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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第3章 I-G
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予選 9


「あのグリゴレは見た目以上に頭がよくてな。主の命には絶対従う。その主がこの大会の主催者だとしたら、そいつが『俺達だけを狙う』みたいな公平じゃない命令は出せないはずだ」


「……どういうことだ?」


「これはあのピエロの独断の可能性が高いって話さ。もし俺らを追って邪魔をしろという命令なら明らかなルール違反だ。ならば、それを許可できる特別な理由を立てなければ成り立たない。例えば、『現1位と他の差が開き過ぎていて他選手のやる気が低下している、これはいけないから今の1位の邪魔をしなさい』とかな」


「……ずいぶんねちっこいピエロやな」


「それでもなかなか危ない橋だがな」


『ギィャァァァァ!』


 翔矢を追うグリゴレはさらにスピードを上げ、少し上昇する。


「翔矢、あいつ前を取る気だ!」


「そうはいくかいッ!」


 前を取られたら完全に通せん坊されてしまう。それだけはさせまいと翔矢はさらにスピードを上げた。


「(す……げえ! こんな早くいけんのか!?)」


 刃も流斗も言葉を交わせない。これがいつも見ている翔矢の世界。翔矢の正真正銘のトップスピード。

 景色が後ろにただの色となって流れていく世界。


「……っ!」


「(翔矢!?)」


 もはや翔矢は息をするのも忘れて、ただ走る。身体は悲鳴を上げている、きっと暫く動けなくなる、体の到る場所から出血している。それでも……翔矢はただ走る。


「負けるか……ワイらは、負けへん! お前らがいる限り、ワイは負けん!!!」


 言い聞かせるように、自分の体にムチを打ち続ける。


「(……流斗!)」


「(……わかってる)」


 刃と流斗は視線だけで会話を交わす。翔矢がここまで頑張っているんだ。自分たちだけお荷物というわけにはいかない。


「『弐紋字セカンドスキル水龍すいりゅう』!」


『ガアアアアアアア!!!』


 流斗の剣から放たれた水の龍。それがグリゴレの右翼に牙を向く。


「うおりゃあああああ!!!」


 刃は左翼に向けてジャンプ。グリゴレの大きな翼に捕まってみせる。

 そして、火傷が残る右手に燈気を集中。左手は体を固定するために使っているから、今回はさっきみたいに火傷程度じゃ済まないこともわかってる。


 でも、それでも、翔矢の頑張りに応えなきゃいけない。だから、


「『初紋字・爆』!!!」


──コイツを、落とす!


 刃の一撃と流斗の龍、2人の攻撃が同時に空を飛ぶグリゴレの翼にクリーンヒット。


『ギィアアアアア!?』


──ズドン、と鈍い音と共にグリゴレが地に落ちる。刃も勢いで振り落とされそうになるが、流斗が繋がっていた鞭を使って逃がしてくれた。


「へ、へ、さんきゅー、流斗」


「喋るな。今、腕を冷やしてる」


 刃の右腕は酷いものだった。腕全体に火傷の痕。流斗はすぐに水で腕全体を包んで冷やす。


「……っはー! しんどかった!」


 さすがの翔矢もバタンと地に仰向けに。相当に体力を使ったのだろう。


「……2人とも良くやった。これであとはゴールするだけだ。地面にめり込んだグリゴレのお陰で後続がすぐに追いつけないし、これで──」


 そう、これで全てが終わった、そう3人が安堵した時だった。


『……ギィ!!!』


 殺気。刃達がその気配に振り向くと、


『ギィアアアアア!!!』


 なにやらグリゴレが口を開いて構え、その口の前に何かが集まっている。


「流斗……あれって……」


「……稀に、グリゴレの個体には炎を吐ける個体も確認されていると聞いたことがあるが……」


 真っ赤に燃える目が自分達を真っ直ぐ狙う。まずい、これは本格的にまずい。


「翔矢!」


「わかっとる!」


 刃と流斗を担いで急いで翔矢は逃げる。一直線に、我武者羅に。


「(あれを防いでもこの一本道、炎に包まれたら死ぬ。俺の紋字で防ぎつつ逃げるしかない!)」

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