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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第3章 I-G
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そして、それは始まる


──こうして合宿最後の夜は、部屋の破損の修復と片付け、それと刃達男子の馬鹿騒ぎが破損の原因と勘違いした女将さんの雷で幕を閉じた。


 説明など無駄。誰が「ジェンガやっててテレビ壊れました」なんて言ったところで信じるというのか。ただ、ここは怒られるしかないのだ。




          ✩




「……じゃあな。いろいろ世話になった」


「『あぁ。昨日の夜の記憶がどうも曖昧だがな』」


 断と和真は意識を取り戻すと、完全に昨夜の記憶は消えていた。

 和真に至ってはあの中でパソコンは抱き抱えて文字通り死守したのだから、アッパレとしか言いようがない。

 彼らが思い出さないよう、これ以上は何も言うまい。


「いや、こっちこそいろいろとすまなかった。……きっと家に帰ってもしばらくは苦しめられることになるだろうが」


 断のリュックの中には『あれ』があるからな。見て思い出しかねない。


「……? 何の話だ?」


「こっちの話だ。忘れてくれ」


「皆様、次は対戦場での再会となりますわ! その時までせいぜいぶざまな醜態を晒さぬよう、精進なさいませ!」


 オーッホッホッホと高らかに笑うと麗香が一番始めにバスに乗り込んでいく。あれはおそらく、彼女なりの叱咤激励なのだろう。


「では……亮さん。次は本気で戦えることを楽しみにしてますね」


「はい」


 そう言ってカナ、それに続いて断と和真もバスに乗り込む。


「ケケケ……世の中広ぇな。てめぇみてぇなやつもいるとは」


「は? なんのこと?」


 無限に少し距離を置かれて話しかけられても、光に自覚はない。光はあくまでジェンガで遊んでいただけなのだから。


「まぁ、てめぇもだがな。取巻きA」


「その呼び方やめろって……」


 そう返すと無限はケケケと少し嬉しそうに笑って続ける。


「おい」


「今度はなんだよ」


「……次は、完膚なきまでにぶっ潰す。火野刃」


「……望むところだ!」


 そう、次に会う時は敵同士。嫌でも決着は着く。


「俺様たちと戦うまで、負けるんじゃねぇぞ」


「こっちのセリフだ」


 そう言うと無限は少し嬉しそうにバスに乗りこんでいく。刃も少し嬉しかった。でも、次はこうはいかない。少しでも近づかなくては。


「じゃこりぇ(これ)でおいとまするかのぅ! また戦えるのを楽しみしとるじょ、桜ヶ峰高校、生徒諸君!」


『はい!』


「ではのぅ、宮守雅人! 今年も来年もI-Gはワシらが勝たせてもらうからのう! ペーッペッペッペッペェ!」


「そうはいきません。それに……来年は……」


「……なんじゃ? 怖じ気づいたのか?」


「……いえ、なんでもありません。勝ちますよ、私たちは」




「じゃあなー! また会おうぜぇ!」


「せいぜい腕を磨いてきてくださいましー!」


「みなさーん、また……お会いしましょー!」


「『グッドラーック、ヒャハハハァ!』」


「今度はしっかり、てめぇのI'tem見せろよ、 取巻きAー!」


 こうして約一ヶ月の期間を共にした戦友は、まだ早朝の太陽の日に照らされた優しくもまぶしい碧い草木達の生い茂る山道を、バスの引くタイヤ跡と共に遠ざかっていった。


 刃達はその1時間後に出発の準備をして帰ることとなる。




「では、お世話になりました。早苗さん」


 宮守が代表して女将さんや従業員さんにお礼を言う。

 早苗さんとは女将さんの本名。あんなに一緒にいた刃も一週間くらい前に聞いたばかりだ。


「あいよ、また来ておくれ。毎年楽しみにしてっからさ。基本ここは暇なんだよ」


「またまたぁ。早苗さんみたいなカワイイ方はほっとかれないでしょ?」


「ふっ……ありがとう、とだけ言っておくよ」


 少しアダルティな会話に刃達は少し顔を赤らめる。自分たちにはまだまだ遠い世界に感じる。


「おい、刃」


「はっ、はい!」


「ちょっとおいで」


 そう言うと女将、早苗は手招きで刃を呼び付けた。


「なんですか女将さ──ぐえっ!?」


 近くへ行くと、まさかのアームロック。なにごと!?


「お、女将さん、何を──」


「……ありがとうね」


 そう小さく、耳元で早苗は呟いた。


「……え?」


「あの時、無限を謝らせてくれたことさ。あんな無茶してまで、馬鹿なヤツだよ。あんたは」


「ば、バカって……」


「……でもね。救われたよ」


 刃が早苗を見ると、その顔は本当に嬉しそうに笑っていた。


「……またいつか遊びに来な。その時は客としてね。応援にも行くから」


「……はい」


「刃」


「……はい」


「……よく、頑張ったね」


 頭を撫でられて、刃は下を向いてしまった。


「……それ……反則だよ……女将さん」


 見られる訳には行かない。ここまで褒めてくれた人に泣き顔など見られたくない。

 知らなかった。頑張っていたことを一番傍で見てくれていた人の褒め言葉が、これほど嬉しいなんて。


「なんだい、泣いてるのか? 泣き虫だねぇ」


「ち、違いますよ! これは汗です!」


 カッカッカと無垢な笑い声を上げる女将さんは、やっぱり可愛いと刃は思う。






「……少し、寂しいね」


『…………』


 光の言葉がバスの中の空気に重さを作る。それはそうだ。いっぱいお世話になったし、仲良くなった。寂しくないわけが無い。


「また会えるやろ! そないしけた顔してたって何にもならんて」


「まぁ、旅館の人以外は、次に会う時は敵同士だがな」


 流斗は腕を組んで後ろへ流れていく山の風景を望みながら、そんなことを言った。


「刃君、ちょっと……」


 と、バスの真ん中ら辺に座っていた刃を前にいる宮守が呼ぶ。

 刃は歩み寄ると、ちょいちょいと自分の隣に座るようジェスチャー。

 隣に座ると、宮守は刃にしか聞こえないよう小さな声で言った。


「刃君。わかっていると思いますが、くれぐれも──」


「大丈夫ですよ。『あれ』は使いませんから」


「……絶対に、私がOKを出すまでは、絶対ですよ」


「……はい」


 刃は何もない右手を見つめ、握って拳を作ってみる。


「楽しみですか?」


「はい」


 そう答えると嬉しそうに「そうですか」とだけ返し、窓の外を眺める。


「……ならば大丈夫そうですね。戻っていいですよ」


 その言葉通り、刃は自分の席に戻る。正直、早く大会が始まればと思わずにはいられなかった。

 この『特訓の成果』を……早く試したかった。




「(やってやる。この大会で……絶対に勝ってやる!)」




 大会までそれぞれは特訓を欠かさない。


 そして、その日はやってくる。


 火野刃と、彼らがの運命が大きく動き出す……いや、狂い出す時が。

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