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Metal Doll  作者: アンファング
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ゲームスタート


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13ページ


 巧達が通う高校から10分もすれば着くところに、もはや常連と呼ばれる程に通っているゲームセンター、「GIRI☆GIRI☆」が建っている。


 その名の通り、もう店の方がギリギリで何故此処まで何処もかしこもボロボロで風が吹いただけで倒れそうな状態なのに今も尚立ち続けているのが不思議な建物である。


「相変わらずボロいなぁ……」


 先に猛スピードで出発した賢人を追いかけて来てやっと着いた巧は、息を切らしながらも見慣れた建物を見て言葉をもらす。


「おろ?やっと来たか?遅ぇよ巧~」


 ゲームセンターの扉を開けて、陽気に喋る賢人が出てきた。右手にはジュースが入っているであろう紙コップが握られている。それを見て呆れた巧は


「……ったく、遅ぇよ~じゃねぇよ。勝手に飛ばして行きやがってお前は」


 と、ぶつぶつ言いながら自転車から降りて鍵をかける。


「いやぁ~悪ぃ悪ぃなんつーの?若気の至り?」


「使い方間違ってんだろそれ」


 巧には賢人のボケに突っ込む元気もなく、自転車からゆっくりとカバンを取り出し肩にかける。


「それで?あったのか?目当ての物は」


 ふと巧は、扉を開けて出てくるときの賢人を思い出し聞いてみた。そういえば実に嬉しそうな顔をしていた。


「あぁ、勿論あったぜ?新作「メタルドール」。やっぱり俺の情報は間違ってなかったな。あ、でも何か変な馬鹿笑いがしてた様な………」


「変な馬鹿笑い?」


「んー……まぁとにかく、中に入って見に行こうぜ?」


 巧は頭に?が浮かんだまま、賢人に連れられて店に入ることになった。


 賢人に引っ張られながら、扉を開けて店内に入るといつもの嗅ぎなれたゲームセンター独特の匂いと様々なゲームのBGMが入り乱れた聞こえてくる。


「あ~この匂いと音、生き返るわ~…」


 先程までの学校との正反対の空間に安らぐ巧。が、それをよそに賢人は


「ほらほら、休んでないで早く行こうぜ?」


 そういって巧の肩を掴み、例の物がある所まで引っ張っていく。


「だぁぁぁ解った解った、行くっての」


 その手を振りほどき、巧は自分の足で歩く。その後を、手を振り払われた賢人が着いていく。


 ふと、巧は店内を見回してみると先程見たチラシで見た「メタルドール」と同じ写真が掲載されたポスターが壁一面に貼られている。


「本当にイチオシのゲームらしいな、これ」


 壁一面に貼られたポスターをゆっくり見回しながら巧は呟いた。それに反応するように賢人が


「だから言ったろ?今まで情報が無かったのに急に出すってことは、そうとう凄いんだろうぜ?……お?あれじゃないか?」


 巧が言われた方向を見てみると、何やら人だかりが出来ているのを確認できる。明らかに何かあるのだろう。


 その時、その人だかりの方から一人の男が声をあげながらこちらに向かってくるのが解った。


「あれ……?あの人……泣いてない?」


 巧はこちらに駆け寄ってくるその人がバンダナ、メガネ、リュックといかにもな格好をしているのを確認できた。そして、若干泣いているのも。


 すると、いきなりその人が巧の目の前に滑り込んで、足にしがみついてきた。


「あっ、ちょ、なんすか!? なんすか!?」


 突然の事に驚きながら、すぐさま手を振りほどこうとしたがやけに強い力で振りほどけない。そうこうしている内に、その人が喋りだした。


「チャンピオン様ぁぁ、助けてぐださいぃぃお願いじますぅぅ!」


 涙混じりにその人が訴えてくるので、驚いた巧は


「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ?何があったんすか?」


「そ…それが、今日導入された「メタルドール」と言うゲーム、ご存じですよね……?」


 少し落ち着いてきたらしいそのいかにもな人は、ゆっくり巧に問いかける。


「あ~、おう。知ってるけども」


「ついさっき俺から聞いたくっ……あいたっ」


「う、うるせっ、黙ってろ」


 賢人から横槍を入れられたので、巧はピシャリと頭を叩く。確かに知らなかった事ではあるが、チャンピオンとか何とか呼ばれてるくせに知らなかった、ではここの人たちに馬鹿にされる気がした。


