1-7
やっと。
やっと、森から抜けることができた。
私が逃がしたオークと戦っていた人達を手助けしたあと、何とも言えない喜びが――いや安堵が、遅まきながら押し寄せてきた。
森の中にいたときは空元気というか――虚勢を張っていた。
張らなければすぐにでも壊れてしまいそうだったから。
ただ、心細かった。
わけもわからない場所にいきなり居て、他人も居なければ自己もない。
すがるものが、なにもなかった。
それでも微かに残っていた自分の人間性にしがみついて、どうにか自我を保てていた。
今はもうだいぶ強くなって、森で命の危機に陥ることはほとんどなくなったけれど。
そうなるまでに――いやそうなっても――いくら死にかけたことか。
いや、いくら、という表現はこの際適切ではない。
常に死にかけていた。
なにせ一回怪我でもしたらその時点でほぼ詰みなのだから、常に気を張っていなければ寝てもいない首を掻かれることになる。
当然、安眠などここしばらく貪れたことがない。
もう自分が生きている実感が無かった。
自身にかかわる記憶も無いのだから、もういっそ死んでいると思ったほうが納得できるだろう。
でもまあ、そんな状態で――よくまあここまでこれたものだと思う。
ああ、本当に――生きているのだ。私は。
人間と目が合って、お互いの存在をを認識し合ったことで――それを実感した。
その瞬間、私の中で張りつめていた糸が――切れた。
目が合っていたはずの豪華な鎧の女性がこちらに何かを言っていたが――もうそれが耳に入ることはなかった。
私は、意識を手放した。
△▼△▼△
気がつくと、私はどこかに寝かされていた。
なんだかごとごとと揺れている。何かの乗り物――馬車にでも揺られているのか?
そう思って、辺りを見渡そうと身体を起こすと――
「起きたか。よく眠れたか?」
と、横から声がかかった。
そちらへ視線を向けると、あの豪華な鎧を着た赤髪の女性が隣に座っていた。
「なぜあんなところにいたのか、あの戦いぶりは何なのか――その他諸々は、もう少し落ち着いたときに聞くとして――君、名前は?」
いろいろ聞きたいことがあるのだろうけれど、気を使ってか、とりあえず名前だけにとどめてくれたようだ。
そういえば名前、どうしようか考えて無かったな――て、そうじゃない。
彼女が私を拾ってきてくれたのなら、まずはお礼を言わなくては。
ありがとうございます。
と、そうお礼を――
「......っ......!?.....っぁ...」
――声に出せなかった。
私は、まともに声を出すことができなくなっていた。