予選 8
──ブチブチッ!
『貴様!? さっきの説明でわからなかったのか!? 私に不敬な態度を取れば難易度最難関の問題を出すことも出来るのだ! そうなれば貴様らなど一瞬で最下位だ!』
「(お、おい流斗!? そんなこと言ってないで謝れって!)」
「(せやせや! ここまで戻ってくんのはワイかて骨やで!?)」
刃と翔矢が後ろからこっそり謝るよう促すが、流斗は不敵な笑みを崩さない。
「別に構わないさ。俺は計算問題以外ならどんな問題でも答えられるからな」
『……ほう? 貴様、計算問題は得意では無いのか』
ハッと口を塞ぐ流斗。しかし、ピエロは下卑た笑みを浮かべる。
『アハハハハハハ、馬鹿め! 語るに落ちたな! ならば貴様には計算問題を3秒で答えてもらおう! もう変更はできんぞ!』
「ひ、卑怯だぞ!?」
流斗はそう焦ったように抗議したのを確認すると、さらにピエロは嬉しそうに口角を上げる。
「「…………」」
刃と翔矢は何も言えない。しかし、それは絶望からではない。
所謂、それは憐憫。憐れみと呼ばれるもので。
『なんとでも言え! 私をバカにしたことを後悔させてやろう!』
「や、やめてくれぇ!」
『嫌だね、問題だ! 5842×2458は!!?』
「14,359,636だ」
『…………は?』
「14,359,636だ」
──ピンポーン!
その正解の合図と共にピエロの額の数字が『5』になった瞬間、扉がゆっくりと開いていく。
流斗はニッと笑って、その開いた門を通過した。
『き、貴様、まさか……!?』
「こんな古典的な罠に引っかかるとはな」
そう、全ては流斗の仕組んだことだ。
流斗の得意科目は理数系。特に数式の暗算は一瞬でやれてしまう。
その得意科目を引き出すための挑発、そのための嘘、そのための誘導。
『い、今のは無しだ! 門のこっち側へ戻れ!!!』
「そんな権限はお前にはないだろう? 俺を止められなかったのがその証拠だ。刃、翔矢、行くぞ」
「あ、あぁ」
さっきと同じく翔矢の体に刃と流斗の体を固定する。流斗は最後に振り返って門に言った。
「問題を出すより、まずは肝心のその頭自体をを賢くする方が先じゃないか? ピエロさん」
『私を……バカに、しやがって……あのガキ……!』
行ってしまった彼等に残されたピエロは悔しさに顔を歪ませる。してやられた。
許さない。あのガキ共、特にあのいけ好かない男だけは、私をバカにした報いを受けさせてやる。タダではゴールさせない、絶対にだ。
『……これだけは、使うまいと思っていたが』
もういいだろう。そう、あいつらが早すぎた、それを理由にすればいい。
そうすれば、立派な『妨害する理由』になり得る。
『こーーーーい、グリゴレぇ!!!』
✩
「まったく……おっそろしいやつを味方にしたもんやな」
「心強いといってほしいな」
そんな会話を交わしながら、3人は依然としてゴールへ向けて爆進中。これは最早、自分たちの独走状態だろう。
「これで随分と余裕もできたはずだ。翔矢、もう少しスピードを下げてもいいぞ。このペースはいくらお前でも──」
「何言ってんねや! ワイは余裕やって! このまま3人でゴールすんでぇ!」
「……翔矢らしいな」
呆れ気味に、しかし嬉しそうに刃は笑った。息も絶え絶えな癖に無理に笑ってみせる翔矢は相変わらずだ。
「まぁ、あのピエロのことだ。何とかして俺たちをゴールさせまいとしてくるだろうな」
「なんやとぉ!? せやったらさっさとゴールせな!」
翔矢は体勢を前屈みに倒しスピードアップ。しかしその時、
『ギィャァァァァ!!!』
『!!?』
さっきの甲高い鳴き声。刃が引きずられながらも後ろを確認する。
「なっ、なんであいつがくるんだ!?」
「……『怪鳥・グリゴレ』。予想通りだな」
刃達の後方から崖の間をギリギリで羽ばたきながら、あの怪鳥が後を追って来ている。しかし、それでも流斗の笑みは崩れない。
「……もしかして、さっき最後にピエロに嫌味を言ったのも……」
「もちろん、コイツを引っ張り出すためだ」
グリゴレは今現時点の翔矢のMAXスピードに、ぴったり追ってきている。