「おぉ、流石チャンピオン様。お分かりになっていましたか。そうです、その「メタルドール」にて現在問題が発生していまして……」


「問題ですか?」


「はい。先程まで此処の常連客で交代しながらプレイしていたんですが、突然変な男共が乱入してきまして……」


「変な男共……」


「あ、さっきのじゃねぇか? ほら、変な笑い方がしたって言ったろ?」


 賢人に言われ、あぁそういえばと思い出す。確かに店から出てきた賢人がそう言っていた。


「多分、そいつらです。そいつらの内の一人が、何故かとても強くて我々がいくら挑んでも勝てないんです。それでそいつが、「俺様に勝てる奴が一人も居なければ、今日から全員手下になれ」と言ったんです。だから私はそいつを倒すことが出来るお方、チャンピオン様をお待ちしていたのです。」


 そう言い終えると同時に、その人は巧の足から手を放した。


「なんだそいつ? おい巧、そんな奴ぶっとばしてやろうぜ?」


 そういいながら賢人は、何回かパンチをする素振りをした。だが、巧は浮かない顔で


「そうしたいのはやまやまだけどさ、今から初めてやる俺がそいつに勝てる見込みが……」


「な~に言ってんだよ? 言ったろ? あのゲームはロボット物なんだぜ?このジャンルでお前に勝てる奴なんざいねぇよ」


 賢人は笑いながら巧の肩を叩く。それに乗じて


「そうですよ!チャンピオン様ならあれしきの相手に負けるはずがありませんよ!」


 先程まで座り込んでいたいかにもな人までが、立ち上がって巧を応援する。この時、実際立ってみると巧よりも身長が高い事に気づく。


「……あ~、解りました解りました。やりますよ……そいつを倒しゃ良いんですね?」


 此処まで言われると引き下がれなくなった巧は、自信がないがとにかく一度「メタルドール」をやることにした。


「さ、流石チャンピオン様! では今すぐ行きましょう!」


 巧のその言葉を待っていたいかにもな人は、すぐさまさっきの人だかりの中に走って行った。それを見た巧は、


「はぁ……やるしかないか……」


「頼むぜ? チャンピオン様?」


「へいへい……」


 賢人のチャンピオン様と言う呼び方にたいして今は突っ込む気力もない巧は、このゲームセンターGIRI☆GIRI☆の未来をになう事になるであろうゲーム、「メタルドール」が設置されている場所に歩き始める。

――それと同時刻


 ゲームセンターGIRI☆GIRI☆の店の裏に2台のトレーラーが停まっていた。GIRI☆GIRI☆の店内から伸びてきている沢山のケーブルが、トレーラーの荷台へと繋がっている。


 その中には、グラフの様なものが入り乱れて映っているパソコンが数台とそれを操る白衣をきた科学者らしき人達、そして白衣を着てはいるがそれに似合わない赤い眼鏡と赤いハイヒールを履いた女が一人書類のようなものに目をとおしながら立っている。


 すると科学者らしき人物の一人に、女が話しかける。


「それで?どうかしら?さっきから勝ち続けているこのボウヤ。見込みはありそう?」


 女はパソコンの画面に映っている、先程から店内の「メタルドール」において勝ち続けている男に指をさして聞く。


「はい、確かに数値は通常の人間のデータよりいくらか基準値を上回ってはいますが反応は見られていません。」


「そう……でも反応が無くてもこのボウヤは使えそうね。そこら辺の軍人よりは」


 そう聞いた女は少し残念そうな顔をしながら呟いた。するとパソコンを操作している男が


「博士、また新たなプレイヤーが来ました。少年のようですが……」


 そう言われて、女は画面に顔を向けた。


 確かに、学校の制服らしいのを着ているのが確認出来る。先程まで学生は居なかった、なのでこの少年のデータは初めて取る事になる。それが解ると女は、映りこんだ人影を指でなぞり期待を込めながら、


