリアスな空気のおかげで有彦は何とか飲み込むことができた。


「有彦さんは……信じれませんか? みんなのこと」

 早苗の問いかけに、有彦は自分がすでにその答えを出していることを思い出した。あの、カモさんと話した時に……。


「……信じるよ、大切な仲間だから……」

「…………」

 早苗は何も言わなかったが、その黒い髪の向こう側にある彼女の顔は今微笑んでいると有彦は不思議と確信した。


「……ってそういえば坂之上さん。具合は大丈夫?」

 そういえばさっきまでぶっ倒れていたのだ。


「あ、大丈夫です。さっきのはただの演技でしたから」

「え、演技?」

「はい、康成さんから『今回、一回だけでも有彦に悪魔の力を出させてみたい』と言われて……」

「またあいつか……」

 どうやら康成に完全にはめられていたようである。有彦は自分の手で顔を覆った。


「いや、実に素晴らしい力だったぞ」

「どういたしまし……って康成!」

 突如真横に出現した康成に有彦は驚いた。早苗がまったく驚いていないところをみると後ろから忍び寄っていたらしい。


「康成! お前どこ行ってたんだよ!?」

「…………」

 康成は何も言わなかったが、その顔は実によく有彦を子バカにしていた。


「お前はあの時俺が言った言葉を忘れたのか。『サンライズに言ってくる』確かにそう言ったはずだが?」

「お前ホントに行ってたのかよ……」

 有彦はあきれ返ってしまった。


「まあ、そんなことはどうでもいい、とにかく非日常高校グラウンドに再集合だ」

「え、なんで?」

「何で俺がコードネームで呼び合っていないお前達に注意もせず、さらに有彦の質問に答えてやったと思う? 作戦はもう終わった。後は結果報告だけだ」

「あ」

「あ」

 有彦と早苗は異口同音に言った。そういえば、さっきからコードネームで呼ぶことを忘れていた……。



「あ、おっそ~い!」

 非日常高校グラウンドに建てられたプレハブ小屋に有彦たちが入ると他の四人はすでに中にいた。そしてそのときの第一声がさっきの七海の言葉である。


「ああ、遅くなってすまない」

「遅くなりました……」

「…………」

 横のふたりが遅れたことを謝罪した。しかし、有彦だけは目の前にいる四人の姿に呆然としていた。


「? 有彦くんどうしたの?」

 怪訝そうに有彦の顔を見てくる七海。とりあえずその体中に飛び散った返り血をどうにかしてほしい。


「ふふ、有彦くんちょっと疲れたんじゃな~い?」

 顔は笑っている魔耶だったが、その右手で男の頭をがっしりと掴んでいた。男は放心状態のようだ。目に光がない。おそらくこいつが実行犯なのだろう。


「…………」

 英志は何も言わなかった。何も言わないからこそ、その大量の返り血を浴びたさまが絵になっていた。


 光一は…………。

「ク、クフフフフフ…………」

 目がイッてる。


 その惨状を見て有彦は心の中で思った。

(本当にこいつらを信じていいのだろうか…………?)



「ただいまー」

 有彦が家に帰ったのは日にちが変わる五分前だった。


「おお! わが息子よ! お父さんはな、もしやお前が朝帰りなんてするのかと心配したのだ!」

 玄関のドアを開けたらすぐに父総司が抱擁のポーズをして待っていた。有彦はドアを閉めたい衝動に駆られた。


「……母さんは?」

 とりあえずさっきの父の言葉はスルーして母のことを聞く有彦だった。

「もう寝ている。これからお父さんはお母さんを襲いに行くから、お前はちゃんと自分の部屋で寝るんだぞ!」

「そーゆうことを息子にいちいち言うなっ!」

 さっさと部屋に戻ろうと父の横を通り過ぎようとした時、父が再び口を開いた。


「学校はどうだ?」

「!」

 前にも聞いたような質問を父がした。しかし、有彦の受け止めかたは前とはガラリと変わっていた。


(もしかして、非日常高校のことや康成たちのことを父さんは知ってた? あいつらがいると分かってて俺を転校させたのか?)

 確かに、普通の高校では『悪魔』である有彦を受け止められるものなどいないだろう。実際、前の高校ではひた隠しにしていた。

 総司は有彦とは違い純粋な悪魔だ。何を考えているのかは有彦にも分からない。


(お父さんは悪魔だ……でもその前に俺の父親なのかもしれない)

「……お休み、父さん」

「ああ」

 この日の親子の会話はこれで終わった。



 富士原七海は着替えていた。

 理由はもちろん、さっきまで着ていた服が血まみれだからである。


(これは……捨てなきゃダメね……)

 マンションの一室は分別を行っていた七海だったが、結局今日着ていたものは全て捨てなくてはならないことが分かった。


(あ~あ、体もなんかベトベトするし、お風呂にはいろ)

 そう思いバスルームのドアを開けるとふと鏡に映った自分の左肩に目がいった。


(あ、まだ残ってる……)

 そこには傷の跡があった。刃物での切り傷のようだが、その大きさからいってそうとう酷い傷である。


(もしかすると一生残るかも……)

 本来、それは女性にとって悲しむべきことだが、七海はその傷を見て微笑んだ。そして気がついたようにバスルームをでて、テーブルにおいてあった一枚の紙を手に取った。


「『七海、この前はすまなかった。お詫びに何かおごろう』」

 七海はその紙に書かれていた文字を朗読した。その紙は英志がこの前ボウガンで撃ってきたときのものである。


(ピエロのモンブランでもおごらせようかな)

