開会式 2
「参加選手の方々ですね」
と、中にいたボーイさんが話し掛けてくる。
「えぇ。よろしくお願いしますね」
「はい。では皆様、バッチを御着けになって、9時には開会式が始まりますので、8時50分までには外に並ぶ準備をお願い致します」
ボーイはそう言うと軽く会釈をして去っていった。
「今は……8時23分ですか。まだ時間に余裕がありますね。皆さん、今のうちに御手洗などは済ませておいてくださいね」
✩
刃達はトイレを済まして休憩スペースの1番正面口寄りのベンチに腰掛けて、その時間を待った。
その間にもいろいろな高校生徒が入ってくる。
『ねぇねぇ、あれ桜ヶ峰高校でしょ? 優勝候補№1の……』
『厄介そうだな。桜ヶ峰は……』
『ねぇ、桜ヶ峰の1番右の人超かっこよくない!?』
『えぇ~、私は隣の金髪の人の方がタイプかな……』
『うぉっ、あれが桜ヶ峰! 特待生もいるのか』
入ってきた人がこちらをチラチラ見ながら思い思いの感想を言ってるのがバッチリ聞こえる。
「……注目を浴びてんな、俺ら」
「当然だ。2年連続で1年の部は優勝しているんだからな」
「まぁ、ええやん。ワイは嫌いやないで、こういうの」
そう言って翔矢は噂している女子の方に軽く手を振ると、黄色い歓声が返ってきた。さっそく翔矢のファンが増えたようだ。
「なぁ、アンタら桜ヶ峰の生徒だろ?」
と、その中の1人が缶ジュースを腕いっぱいに抱えてやってきていた。
「……そうだけど」
「そっかぁ! 実は俺、アンタらのファンなんだ! これ、お近づきの印にやるよ!」
そう言ってジュースをそれぞれに手渡してくる。
「……ほぅ、わざわざ悪いな」
良くしてもらったというのに、流斗の表情が少し暗くなる。
「あぁ。お互いに敵同士ではあるけど、お互い頑張ろうぜ!」
「あぁ。こちらもお礼がしたいから、是非君の学校と名前を教えてくれないだろうか」
流斗が笑顔でそう言うと、少し彼の笑顔が歪む。
「い、いや、大したことじゃないし、気にしないでくれ! じゃあまた!」
そう言って足早に去っていく。流斗は1つため息をついた。
「……いい人だったね。私達も頑張らないと!」
「……亮。残念ながら、これは飲むな」
「……え?」
「蓮、見てくれるか?」
コクッと1回頷いて蓮はその缶ジュースに燈気を流して確認する。
「……下剤が入ってる」
「えぇ!?」
「やっぱりな」
大方、優勝候補の桜ヶ峰を潰す策だろう。
「……捕まえるか?」
「いや、いい。この人数でことを荒立てて暴れられでもすれば、桜ヶ峰の信用も落ちるかもしれない」
翔矢に返してため息を吐いてから、流斗は缶ジュースをゴミ箱に投げ入れる。
「まったく、こんな古典的な方法で妨害出来ると思ったのかしら?」
「普通に考えたら、こんな怪しいもの飲むやつはいない。いるとしたら相当の考え無しかバカしか──」
──ごく、ごく、ごく。
「ぷふぁ! うめぇ!」
『…………』
缶ジュースを開け、一気に飲み干す刃が1人。
「──!?」
そして突然の腹痛に腹を抱えて背を丸める。
「な、なんで急に……さっきトイレに行った時は大丈夫だったのに……!?」
「……刃」
「い……いや、ちょい腹が痛くて……、もっかいトイレ行ってくる!」
そう言ってトイレに走っていく後ろ姿に、さっきより深いため息を吐く流斗であった。
✩
そうして刃は真っ直ぐにトイレに直行。しかし、
「……うそ、だろ?」
さっきとは比べ物にならない大混雑。これは、出るまでに間に合いそうにない。
「(そりゃそうか……整列まであと10分くらい。そのあとは開会式が終わるまでの小一時間くらいは外で待たされるから、先に出したいもんなぁ!)」
しかし、こちらも悠長なことは言っていられない。爆発する前になんとかしなくては!
そう考え、刃は別のトイレへダッシュ。
「……うお」
状況は同じ。これは、本気でまずい。
「(ま……まだだ、まだトイレは4箇所もあるじゃないか!)」
──そう、4つもあるのなら、
「うぉ」
どこか、
「……うぉぉ」
ひとつくらいは……。
「うおぉぉ」
──空いてるはずだ!!!
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
全滅。
「(やべぇ、本気でやべぇぞこれ!? 俺のあれとパンティーが『こんにちわ♪』する前になんとかしねぇと!?)」
どこかにいないのか救世主、ヒーロー!
今だけはヒーローは俺じゃなくていいから、誰か俺を助けて!
そう切に願う刃の前に。