「果たしてこのボウヤは持ってるのかしら……私が探している宝箱を」


――その少し前の店内


 巧は驚いていた。人だかりの中にあっても充分に見える巨大な機械に。「それ」はどうやってこの店の中にいれたのか解らないサイズで人間が一人入っても余裕がありそうだった。そして地面には大量のケーブルがひしめいている。


 そして非常にメカメカしい外観。ロボットとかのコックピットを丸ごと切り出した物、と言っても良いかもしれない。それぐらい、今目の前に置いてあるものは凄いのだ。


「これが……「メタルドール」……」


 予想以上の物であった事に驚きが隠せない巧にたいして


「そうです。ですがこれの本当に凄さは中に入ると解りますよ」


 と、いかにもな人が言う。先程まで泣いていたのが嘘のようにケロッとしている。


「中に入れば……か。まぁ見た目だけでもうどんなんか解ってきたけどさ」


「では実際に見てやってください。今プレイしている奴が居ますが……多分負けるでしょう」


 確かに、「現在プレイ中」とその機械の入り口らしき所に文字が表示されている。


「でもよ~そんなに強いのか?だって今日導入されたばっかだぜ?同じくスタートした人間がそこまで強いってのわなぁ」


 賢人は話を聞いてから疑問に思い続けていた。確かに、今日導入されたばかりのゲームでなぜそんなに差があるのか。


「それが解らないんですよ。ただ、我々では奴に太刀打ちできないんですよ。だからこそ、チャンピオン様のお力を!」


「わ、解りましたから手を放してくださいよ」


 また必死に腕にしがみついてくるこの人に巧は少々嫌気がさしてきた。男に腕を握られるのは気分の良い事じゃない。


「嫌~、責任重大だな?チャンピオン様。負けたらそいつにチャンピオン献上だぜ?」


「他人事みたいに言いやがって……俺が負けたらお前もそいつの手下になるんだぜ?」


「なっ、ふざけんなっ!お前、絶対勝てよ?負けたら許さねぇぞ!」


「はぁ……お前はどっちの味方なんだよ」


 思い出したかのように驚いて後ずさる賢人。でも、そんな知らない奴の手下になる気は巧もさらさらないが。


 そうこう言っている内にガコンッ、という音がした。


 音がした方を見てみると、「メタルドール」の入り口らしき扉が開いて中から人が出てきた。何故か泣いている。


「あの人……負けちまったのかな」


 賢人は残念そうな声で呟く。確かにあの状態ではそう思わざるをえない。


「多分、そうとう酷い目に…………」


「ブワーッハッハ!これで終わりなのかぁ?弱すぎるぜ雑魚共がぁ!」


 隣に居たいかにもな人が話そうとした瞬間、バカでかい声が乱入してきた。その声のする方に目を向けると随分大柄な男と、小柄な二人の男が立っていた。


「流石は健吾さん。あっという間にこのゲーセンにいた奴等を倒しましたよ」


 と、右側の小柄な男が言う。続けて、


「やはり健吾さんは最強ですよ。憧れるなぁ~」


 と、左側の小柄な男は手揉みをしながら言った。


「ブワーッハッハ!それは違うぜお前ら、こいつらが弱すぎるだけだ!」


 健吾、と呼ばれた男は二人の肩を叩きながら大笑いをし始める。その様子を見ていた巧は呆れた様子で


「あんたらが負けたのって……あいつですか?」


「はい、あいつです。あの声を忘れるはずがありません……」


「あ~、そうですか……」


 念のため聞いてみたが、本当にあそこで大笑いをしている奴らしく更に落胆する。心の中では、どんな強そうな人か期待していたが結果は違かった。


「あいつ、どこぞの空き地で威張ってる歌下手ガキ大将なんじゃねぇのか?」


 と、賢人が意味の解らないことを言ったが今ガッカリしている巧の耳には届いていない。


「ブワーッハッハ! さぁ、約束通りお前ら全員俺様の手下だ。ありがたく思えよ?」


 健吾は店中の人間の顔を見回した後、また笑い始める。つられて二人の小柄な男達も。


