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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第3章 I-G
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予選 10


 流斗も剣を前に構えて覚悟を決める。後のことは考えない。今はここを生きて通過する。それだけに意識と燈気を注げ。


「……っ!」


 刃は辺りを見渡す。何か、何か出来ることは無いのか。

 このままでは翔矢と流斗が危ない。何か2人の力になれる事は……。


『ギィアアアアア!!!』


 グリゴレの口に溜めた炎が一直線に刃達に向けて放たれる。流斗は全力で燈気を練り込み、


「『弐紋字・水壁すいへき』!」


 巨大な水の壁を作り出した。炎が壁に当たった瞬間に蒸発を始める。それを流斗は後から水を送り込んで押さえ込みにかかる。


「(……っ、ダメだ、間に合わない!)」


 水を送り込むより、翔矢が逃げるスピードより、グリゴレの炎の方が早い。このままでは、本気で死ぬかもしれない。


「ああああああああ!!!」


 それでも翔矢は諦めない。全速力で前へ、前へ、前へ。流斗を信じて進み続ける。


「(……何か、俺に、何か出来ること……!)」


 そうして、刃は決意する。『アレ』を使おうと。


「流斗、翔矢。俺を、信じてくれるか?」


「……何か、策があるのか!?」


「あぁ、俺が良いと言ったら水の壁を解いてくれ。その後は、俺がやる」


「……わかった」


「……行くぞ」


 刃はズタボロの右手を握ってイメージする。力をこの手に顕現するイメージを。

 刃の手に輝きが集まる。その輝きは強く、強く、強くなって。


「……お前、まさか!?」


「……解紋!!!」


 その声と共に右手を振ると、その手には金色に輝く剣。


「お前……いつの間にI’temを……」


「話は後だ! あんまり持たないからな」


 刃はその剣を前に構える。チャンスは一度。これをミスれば、後はない。

 何より、翔矢を、流斗を、助けたいんだ。違う、助けるんだ。絶対に!


初紋字ファーストスキル──」




          ✩




「……さて、これで全員か?」


「そうみたいですねー」


 扉を通ってゴールまで来た熱田は柊に確認する。ゴールでは熱田に飛ばされた男子が死屍累々な様子で倒れていた。

 と、その時だ。


──ドォン!!!


『!?』


 物凄い爆発音。同時に何かが崩れる音。

 まさか、崖が崩れた? いや、ありえない。

 なぜなら、この崖の辺り一帯は燈気によるコーティングがなされている。たとえグリゴレがトップスピードで体当たりしたって壊せやしない。

 しかし、今の音はどう考えても……。


「柊! ここは任せたぞ! 『激』!」


「は、はい! お願いします!」


 柊に後を任せて熱田は急ぐ。目指すはその音の先。出来れば、最悪の事態は避けていてくれと。




「…………こりゃ、いったい」


 そしてたどり着いた先で熱田が見たのは、信じ難い状態だった。

 崖が、崩れている。それだけでは無い。その下では委員会が管理していたグリゴレが瓦礫の下敷きになってのびている。


「……これは」


 熱田は崖の壁に手を当てて確認する。完膚なきまでに燈気のコーティングが破壊されていた。力ずくで破壊したとは考えられない。

 まるで、燈気そのものを奪われたような……。


「……いったい、どんな手を使いやがった?」


 もしこれを誰かが意図的にやったのだとしたら、そいつは燈気のコーティングを完膚なきまでに破壊できる、つまり、防御すら完全に無効化してダメージを与えることが出来るということ。

 危険だ。あまりに危険すぎる。急いで調査しなければ。

 とにかく、ここより先にいるチームに話を聞いて──


『──あ、熱田さん! 聞こえますか!?』


 と、急に柊からの『通信テレパス』が届く。これは緊急の時にしか使わないはず。ということは……!


「そっちで何かあったのか!?」


『は、はい! 私じゃどうしようも……あ、熱田さん、早く帰ってきてください! じゃないと……死』


──プツン、と通信が切れる。まさか、これをやったやつは生徒じゃなく、部外者?

 そして、今度はグリゴレではなく生徒を標的に……!?


「ふざけおって!!! 『激』!!!」


 さっきとは比べ物にならないほどのスピード。そして、一瞬にしてゴールにたどり着いて……。




「…………」


 その光景を、熱田は目の当たりにする。


「あんたバカじゃないの!? ただでさえ私達の評判はガタ落ちしてんのに、その格好でゴールするとか何を考えてるわけ!!?」


「ひ、光ちゃんそのくらいで! 刃君もう意識ないから! これ以上はまずいから!」


「……光、落ち着いて」


「そ、そうですー、お願いですから、落ち着いてくださいよー!」


 女生徒がセーラー服の男子生徒の襟を掴んで激しく揺さぶっており、そこを別の女生徒と柊が止めているところだった。

 その傍では男子生徒2人がスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。


「あ! 熱田さん、お願いしますー! 私じゃ、止められないんですーーー!!!」


「……はぁ」


 泣きながら懇願する柊の声に脱力してしまう。さっきまで深読みしていた自分が恥ずかしくなってきた。

 あれの件は気になるが、今はいいか。熱田は考えるのを諦める。たとえコイツらだったとしても、考えるだけ無駄な気がするから。




──こうして桜ヶ峰高校1年、参加メンバーは予選突破を果たしたのだった。

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