再会
「グルォォォ!!!」
そのクマ……いやクマと言うには余りにも巨大すぎるソレは、この森において最強の名を馳せていた。
生まれて数日で単独での狩りを始め瞬く間にその森の生態系を変えてみせた。
それまで森を根城にしていた多くの賢明な動物たちは疾くその森を脱出し難を逃れたが、勇敢かはたまた身の程知らずか愚かにもそのクマに立ち向かう者もいた、一人では不可能でも二人なら二人でも不可能ならもっと多くの集団で!
だが結果は無為に彼の腹を満たしたに過ぎなかった、あまりにも力に差がありすぎた、それはまるで生まれてくる世界を間違えたかのごとく。
「そう、あなたは生まれるべき世界を間違えたのよ」
だがその彼を軽くあしらい初めての恐怖を与えたのは、意外にも人間だった。
この森に人間が入ってきたことは今までも少なくはない、彼がこの森を支配してすぐに討伐隊が結成されたのだ。
その規模はとてつもなく、この世界にある全ての国家の総力の半分にも等しかった。
しかし、結果はお察しの通り彼に人間の持つ兵器の知識と人間の肉の味を教えただけに過ぎなかった。
「意外かしら?他の誰でもない人間それもたった一人の人間があなたを追い詰めてるなんて」
だが、その人間は違った。
彼女は出会うなり、どこからともなく銃を取り出し攻撃を始めたのだ。
そこまではいい、彼にとって出会い頭の攻撃など常識的なものだ今更驚くべきことでもない、驚くべきは彼女の放った攻撃だ。
銃を両手に構えたその少女の放った弾丸は、彼の皮膚を透過し直接心臓を穿った。
「グ......グルァァァ」
その雄叫びもどこか力ない。
だが心臓を穿たれたというのに痛みはない、皮膚を透過したのだから当然血も出ていない。
少女は最後にこう言いながら彼の元を去っていった。
「あなたの運命は既に決まった、せいぜい主人公補正がふんだんに掛けられた勇者様の足がけになって死になさい」
その数時間後、彼は数人の人間によって討伐されることとなる。
___ふぅ
思わず一息つく。
ここまでは計画通りだ、一度森の入口に戻りリリスたちが到着するのを待つこととしよう。
この森のボスの運命は既に決まっているがいかんせんこの体だ、能力が思うように働かない事もあるかもしれない。
「随分と忙しそうしゃないか、ルシフェル?」
「!?」
唐突に自分の名を呼ばれ体が一瞬硬直してしまった。
おかしい、この森には普段人は立ち入らないはず、まして私の名を知っている!?
「誰!?」
「おやおや、少し会わないうちに私の声を忘れてしまったかな?」
こんないかにもな話し方をする奴は私の記憶では一人しかいない
「いいやあんたのことを忘れるわけがないわ、ねぇ、久しぶりじゃない?、ミカエル」
するとルシフェルは、木の上に軍服を着た二人の少女を確認した。
黄色い軍服を着た少女の名前はミカエル、正真正銘の天使だ、とはいっても羽や頭上のリングは今はないので、見た目上は普通の人間の少女と大差はない。
補足しておくと、天使のほとんどの容姿は人間で言う13~18才の少女の姿をしている者がほとんどだ。
そして、その傍らにはもう一人見慣れた姿もあった
「あら、あなたも来てたのね、ガブリエル」
「………」
鮮やかな紫色の軍服を着ているガブリエルも、ミカエル同様天使である。
二人とも、天使の中でもかなりの実力者である
「それで?今更私になんの用かしら?」
ま、現れた理由は大体察せられるのだが確認しておくに越したことはない。
「そりゃ、裏切り者がより良い暮らしをするサポートさ」
「ふざけてないでいいから話しなさいよ」
「フン…裏切り者の動向を探るのも私の役割でね」
つまりは私の監視役と言うわけだ、恐らく神の指示だろう。
「お前、今更何を企んでいるんだ?」
「決まっているでしょう?器を取り返すのよ」
すると、ミカエルは弓を取り出しこちらに構えてきた。
「ま、お前が何をしようと怪しい素振りがあれば攻撃して構わないと指示は受けている。
二択だ、馬鹿なことはやめて真っ当に生き続けるか、愚かにも我らが主に再び逆らい命を落とすか、お前はどちらを選ぶんだ?」
問答をするまでもない、答えは当然
「後者よ」
そう答えるのを聞くやいなや(もしかしたら聞かずに)ミカエルはこちらに矢を放ってきた。
「なるほど、本気みたいね」
咄嗟に別世界と空間を繋ぎ取り出した銃でそれを弾き、返す。
見ると、ガブリエルも刀を構え完全に戦闘態勢だ。
「さすがに、逃げられる状況じゃないわね」
そう言いつつ、ルシフェルは異世界移動の準備を始めた。
少なくとも、現状最悪の事態はリリスたちとミカエルが鉢合わせする状況だ。
「それだけは起きないようにしないと」
どうにか、場所を移さねばならない。
(どうする?考えるのよ!私)
考えられるのは、異世界移動という私の能力のひとつを使えば異世界をつなぐゲートを作り出し、二人を異世界に誘導してこの場所から離れる。
「悪いけど、場所を変えさせてもらうわよ」
そう言うと、ルシフェルの背後の空間が水面の波紋のように揺らめく。
ルシフェルはそのままその揺らめきの中へと消えていった。
「どう考えても罠だけどどうする、ガブ?」
「私はお師匠様について行きますよ、たとえこの先が地獄だとしてもです」
予想していた答えではあったが、こうまで迷わず答えられるとはさすがと言うべきだろうか。
「それじゃ行きましょうか」
「はい」
そう言うと、二人も波紋の中へと消えていった
相変わらず内容が酷い