 その時、巧の横に居たいかにもな人が健吾の前に飛び出し、


「お、お前ら、良い気になるのもそこまでだ。我々の救世主、チャンピオン巧様がいらしたのだから」


 と、目の前で堂々と宣言した。それを聞いて落ち込んでいた人達がざわざわし始める。


「あっ、ちょ、何勝手に言って……」


「あぁ?チャンピオンだぁ? どいつだよ」


「そこにいらっしゃるだろう」


 勝手に紹介されてビビる巧をよそに、巧の姿を見つけた人達は安堵の声をもらす。


「チャンピオン様だ……チャンピオン様が助けに来てくださった」


「流石だ、我々の危機に駆けつけてくれるとは」


 周りの人達は、次々と期待の眼差しで巧を見てくる。


「いやぁ……そこまで期待されても」


 巧は申し訳なさそうな顔で聞き流す。今だ自信の無い巧には、その期待が痛い。と、急に視界が暗くなった。


「へぇ? お前がチャンピオンか?」


 顔を上げると健吾の顔があった。近くで見るといかにもガキ大将な顔つきをしている。


「えーと……それは此処の人達が勝手に呼んでるだけで」


「よ~し良いだろう。お前も俺と戦え。そして負けたらチャンピオンは俺でお前は手下だ」


「……はい? 嫌、俺まだ戦う気には…………」


「決まりだな! じゃあさっさと中に入って準備しろよ。まぁ、俺様の圧勝だろうがなぁ」


「え? いやちょっと待っ――」


一方的に決めたまま、巧が何か言う前に健吾は反対側へ戻っていってしまった。


「ど、どうしろっていうんだよ……」


「とりあえずこれはもう、やるしかないみたいだぜ?」


 肩を落とす巧に、賢人は同情する。


「はぁ、しょうがねぇなぁ……」


 何を言ってもこの状況ではもうどうしようもなかった。仕方なく巧は、「メタルドール」のプレイシートがある入り口に歩き出す。


 扉の前まで来て改めて思うが、アーケードゲームと呼ぶにはとても大きい。このままロボットとかのコックピットになってもおかしくないくらいだ。他にも地面に大量に引かれたケーブル、点滅を繰り返すランプ。不思議な点は尽きない。


「近くで見るとやっぱ迫力あるなぁ。さてと、中身はどうなってんのかな?」


 巧は、ワクワクしながら扉を開けた。


 そして扉が開かれ中を見た瞬間、巧の目に映った光景は夢のようだった。


「す……凄ぇ、なんだこのリアル差。ペダルにレーダー、グリップに計器類まで…なんなんだこりゃ」


 巧の心は興奮でいっぱいだった。今、目の前に広がっている光景はゲームやアニメで良く見たことがあるロボットのコックピットの中とこれでもかと言うくらいマッチしている。これを見て興奮しない男は居ない……多分。


「ははっ、ヘルメットまで置いてある。これは面白そ……」


「おいチャンピオン!いつまで待たせる気だ?さっさと始めさせろ」


 巧が感賞にひたっていると、反対側からさっきのデカイ声が怒鳴ってきた。どうやら準備万端のようだ。


「へいへい解りましたよ。ったく、待つということが出来ねぇのかよ」


 ぶつぶつ言いながらも、巧は素早く中のシートに座り込み扉を閉めた。


「おぉ、座ると更にしっくりくるな。さてと、これをかぶって……」


 巧は、頭の近くに掛けてある先程のヘルメットをかぶる。


「良いね~、ここまで来るとパイロットスーツも欲しいくらいだな……っと、お喋りもこれぐらいにしないとまた怒鳴られるな」


 先程のように怒鳴られるのは避けたいので、急いで財布を取り出し前の画面に表示されている【1プレイ 300円】の通り300円をコイン投入口に入れた。


「これでよしっと。さ~て、ゲームスタートだな」


 300円を入れたことで、画面に表示されていた映像が切り替わりロボット――メタルドールの選択画面に切り替わる。どうやら健吾の方は既に決めているようだ。本人よろしく、選んでいたメタルドールもずんぐりむっくしている。残念ながら、カラーは黄色ではなく赤色だったが。