 七海は人気の洋菓子店とその人気商品のことを思い浮かべ、再びバスルームに入っていった。



 鈴城英志は着替えていた。

 理由はもちろん、さっきまで着ていた服が血まみれだからである。


(これはまだ着れる)

 誰がどう見ても血痕が9割をしめている服を、英志はこともあろうにクリーニングに出すつもりだった。


(武器の整備をしたい所だが……まずは風呂に入るか)

 そう思いバスルームのドアを開けるとふと鏡に映った自分の胸板に目がいった。


(まだあるな)

 そこにはあざがあった。ちょうど大きさは人のこぶしほどだ。


(そういえば、十七番ナイフだったな)

 英志はバスルームをでて、クローゼット――もはや武器庫と呼んだほうが使用目的にあっているのだが――を開けた。英志はそこに目的の物を見つけた。ナイフ、柄に『十七』と彫ってある。


(手紙は送った、十分な金もある。あとは……)

 英志はナイフを握り締め……そしてそのままバスルームに入っていった。



 江冶村光一の家は一般的な一軒家だった。父親は家にはおらず、母親は帰らないか朝帰りである。ゆえに、今この家にいるのは光一ただ一人だ。

「機能面はまったく問題ないな、あとはビジュアルか……」

 その家の一室は彼の研究開発ルームであった。今は今日使った武器について考察しているところだ。


「やはりここはガン○ムの形に改造しなおすべきかな……」

 いろいろな想像(妄想)を実現させようと光一の手が忙しく机の上を走る。


「ククッ、これなら……これならイケルッ! やっぱりボクは天才だっ!」

 自分への賛美に酔いしれてから、光一は一言つぶやいた。


「沖田有彦……」

 それはクラスメートであり、自らが所属する同好会の新メンバーでもある者の名前だった。


「悪魔の力か……クククッッ!」

 光一は不気味に笑い始めた。


「クッ、川本康成、加成魔耶、富士原七海、鈴城英志、坂之上早苗、沖田有彦、宇都木陽炎、フロリダ・マーズデン……クククッ、よりどりみどりだ……」

 そのとき光一の感情は絶頂を迎え、自分の肩を抱きしめ腰をくねらせ狂喜した。


「素晴らしいっ! ボクの好奇心が刺激されているのが分かるよ! ゾクゾクする! 嗚呼! 誰か一人でもボクのモノになれば寝食いとわず研究し続けるというのにっ! そうすれば……ク、クク、ククククククククククククククククククッッッッ!」

 江冶村光一は変態だ。



「これで七人、全ての蝋燭に火が灯されたことになるわね」

「ああ、これでひとまず第一段階は終了だな」

 川本邸地下五十階、そこには司令官の椅子に座った康成と後ろから康成の首に手をまわしている魔耶の姿があった。


「有彦くん……なかなか面白いわね、自分でも非常識な力もってるのに私達に驚いたりツッコんだり」

「それこそが有彦が我が同好会になくてはならない理由の一つだからな」

「そうよね、今まで固定的なツッコみ役っていなかったからみんなリバーシブルにやってたけど……」

「ボケとツッコみを交互に使い分けるのは疲れるからな、いっそのことこれからの同好会ではツッコみを全て有彦に任せてしまおう」

 真剣な雰囲気のわりにどうでもいいことを話していたふたりは、そのままの状態で無言の時を過ごした。その時間約数分。


「ねえ、そろそろ寝ない?」

「なんだ? 眠くなったのか?」

「ええ、そう、なんだかとっても眠いのよ……」

 そう言いながら魔耶は自分の手を康成の上着へ忍び込ませた。


「ねえ……」

「フフッ」

 康成が笑った。同時に振り向き魔耶の唇に人差指をあてがった。


「テンプテーションか? まだまだ俺を誘惑するのは早いぞ魔耶ちゃん」

 そう言って自分の服の中をまさぐっている魔耶の手を出し、椅子から立ち上がった。そして無言で司令室から出て行く康成を、魔耶も同様に無言で見ていた。そして康成の姿が見えなくなったころ。


「ちぇっ、逃げられちゃった」

 魔耶の声が司令室にこだました。



 坂之上早苗は自分のマンションの部屋に戻るとすぐにベッドに突っ伏した。


(ふう……)

 今回の活動……こと早苗本人に関係した活動だったが、それも終わった。


(犯人の拷問は明後日……)

 結果報告のときに聞かされたが、拷問は明後日の放課後にやるらしい、それまで犯人は魔耶の魔法により異次元に放り込まれることになる。


(沖田さんも来るのかな)

 本人はあまり来たくなさそうだったが、本人の意思とは関係なく来させられる確率は多分にありそうだ。


 そして早苗はまた『なんとなく考えてしまう症候群』に陥ってしまっていることに気がついた。頭の中をリセットし、そして最初に頭に浮かんだのはやはり一人の男の顔だった。


(沖田さん……私も信じているんですよ、みんなのこと、そしてあなたのことも。私の姿と能力を見て、『バケモノ』と呼ばずに普通にせっしてくれたあなたたちを……)

 そして早苗は、いつの間にか深い眠りへ落ちていった。


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