開会式 5
「しかし……バッチがないと中には入れないし、もう式も始まってしまったな」
困り果てた様子の警備員の言葉にも何も返せず、刃は小さく蹲った。
「(うう……今からこの会場の全廊下を探すなんて無理だ。間に合わない。やっぱり……俺に『I-G』なんてのは淡い夢だったのか? 『I-G』に出るなんて、夢のまた夢だったのか?)」
思えば、藍が来た頃からいい事続きだった気がする。これは、そのしわ寄せみたいなものだろうか。
そう、藍が来た頃から幸せが過ぎたのだ。だからきっとこんな──
「……ん?」
瞬間、刃はあることを思い出す。
「っ!? 藍!」
そう。思い出すのは鎧亜に会う少し前。藍にはどういうわけか分からないが『結界を破る力』があることを思い出したのだ。
「藍がいれば……もしかしたら!」
この結界を破って中に入れるかもしれない。刃は急いで復活すると、観客席へ走る。
「(たしか藍は藤先生達に渡して、女将さん達が来たら一緒に連れて行く算段になっていたはず! ならもう時間的に……この会場には来ているはずだ!)」
「アーーーーイ!」
「こら、藍。あんまりはしゃぐんじゃないよ」
刃の予想通り、藍と早苗、藤と溝渕は観客席にいた。
広いアリーナを囲むように設置された5階建ての席の2階席、礼台の真っ正面の前から5番目。見晴らしがいい絶好の場所だ。
藍はファンファーレに合わせて笑顔で手を叩き、上機嫌で体を揺らして「アーイアイ」を連呼している。
✩
「ウオォォォォォォッ!」
刃はダッシュ全開。人間の限界を越えたMAXスピードで廊下を駆け抜ける。
「まぁ~てぇ~! じーん! ゼェ……ゼェ……待つんじゃ~!」
後ろから来る青作業着にも気付かずに、全力疾走。
「あーーーーい! ど~こだぁ~!!!」
✩
──ピクッ!
「ん? どうしたんだ、藍」
藍は今まで言っていた「アーイアイ」を止めて、急に固まったのを疑問に思った早苗がそう聞いたときだった。
「アイッ!」
そう言ってピョンと早苗の膝の上から降りると、
「アーーーーイ!」
人の足の間を縫って、走ってどこかへ行ってしまう。
「お……おい藍!? どこ行くんだい!? 止まりなさい!」
「『かいも──」
『オキャクサマ!』
藤が『解紋』しようとしたとき、空を飛んでいた警備ロボが物凄いスピードで寄ってきた。
『オキャクサマ、会場内デノ『解紋』はオ控エ下サイ!』
「なっ、今はんなこと言ってる場合じゃ──」
「……もう遅いみたいだ」
その溝渕の声に反応して藤が藍の行ってしまった方を見ると、もう人がごった返していて、藍の姿はいずこかへ消えていた。
「ちっ、手分けして探すぞ! まだ遠くには行ってねえはずだ。10分後に一旦ここに戻るぞ!」
溝渕の言葉にうなづいて、藤と早苗も四方に散ったのだった。
「おい、藤!」
早苗が行ったのを確認してから、溝渕は藤だけを呼び止める。
「何よ、急がないと藍ちゃんが遠くに行っちゃうわよ!?」
「そりゃわかってるが、さっきみたいな危ない橋はやめろ」
「…………あぁ。『解紋』しようとしたこと」
藤がそう言うと呆れ顔でもう一回ため息を吐くと続ける。
「それもそうだが……目立つ行動は避けろ。俺らの素性がバレたらどうする?」
「……」
その言葉に藤は目を細め、両者、真剣な眼差しで睨み合う。
「それはアイツの計画破綻を意味すんだぞ?」
「…………すいませんわ。少し軽率すぎたわね」
その言葉を聞くと、溝渕は安心した様子でフッと優しく笑って腕を組む。
「まぁわかってるならいいんだがな。よし、行くか。あのおてんば姫の回収に。くれぐれも『解紋』はすんなよ?」
「わかってますわよ」
その言葉を合図に、2人はそれぞれ藍を探しに散った。