 だが、今の巧に色の違いを嘆いている暇はない。とりあえず、シートの横にぶら下がっていた説明書のようなものを手にとって読んでみる。


「えーと……レバーで方向転換、腕の稼働…ペダルで機体の走行、姿勢制御にー……このボタンがこれで?これがこれか……よし、操縦方法は理解した。次は機体だ」


 説明書の操縦方法のページをめくり、各メタルドールの説明があるページを開く。


「えーと……こいつがこれか…なんかショボそうだなぁ……こいつは…重そうだし……」


「いい加減にしやがれ !いつまで待たせる気だ!」


「わっ! …………あ」


 機体を選んでいた巧の耳に、ダイレクトで健吾の怒声が入りびくついた反動でボタンを押してしまい機体が選ばれてしまった。


「しまった……こいつかよぉ」


 巧が選んでしまったメタルドール、「ガーリー」はその名の様に弱々しい外見で細い腕と足、申し訳なさそうに出っ張った肩、頭にいたってはアンテナみたいだった。


 要するに、いかにもやられ役な機体だった。


「はぁ、とりあえず説明書の機体説明を…………んーと使いやすさは星五つ。要するに、初心者用って訳か。そんで、武装は…マシンガンにグレネードと……ん? これはジャ……」


「何をもたもたしてやがる! さっさと始めるぞ!」


 巧が言い終わる前に、健吾が戦闘開始のボタンを押してしまった。


 それと同時に画面が切り替わり、さながら本当にコックピットにいるような感覚のカメラに変わり、周囲には住宅地のようなものが広がり始めた。


「なっ! ちょっと待てよ! ……っくそ、こうなったらやるしかねぇ!」


 巧は覚悟を決めると、レバーを握りしめ、ペダルを踏み込んだ。


それに答えるように、ガーリーは右足を一歩踏み出した。


「お、おぉ! 動いた…これは感動するな」


 ゲームとは言え、ロボットをこんな感覚で動かせたことに巧は感動していた。その時、ふと外を見てみると巨大なスクリーンが置かれているのに気づいた。


 どうやら、二人の戦闘風景をあのスクリーンに映して全員で戦いを見守る様子だ。その中に、賢人も紛れて応援していたのを見つけた。


「あいつ…すっかり溶け込んでんな……ってかそもそもこんな事になったのはあいつのせいじゃ…………」


《ビィィィィィ!》


 その時、巧が親友に対して愚痴を呟こうとしたとき突然鳴り響いた音に視線がメタルドールの画面へと戻る。


 そこに映っていたのは、こちら…ガーリーに向かって放たれた大量のミサイルだった。


「ブワーハッハ! あばよ、チャンピオン!!」


 それと同時に、健吾の勝ちを確信した声が聞こえた。


 よそ見をしている間に健吾に見つけられ、そしてミサイルを撃たれたんだろう。巧は瞬時に察知した。


 同時に、あれを全部喰らったらこちらは倒されてしまうことも。


「――――っ!」


 だがその時、巧が何かを考える前にどうすれば良いかが頭の中で高速で処理される。今まで味わったことのない、全身に熱が駆け巡るような感覚を味わいながらこのミサイルをどう回避すればいいかの回答を頭が出そうとする。


(ミサイルの来る方向に向かってダッシュ。全弾の直撃は免れるかもしれないが少しのダメージもこの機体では後々響く。ミサイルと反対方向に回避。あのミサイルの誘導性からしてこちらも全弾回避は不可能。この機体の特殊能力の使用。ミサイル、全弾回避可能)


