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SS

【SS】退廃した世界で一人だけ情熱を失っていない博士ちゃん「ついに薬が完成したぞ!」

静かな研究室にプシューッと空気の抜ける音が広がった。

白髪で白衣、上から下まで白を身にまとった男が、部屋の中央に置かれた円柱状のガラス管からピンク色の液体で満ちた試験管を取り出した。


「遂に完成したぞ!有史以来、人類が夢に見た新薬だ!」


白髪の男の隣には、若い男が一人。彼もまた染み一つない白衣に腕を通している。


「博士、おめでとうございます。ところで、これまで手伝ってきて何なのですがこの薬は一体何なんですか?」


「なに?君は助手だというのに、そんなことも知らずに手を貸してくれていたのか。まあいい、これはかつて秦の始皇帝も目指した不老不死を体現する薬なのだ」


「不老不死ですか?」


「そう、この薬を一たび飲めば病気にはならず、ケガもすぐに治ってしまう、老いもせず、永遠に生き続けることができる」


助手の訝し気な表情を見ると、博士は口角を上げニヤリと笑い、試験管の液体を一気に喉に流し込んだ。

そうして、机の引き出しから銃を取り出し自身の頭を打ちぬいた。


「は、博士!?」


助手は、頭から血を流し前のめりに倒れた博士へと駆け寄る。

博士の顔は、とても死んでいるとは思えないほど安らかなものであった。と思いきや、どうも様子がおかしい。

血色は以前にもまして良く、髪も新雪の振った朝のような白から黒光りしたものへと変わり、先ほどできたばかりの風穴は完全に塞がれていた。


「ははは、驚いたかね?君が、『不老不死だなんて信じられない』という顔をしていたから実証してあげたまでだ」


「ああ、もったいない!その薬を売れば、遊んで暮らせたでしょうに!」


「案ずるな!君の分もある。それどころか、この薬は安価で製造可能だ。全人類に不老不死を与えることができるぞ!」


博士の言葉通り、クスリは地球上のどこでも入手が容易な植物で作られており。

ほどなくして、世界から死は消え去った。


――――――


「いやあ、博士の発明は世界を変えてしまいましたねえ」


若さを取り戻し、筋肉ではち切れそうな白いシャツを着た博士は、もくもくと電卓を叩いている。

助手の称賛の声は、博士には届いていないようだ。


「そういえば、こんな話を聞きましたよ。とある冒険家が首狩り族に殺されたそうなんですけど、狩られて晒されていた頭から体が生えて村から逃げ出し帰還したそうです」


「実はこの話には続きがありまして、村に残った胴体からも頭が生えて無事に帰還したって言うんです。この場合、どちらが本人なんでしょうね?」


助手の問いかけにも、やはり博士は答えなかった。


「まったく、今どき仕事に情熱を注いでいるのは博士ぐらいのものですよ」


不老不死の薬は、世界を大きく変えた。

あまねく医療関係者を退職へと追いやった一方で、科学技術や芸術の分野において一段越しでの発展を成し得たのだ。

それもそのはず。好きでもない仕事を、家族を養っていくためだけに勤めていた。そんな人々が、責任感から解放され自身の興味のあることに力を注いだのだから。

優秀な頭脳を持った医療関係者たちが、転職したことも世の流れに拍車をかけた。


人々の生活圏は、あっという間に宇宙まで広がり。今では、太陽系の外に達した者も居ると噂されているほどだ。

しかし、そうした人類の進歩も長くは続かなかった。


「なにせ時間は無限にあるのだ、焦ってどうなる。ゆっくりいこうぜ」

とある作詞家の曲の一節であるが、これが人々の心を打った。

技術の進歩に力を注ぐものは徐々に減っていき、世界は堕落的で無変化なものへと落ち着いてしまった。


「まったく、アンデッド溢れる世界で一体どんな薬を作ろうって言うんですか?」


「……止めてくれるな助手よ。どうやら、私が飲んだ不老不死薬は後に作られたものより強力だったらしい」


「どういうことです?」


「止まらないのだ、我が情熱は。肉体と共に、私の情熱までが不老不死となってしまったようだ」


「仕方ないですね、長い付き合いですしお手伝いしますよ。それで何の薬を作ろうとしているのですか?」


「不老不死者を殺す薬さ」



――――――



「できましたねえ博士……」


「ああ、遂に完成したな。不死者を殺すという矛盾を成し得る薬だ!」


「これはまた飛ぶように売れますよ。稼いだ金で、しばらく遊んで暮らしましょうよ」


「いや、まだだ……情熱は未だ湧き出してくる!」


「まったくもう。次は何ですか?」



「次は、不老不死者を殺す薬でも殺せない不老不死薬だ!」


――――――


『情熱的不老不死者』おわり


――――――

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