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1-4

 落ち着け、落ち着け。


 早くに気がついたおかげで幸いにもオークらはこちらに気がついてはいない。


 奴らは対岸。水を汲みに来たのだろうことを考えると、このまま隠れていれば何事もなくやり過ごせるはず。


 大丈夫、問題ない。


 オークの数は2体。木で作られた桶を持っているあたり、やはりここに水を汲みに来たのは間違いないだろう。


 それと…鎖で繋がれた犬(らしき生き物。もとの世界のよりも大きく、狂暴そうだ)を2匹連れている。ペットか?あるいは……。


 あるいは……?




 と、別の、しかし考えうる最悪の可能性が頭をよぎった、瞬間。


 犬が、こちらを、私が隠れている岩を見据えて、



吠えた。

 





「――ッ!!!」


 私は、逆方向に全速力で駆け出した。


 後ろで、響くような低い声と、犬の駆け出す音が、聞こえた。


△▼△▼△




 速い。


 この身体、事態が事態だっただけにろくに調べもしなかったが、どうやら身体能力がとても高いようだ。自分でも驚くような速度で走れている。火事場の馬鹿力か何かは分からないが、今はこの身体に感謝するほかない。


 この速さなら、奴らにだって――




 ――しかし後ろから聞こえる犬の鳴き声が止むことはない。


 しかも、だんだんとその鳴き声が近くなってきている。



 まずい。追い付かれる。


 追い付かれたら――



 ――最善でも、死ぬ。



 ――どうする。やばい。死ぬ。追い付かれる。このままじゃダメだ、どうにかしなければ。でもどうすれば。このままじゃダメ。じゃあ戦う?無理だ。でも――


 ――やるしかない。


 致命傷でなくとも一発貰ったら終わり。


 よしんば勝てても、応急措置の仕方なんて知らない。そのまま行動不能でヴァルハラへとまっ逆さまだ。


 絶望的、どころの話じゃない。


 ただ、このまま死ぬのなら。この身体ならあるいは、という一類の望みにかけて。


 すがりついて。


 せいぜい足掻くほか、ない。


 ――私は地面に落ちていた太い枝を掴むと、犬共に向き合った。


△▼△▼△

























 

 ――気づけば、私は、犬の頭に石を打ち付けていた。


 何度も。何度も。何度も。



 もうすでに死んでいることはわかりきっているはずなのに、振り上がる腕を止められない。


 顔は涙と鼻水と返り血でぐしゃぐしゃになっていた。身体じゅうにも返り血がこびりついているが、身体に痛む場所はない。近くにもう1匹、犬の死体が、口から枝を生やして転がっている。奇跡的にも、無傷で返り討ちにしてやれたようだ。


 「――は、ははは、ははははは」


 渇いた、しかし子どもらしい高い笑い声が、口から漏れた。



 「ははははははは、ははははははははあははは」



 その笑い声は、暫くのあいだ、響き続けていた。

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