 何がなんだか解らない事が一瞬の内に頭の中で爆発した巧の指は、自然と一つのボタンを押していた。


 そしてそれと同時に、放たれていたミサイル達が目標に向かって跳んでいき、着弾する。


「ブワーハッハ! よそ見なんぞするからだ!それに、そんな機体でこのゴルディスに勝てると思ったかぁ?!」


 ミサイルの着弾した所で発生している、大量の煙を見て健吾は勝利を確信する。


 その様子を外に取り付けたスクリーンで見ていた人達も、あっけないチャンピオンの敗北に肩を落としていた。


「あんのバカ野郎……何してくれてんだ…」


 賢人も親友の不甲斐ない負け方に、深い溜め息をついた。


「ブワーハッハ! 喜べお前等。お前等は今日からチャンピオン健吾様の手下になれるんだからなぁ!」


 今までで、最大の声の大きさで健吾は笑いながら外に立ち尽くし暗くなっている常連達を見回した。


 唯一の希望のチャンピオンが倒された事が余程ショックだったのだろうが、健吾にとってはチャンピオンを倒したことは何とも思っていなかった。予想以上に簡単に倒せてしまったからだ。


「チャンピオン様……そんな…」


 客の一人が泣きそうな声でそう呟き、それにつられて他の客達も肩を落とした。





 だがその時、店の常連なら聞き慣れた声が店内に響いた。


「…………ったくどいつもこいつも、勝手に人の事を敗者にしないでくれよなぁ」


 その声が聞こえた瞬間、笑いこけていた健吾が瞬時に画面に目を向ける。そんなはずが無い、そんなはずが無いと思いながら。


 先ほど、健吾のメタルドールから放たれた大量のミサイルが着弾した後に出現した煙が、ゆっくりと晴れていく。


 そして、その煙の中から現れたのは…………巧が操る無傷のガーリーだった。


「ば……ばっか野郎!生きてんならさっさと出てこいよな!」


 その様子を見ていた人達の中で、賢人が真っ先にそう叫ぶ。


「嫌~、なんか急に頭痛みたいなのが起きて動けなくなってさ」


 賢人の叫びに、巧は器用にガーリーの腕を動かし、指で頭をコンコンと叩いてみせた。


 その様子を見た店の客達は、一斉に元気を取り戻した。


「流石、チャンピオン様っ!」


「わ、私は生きてると信じていました」


 次々に巧の生存を喜ぶ声が上がるが、それを打ち壊すように健吾が


「う、嘘だぁっ!た、確かにミサイルは全弾発射したはずだ!それに、あの距離じゃ全部避けるなんて不可能……」


「残念ながらコイツにならできたんだよ、それがな」


 焦っている健吾の様子を、内心大笑いしながら巧は説明を始めた。


「何で俺が無傷なのか。答えは簡単。このガーリーには、ミサイル兵器の誘導を無効化するジャマーってのが備わってたんだよ。そしてあの時、俺は説明書に書いてあったその事をとっさに思い出して発動、向かってきたミサイルは全弾回避って訳さ。弱い機体なりに一発芸を持ってたって事だな」


 と、自慢気に巧は話した。それを聞いた健吾は


「へっ、な、なんだよ、たまたま運が良かっただけじゃねえか!それに、当たらなかったんならまた撃つだけだぁ!」


 ジャマー、という物をいまいち理解できなかった健吾は、なんだろうがとにかく撃ち続ければ当たるはず、と認識してしまいレバーのボタンを押し込む。それと同時にメタルドール、ゴルディスの両肩から大量のミサイルがまた発射された。


「だからミサイルは無駄だってのに……」


 巧は呆れた顔でその様子を見ると、もう一度ジャマーを発動するボタンを押す。


 放たれたミサイルはガーリーの手前で、軌道がガクガクになり目標に当たること無く地面にぶつかっていった。


「く、くそったれ!もう一回だぁ!」


 目の前で起きている事に、理解が追いつかない健吾は同じことをもう一度繰り返す。


「よぉし、今度はこっちから行くぜ?」


 またゴルディスから放たれたミサイルを見て、飽き飽きしつつも巧はジャマーのボタンを再度押した、と同時に両足でペダルを踏み込みガーリーの両膝を曲げ、戻すと同時に背中に付いているブースターを吹かせ、向かって来るミサイルを狂わせながらゴルディスの懐に飛び込んだ。


