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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第3章 I-G
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予選 3


「さて、今回の俺の考えた予選だが、ここに来た奴らはラッキーだ! なにせ俺がこれから行うのは、『障害物競走』だ!」


「……しょ、障害物競走?」


「そう! 人数は3人1組のスリーマンセル。これからこの先にある障害物を乗り越えてゴールにいち早く辿り着いた10チームを予選クリアとする!」


『つ、つまり、早い者勝ちか!』


『しかもただの障害物競走なら、足が早いやつが多くいればいいわけね!』


『こりゃラッキーだぜ!』


 さっきの絶望ムードから一転、周りが一気に浮き足立つ。確かに変なことをさせられるより内容は単純。これならいけると全員が顔を明るくする。


「……」


 しかし、そんな中で流斗は神妙な面持ちで考え込んでいた。


「……どうしたんだ流斗。嬉しくないのか?」


「……いや、そんな簡単な話かと思ってな」


「どういう意味や?」


「……ここに来るまで、俺たちは相当の山道を来たはずだ。こんな山中に、まともなコースがあるのか?」


 言われて考えてみる。確かに、こんな山の中にしっかりしたコースがあるのだろうか。


「でもって、これが今回の特別コースだ!」


 熱田が指を指すのは、目の前にある崖の先。我先にと自分たちが挑むコースを目の当たりにし、


『…………』


 覗きに行ったものから、順々に言葉を失っていく。


「……?」


 周りが静かになってようやく刃達も異変に気づいた。

 なんだ? なぜこんなに静かになった? 刃達は崖の先を見て、


「……な!?」


 思わず絶句した。その先にあった光景に。


「まさか……嘘だよな? ここをリレーするなんて言わないよな?」


 その刃の心をへし折るように、熱田は笑顔で告げた。





「そのまさかだ! 題して、『実際に崖っぷちに立って落ちてみよう! 虎穴に入らずんば虎子を得ず! 人生崖っぷちリレー』だ!」





「(やっぱこの両端が切り立った崖の下を走り抜けんのかよぉ!?)」


 皆の視線の先には深い崖の道。そのゴールははるか先まで見えやしない。


「ちなみにゴールまでの距離は約50㎞! 短いかもしれないが我慢してくれよ!」


『ご……50!?』


 シャレになってない。今ここにいるメンツは、ここに着いてくるだけで燈気と体力を使ってしまった者がほとんど。この上にこれから長距離走とは誰も予想していなかった。


「ただーし、参加しないものは俺たち先生がゴールまで送ってやる! メンバーが決まったものからここからスタートして良し!」


「……へっ?」


「……こりゃ、随分とタチが悪いな」


「どういう意味だよ、流斗」


「見てみろ」


 言われて刃が辺りを見ると、


『お前がいけよ! 俺はもうほとんど燈気がないんだ! お前足が早いんだし適任だろ!?』


『何言ってんだ! 今から行ったら夜になる! 火属性のお前がいないと凍死するだろう! お前が行くべきだ!』


『足が早いやつから3人でいいじゃん! 早くしないと出遅れちゃう!』


「こ、これは……」


 辺りは軽いパニック状態だった。体力が無くなっているやつはなんとか他のやつに押し付けて楽にゴールまで行こうという魂胆。しかし、誰もやりたがらないからなかなかメンバーが決まらずスタート出来ない。

 押し付け合い、早い者勝ちということからの焦り、そうすればどうしたって仲違いが発生する。


「……走ってる間に夜が更けそうな崖の下を走り抜けるんだ。こんな時こそ慎重なメンバー選出をしなくちゃいけないのに、先着にしたことからの焦り、疲れから来る苛立ち、それをわかっててこの予選内容……あの熱田って先生、相当のSだな」


 流斗が苦笑気味に熱田を見ると、嬉しそうに指を立てて笑顔で返す。


「ど、どうする流斗。3人しかいけないんじゃあ……」


「……翔矢は確定だ。体力的にも問題ない。それ以外を誰にするか──」




──ガシッ!




「「…………は?」」


「せやったら決まりや! 行くでぇ2人とも!!!」


 流斗が考えをまとめている時だった。翔矢が刃と流斗の肩を掴み、


「「お、おい翔矢!?」」


「おっさきー!」


 一気に崖を飛び降りた。


「え、ええええええ!!?」


 刃と流斗を掴みながら翔矢は3人まとめて真っ暗な崖の底へと落ちていく。


「お、おい翔矢!? お前なにして──」


「早い者勝ち言うたやろ! なら先手必勝!」


「り、流斗! いいのかこれ!?」


「……今更言っても仕方ないからな。俺たちで行くしかないだろう。でも翔矢、ひとつ聞かせろ」


 その流斗の声におちゃらけた様子はない。真剣な話だということがわかる。


「……なんで俺達なんだ? 他に今回の勝負に適した人材はいた。例えば亮なら空を飛んで上からショートカットできるし、光なら障害物から翔矢を守りながらサポートできるし体力もある。鎧亜は言わずもがな。その中で、なんで俺達を──」


「何言ってんねん。何かやる時は、いつもワイら3人で、やったろ?」


「「……!」」


「ワイが行くなら後の2人はお前ら以外有り得んし、それなら最強や」


「そ、それは昔の話で、俺なんかほとんど役に立たないだろ」


「……それにな、腹立っとるんや」


 と、そこで翔矢の握る手に少し力が入ったのがわかる。


「……翔矢?」


「……ワイはな、嫌いなもん時々ある。食べ物とか色々あるけど、特に嫌いなことがある」


 その『嫌いなこと』に、刃達は心当たりがある。翔矢の苛立ちはいつだって、


「……ワイの友達ダチを笑ったヤツらに一泡吹かせてやらな、気がすまん!」


 友達のため。そういうやつだと知っていた。

 おそらく、さっきの刃への罵倒が翔矢に火をつけたのだろう。


「……翔矢」


「……仕方ないか。こうなれば気持ちも作戦も切り替える。翔矢、下まであとどれくらいだ?」


「風の感じからすると、あと20秒ほどで地面やで!」


「よし。なら先行逃げ切りで行く。地面に着いたら翔矢は俺と刃の体を浮かせろ。俺が翔矢と俺たちの体を固定した瞬間、風で感知しながら全力で走れ! 俺が光源を作るから刃は目視で辺りを警戒、異変や危険があれば知らせろ!」


「「了解!」」


 なんだか懐かしい。確かに、昔はこの3人で色んな事をやっていた。

 この3人なら、どんなことでもできる気がしていた。


「着くで!」




──スタン。




 真っ暗な闇の中で翔矢が地面に着いた。その瞬間。




──パッ!




「「「!?」」」


 勝手に崖の下が明るくなる。何やら崖が光っていた。これはおそらく、


「……俺達が来たら、仕掛けが動くようになってたみたいだな」


──ガコン! ガガガガ……!


 何やら機械的な音と共に何かが動き出す。間違いなく、ろくでもない仕掛け。


「……行くぞ。気を引き締めろ、刃、翔矢。俺たち3人に負けはない! 予選は1位で突破する!」


「「おう!!!」」


 そしてとうとう、始まった。

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