7『いつもと変わらずに君は』
「ほらほらぁ! 光ちゃんしっかりしないと壊されちゃうよぉ! 負けちゃうよぉ!」
「グッ……!」
光は歯を食い縛りながら、『甲』でなんとか棒が倒れるのを防いでいるが、周りからの攻撃が止むことがない。
しかしここまで計画しているだけあって、ちゃんと悪役の方は自軍の棒の前にはちゃんと3人見張りをたて、中間に金本達3人が何があっても大丈夫なように最前線には参加せずに構え、前の矢田を含めた3人で光の『甲』を叩いている。
油断も隙もない、完璧な布陣だ。
「くっそぉ!」
周りに倒れていた1人がなんとか立ち上り金本達へ向かうが、
「『爆』!」
そう叫んで金本が持っていた金色の巨大なハンマーを打ち付けると、地面と共に大きな爆発が起こる。
「ぎゃあ!」
爆風に吹き飛ばされ、再び動けなくなる。ダメだ……こんなもの勝てるわけがない。
「……仕方ない、じゃんか」
こんなもの、どうしようもないじゃないか。なんだかんだ言っても、この世界はI'temの強さが全て。自分1人で何ができると言う。
I'temもない。流斗のように知略を巡らせる頭も、翔矢のようななんでもこなせる身体もない。
そんなもの、自分ではどうしようもない。どれだけ影で努力したって、無駄なんだから仕方ないじゃないか。
「ほらぁ、さっさと諦めなよ光ちゃん!」
そうだ、諦めろ。潔く諦めて、走ることをやめれば楽になれる。そんなことは、ずっと前から知っている。
「さっさと諦めて謝りなよ! そうすればこの体育祭を壊すことだけは勘弁してあげてもいいよぉ!」
そうだ、謝ってしまえ。『火野刃は弱い』という事実を認めるだけ。ただそれだけなんだ。
そうすれば、もうこんな無駄なことをすることも、傷つくこともないんだ。
誰も、俺のために傷つくことなんてない。
「さぁさぁさぁ! 『火野刃は弱かったです、嘘ついてホラ吹いてごめんなさい』ってさぁ!!!」
ただひと言。それを言うだけだ。
そうすれば、もう──
「……ふざけんじゃ、ないわよッ!!!」
「……っ!!!?」
光の怒号に、思わず刃は俯いていた頭を上げる。
「あんたが、あいつの何を知ってるの!? あいつの努力も、苦労も、悲しみも、何も知らないあんたがあいつのことを語る資格なんてないわ!」
『──ほら、行くわよ、刃』
刃の脳裏によぎるのは、昔からの光の姿。そして、その言葉。
「あいつが弱い? バカ言わないで! あいつは強いわ! あいつはI'temなんてなくても、自分を信じて貫く強さがある!」
『うん、いい感じじゃない! いい筋よ』
違う、それはお前が俺を信じてくれたからだ。だから、俺は強くなれてると思えた。
「自分には可能性があるって、諦めずに真っ直ぐ進む強さがある!」
『ほら刃! さっさとしてよ、私の訓練に付き合ってくれるんでしょ?』
違う、それはお前が諦めそうになったとき鞭打ってくれたからだ。だから俺は諦めずにいられた。
「そこから逃げずに立ち向かえる強さがある!」
『逃げたら殺すわ♪』
違う、それはお前が逃がしてくれなかったからだ。
「もう一度言う……あいつは強いわ! あんたなんかより、あんたたちなんかよりずっと! あいつをバカにするのは、私以外許さないから!!!」
「……ほんと、容赦ないよな。あいつ」
逃げたいときもある。投げ出したいときもある。でも、それをさせてくれないやつらがいる。
前を走りながら、でも、ずっとこっちを振り向いて引っ張ってくれるやつらがいる。
『なんや刃! やっときたんか』
『全く、待つ方の身にもなってくれ』
──俺を、待ってくれるやつがいる。
「……流斗、翔矢。ちょっと行ってくるわ」
「おう」
「気ぃつけてな♪」
刃は目元を拭い、前を見据える。この先にどんなものがあっても、きっと止まることはできない。
自分のためなんかには動けない。でも、きっと他のことでなら……。
「これも、言い訳なんだろうな」
でも、言い訳は言い訳でも、これは"好きな言い訳"だ。
「刃、間違えるなよ」
「……あぁ」
流斗の忠告を胸に刃は真っ直ぐ走り出す。真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに。
「……あぁ、わかったよ。光ちゃんがそんなに惨めな姿を晒したいなら……」
自分のためじゃない、自分を信じているやつのために。
「お望み通りにしてやらぁ!!!」
「……ッ!」
──俺が、守りたいもののために!