「何ぃっ!?」


 いきなり画面に移った敵の姿に驚いた健吾は、背をのけぞらせレバーから手を離してしまった。


「貰ったぜ!」


 懐に飛び込み、そう叫んだ巧の操るガーリーの右手には、いつの間にかナイフの様なものが握られていた。


「おらぁっ!」


 巧はガーリーの右手に握られたナイフの様な物を、ゴルディスの胴体に突き刺した。それに続けて、右足で横から蹴りつける。


 その反動で、ゴルディスは刺されたところから火花を散らしながら横に倒れた。


「うおぉぉっ?!」


 ダメージを受け、座っているシートが振動しながらも健吾は急いでレバーを握り直した。


「この……ふざけやがってぇぇ!」


 直ぐ様ゴルディスの体制を立て直すと、離れていたガーリーを捉え腰に付いていたバズーカを右手に取り


「ミサイルが駄目ならコイツだぁ!」


 そう言って健吾は、バズーカの照準をガーリーに向ける。


 だが、そこに既にガーリーの姿はなく代わりに黒いボールが跳んできて、バズーカの銃口に入った。


「おっと!そんな危ないもんには、グレネードをプレゼントっ!」


 巧がそう言い切ると同時に、ゴルディスの持っていたバズーカは役目を果たさず爆発して壊れてしまった。更に、その爆発でダメージを喰らう。


「畜生っ!畜生畜生……まだだぁっ!」


 シートの振動に邪魔されながらも、健吾はレバーを動かし、ゴルディスの背中から細長い剣を抜き取った。


「オラァァッ!喰らいやがれぇっ!」


 と言うと同時に、剣を振り回し、ブースターを吹かせながらゴルディスはガーリーに突撃していく。


「ちょっ、危なっ!」


 その突進をピョンピョン後ろに跳ねながら、巧は回避していく。


「チクショウ!なんでだ?なんでそんなに動けやがる!」


 既に健吾に冷静さは無くなっていたが、ひとつだけずっと疑問が浮かんでいたので攻撃の手を緩めずにそれを叫んだ。何故、初プレイの人間が此処まで動けるのか。


「お、俺に言われてもなぁ……うわっと!」



 攻撃を交わしながら、巧も考えてみるが解らない。何故、説明書を軽く読んだだけの状態でこの動き、ましてや先に何度も操作していたプレイヤーを上回っているのか。


 単に機体の性能?なのだろうか。


 巧は原因に何となく気付いていた。先ほど、ミサイルが向かって来た時に急に起きた頭痛の様な物と同時に頭の中でされた高速の問答。あれが原因じゃないかと。


 あの頭痛の様な物が起きて巧は、何だか自分の何かが変わったような気がする。


 さっきまでの戦闘は、いくらなんでも始めたばかりの自分に出来ることじゃない。ゲームが上手いとか言われていても、説明書をパラパラ読んだぐらいでこんな風にはなれない。


 ただ先ほど、あのミサイルを見た時に「負ける」と思ったと同時に頭痛が起きて今の状態になっている。……そういえば、「負ける」という感情を抱いたのは久しぶりかもしれない。


「この野郎っ!いつまで逃げやがる!」


 不意に、健吾のいきり立った声が頭に響いてきて、巧の考えていた事が頭から吹き飛んでしまった。そうだ、今はこいつを何とかしなければ。


「そんな闇雲に剣を振り回しても当たらないぞ……?もっと良く狙わないと」


 巧は、未だに細長い剣を振り回している健吾にアドバイスをしてみる。だが、今の健吾がそれを聞き入れる訳もなく


「うるせぇ!ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと喰らいやがれ雑魚めっ!」


 と、言い返す。それを聞いて呆れた巧は


「なんだよ、せっかくアドバイスしたのに……まぁ良いか、さっさと終わらよう」


 そう言うと巧は、逃げるのを止めピタリと足を止める。そして、ゴルディスの方を向く。


「なんだぁ? やぁっと喰らう気になったか?」


 動きが止まったガーリーを見て、健吾も剣を振るのを止めてしまう。それを見た巧は


「残念、喰らうのはアンタだよ!」


 と言うと同時にガーリーを跳躍させる。そしてゴルディスの後ろに綺麗に着地し、既に左手に持っていたナイフの様な物を首元に突き刺す。と同時に腰に着いていたマシンガンを右手で持ち、撃ち始める。


