計画開始
朝日が差し込み、深い眠り心地よく邪魔してくる。
だが、どうやら脳はまだ目覚めることを拒否しているようだ
「起きて下さい!もう朝ですよ!」
「も、もうちょと…あと五分でいいから」
そんな小さな願いも、果たされることなくいともたやすく打ち破られてしまった
「だ・め・で・す!」
その言葉とともに身体から布団を引きはがされてしまった
「さ、さぶ」
季節は今人間界でいうところの真冬に当たる、つまり朝はチョー冷えるのだ。
「ふむふむ、どうやらまだ起ききれてないみたいですねぇ。
えいっと。」
しかも追い打ちとばかりにベッドに何か冷たいものを投げ込まれたようだ。
それが皮膚に触れた瞬間、言葉では言い表せない感覚がルシフェルを襲った。
「ひゃふう!?」
そんな情けない声とともに、ルシフェルの一日はスタートした。
「なななな、なにすんのよ!」
どうやらベッドに投げ込まれたものの正体は保冷剤のようだ。
すると、その犯人であるメイド服を着た金髪のおさげの少女『リリス』は悪びれもせずに答えた。
「主人の生活リズムを整えるのも、メイドの務めですから。
そんなことより、朝食の準備が出来ておりますので食堂の方へご移動願います。」
「ハイハイ」
寝室から少し廊下を歩いた先に、食堂がある。
食堂に近づくにつれてて、朝食のいい香りが鼻孔をくすぐってくる。
その香りは寝起きでからっぽの胃袋をぐうぐうと急かすには十分だった。
「さてさて、今日のメニューは何かな~」
胸をワクワクさせながら食堂のドアを開くと、縦長テーブルの最奥に湯気を立てた料理がべられているのが見えた。
「相変わらず寂しいテーブルね、せめてリリスが一緒に食事
をとってくれればちょっとはましかも知れないのに。」
「残念ながら私はメイドですので主人と一緒に食事などは取れないのです。」
いつの間にか背後にいたリリスが答えた。
「ま、あなたの考えに口出しするつもりはないわ。」
席に着き、改めて食事を見てみる。
今日の朝食のメニューは、ハチミツを塗ったトーストにベーコンエッグ、それにコーンスープのようだ。
「そんじゃ、いただきますっと。」
簡素に手を合わせ食事を始めた。
ルシフェルはそれほど食事に時間をかけるタイプでもなかったし、かなりの空腹状態であったこともあり食事はすぐに済んだ。
その後、部屋に戻りパジャマから漆黒のドレスへと着替えを完了させた。
すると、着替えが終わったのを見計らったように、扉からノックが聞こえてきた
「どうぞ」と短く答えると、「失礼します」と言いながらリリスが部屋へと入ってきた。
「頼まれていた物が完成いたしました」
そう言う彼女の顔はどこか浮かない様子だった。
「どうしたのよ朝からそんな暗い顔して、せっかくかわいいお顔が台無しよ?」
「やっぱり納得いきません、人間風情にルシフェル様のお力を使わせるなんて!!」
「そうは言ってもしょうがないでしょ、今の身体じゃ天使だった頃の10%も力を使えないんだから。
これが一番手っ取り早く力を取り戻すのにいいのよ」
現在のルシフェルは人間のスケールに力をおさえられてしまっているのだ。
これでは神への復讐など不可能だと考えていた矢先にルシフェルに新たな考えが浮かんできた。
ここからの話は約一ヶ月ほど前へと遡る。
ルシフェルは一通りの力の確認を終え、まだ慣れない屋敷の中を散策していた、しばらく歩いていると、書庫を見つけたので少し中へ入ってみることにした。
書庫はかなりのの大きさがあり、その部屋の中は隙間なく本が敷き詰められたれられた本棚で埋め尽くされていた。
ついでに何か読んでみようかと本を探していると書庫の奥にもう一つ部屋があったようでそこからかすかにランプの光が漏れているのが分かった。
どうやら先客がいたようだ、と言っても今はこの屋敷には普通に生活している者は現在自分を含めると二人しかいないのでそこにいるのが誰なのかはすぐに分かった。
扉を開けてみると、そこは先ほどの書庫とは違い机が一つあるだけの小さな部屋だった。
どうやら部屋の主はかなり集中して本を読んでいるのか、こちらに気付いた様子はなかった。
「何を読んでるのかしら、リリス?」
声をかけてみると、よほど集中して読んでいたのだろうか盛大に驚いてくれた。
「わわっ、ルシフェル様本日の確認はもう終わっていたのですか?」
「ええ、それでいったい何をそんなに集中して読んでいたのかしら?」
「え、ええと、これは…その…らいとのべるというものでして…」
「らいとのべる?聞いたことないわね」
「どうやら人間界では若者を中心に流行しているようですよ」
「へぇ、人間界でねぇ…」
「ど、どうかしましたか?」
「いや、ちょっとね」
ルシフェルはリリスがわざわざ人間界へ行ってまで読みたいと思う本があるのだという事に驚いた。
「ねえ、それちょっと私に読ませてよ」
「ええ、それはもちろんいいですけど読むならそちらに置いてある第一巻から読んだ方が面白いと思いますよ」
「なら、そうさせてもらうわ」
机に積まれていた本を何冊か借りることにし、ここと同じような部屋が隣にもあったのでそこでその本を読むことにした。
本の内容は、不慮の事故により死亡した主人公が奇跡によって異世界へと転生し世界を救う冒険に出るというものだった。
その主人公は物語の中の神によって驚異的な力を身につけ敵を倒していき仲間を増やしていっていた。
一つ気になった点は仲間にやけに女性が多い気がしたところだが、まあそこは人間の若者の好みなのだろう。
だが、この話は大いにヒントになった。
そう、自分の力が弱いなら複数に力を分け、それを人間に与え冒険させ強くなってもらえばよいのだ。
そして最後にはその人間たちに自分の代わりに神を倒してもらえばいい。
そうとなれば話は早い
「決まりよリリス、人間をこの世界に転生させましょう!」
「は、ええええええええええええええ!?」
リリスの驚きはもっともであった。
そして今に至る
「そもそも私の力を分散させるっていうのはそれ以前からもう決めていたことなの、それはあなた自身もよくわかっているはずよね?」
そういうとリリスは心底不満そうに顔を歪めながらもどうにか了承してくれたようだ。
「さてと、それじゃあそろそろ会いに行くとしましょうか。
偽りの勇者様たちはどんな顔をしているのかしら」