「あっ?! おぉあぁぁっ!」


 一瞬過ぎて何が起きたか解らない健吾は、揺れるシートにしがみつき叫ぶしかなかった。


「うぉぉぉらぁっ!」


 マシンガンを掃射しながら、巧はガーリーをゴルディス目指し突っ込ませ左足で蹴り飛ばした。


「ぬぉぉぉっあ……!」


 またダウンさせられた健吾は、今度はレバーを離してしまいゴルディスは剣を手離してしまう。


 それを巧は見逃さず、素早くガーリーの左手を伸ばし剣を拾い上げる。


「おいおい、自分の武器を手放しちゃ駄目だろ」


 巧はそう言いながら、拾い上げた剣を持ち上げてグルグルと振り回す。


「うっるせぇ……この、返しやがれ!」


 その行動に腹が立った健吾は、もうボロボロのゴルディスを起き上がらせようとレバーを強く握り締める。が


「残念だけど、これは返せねぇよ。何故ならお前はこれで……ゲームオーバーだからな」


 巧はそう言い切ると振り回していたガーリーの腕を丁度高い所で止め、一瞬でピタリと狙いを定めると剣を持った腕を真っ直ぐ、起き上がろうとするゴルディスの頭に降り下ろした。


「なっ……てめっ…………」


 健吾の叫びが終わる前に剣がゴルディスの頭に直撃し、完璧にダメージが限界を超えてゴルディスは爆発。健吾の前の画面には、『ゲームオーバー』の文字が映る。


 そう、健吾は負けてしまったのだ。


「いよっしゃぁぁ!」


 その様子を店内に貼り出されたスクリーンを見ていた客達の中で一番最初に右手を振り上げて、賢人は大声をあげた。


 それと同時に他の客達からも巧の勝利を確信すると、安堵の声が漏れ始める。


「ふーっ……終わったぁ」


 巧自信もヘルメットを外し、自分が勝った事を確認する。実際、画面に映るガーリーが敬礼の様なポーズをとっている。


「んー……特に何も変わってない…………よな?」


 自分の手や頭、体の至る所を調べてみるがあの頭痛によって変わった所は特に無いようだ。


 それが解ると、巧は入り口のドアを開けて外に顔を出した。すると、客達による歓声を一斉に受けることになった。


「流石チャンピオン様だ!!」


「私は最初から信じていましたよ、チャンピオン様を!」


 次々に自分を誉めてくる言葉に、巧は自然と笑いがこぼれた。自分の活躍で皆がこんなに喜んでくれたんだ、と。


 だが、そんな余韻に浸る間もなく店内に怒号が響き渡る。


「なぁに勝手に勝ちましたムードになってんだぁ? 誰が一回で終わるっつったんだよ!」


 今にも爆発しそうな顔をした健吾が、客達を払いのけながらやって来る。健吾に着いている手下らしき二人はかなりおどおどしている。


「あんなもんは只の練習だ。勝ったのはたまたま運が良かっただけなんだからよ。だから機体を変えてもう一度やり直しだ!」


「はぁ? そんな事言ってなかったじゃねぇかよ」


「うるせぇ! 今決めたんだよ! さっさと始めやがれ」


 健吾は無理矢理巧を言い伏せると、また反対側に戻っていく。


「んな無茶苦茶な……」


 いきなりマグレだの何だの言われて、あからさまに自分の実力を機体のお陰だと言わんばかりの健吾に巧は呆れてため息をついた。


 賢人の方を見てみると、お手上げのポーズを取っていた。


「もしかしたら……いつまでも続くんじゃないだろな……」


 なんだかこのやり直しが永遠に続きそうで、巧は入り口まで戻る足取りが重くなった。

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