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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第1章 I'tem~アイテム~
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6『エキシビション』


「そういやさっき、なにか言いかけてただろ? それと何か関係あるんじゃないのか?」


「ち、違うよ! 本当に……私は、刃君と……」


「三条、本当のことをいってくれ」


「……」


 俯いて悩んでいる様子だったが、


「……じ、実はね。金本先輩の話してるの、私、今日聞いちゃったんだ」


「……金本先輩?」


「……それで、その時に言ってたの。この体育祭を、ぶっ壊すって」


「……は!?」


──なんだって?


「最初はね、この後のエキシビションの中身のことだと思ったんだ。でも、エキシビションの用意してたときに、矢田くんの用意してくれてた方へ行ったんだ」


 あの日、矢田が提案した1年生のエキシビションの内容はこうだ。


 まず実行委員が正義の軍団。この体育祭を成功に導く存在。そこにその体育祭を壊そうとする悪の集団が現れる。


 内容は棒倒し。陣地の棒を完全に倒せば勝ち。至ってシンプルだが、それ故にわかりやすいと光も判断し、それがそのまま採用された。


 そしてその悪役は矢田を筆頭とした人を集めるといっていたため、その人集めは矢田に一任していた。


「その時に金本先輩や、他の先輩たちとかも集まってて、そこで、言ってたの。『お前たちは加減なんてする必要ない。全力で潰して体育祭を壊せ』って……たぶん、エキシビションの演技じゃなくて、本当に……」


「なっ!?」


 それがもし本当だとすれば、金本が狙っているのは1年生のエキシビション。つまりは、この後の──


「そ、それ先生には……?」


「も、もちろん言ったよ! でも……確証もないし、相手が、あの先輩だし……先生達も渋ってるみたいで……」


 つまり、金本には先生であっても迂闊には動けない、ということだった。


「……刃君はここにいて。戻ったらきっと巻き込まれちゃう! 大丈夫だよ、先生たちもいるし皆もいる。体育祭は壊させない。私たちが守る。だから刃君はここにいてね? 約束して……お願い」


「……」


 確かに、亮が話してくれた通りなら、自分が行ってもなにもできることはない。むしろ足を引っ張るだけだ。


 それなら、ここにいるのが最良の選択肢。そんなこと、刃の頭でもわかる。


「……わかった」


「……! ありがとう、刃君! じゃ、じゃあ私は戻るね。また終わったら来るから!」


 そう言い残し、亮は保健室を後にする。刃は保健室のベッドに仰向けになって天井を見つめた。


「……本当に、情けねぇなぁ、俺」


  一丁前に理由を並べて、行かなくていい理由を探している。


 でも、事実でもある。自分が行ってもなにかできる訳じゃない。それにあそこには、流斗や翔矢もいる。いざとなったら2人が黙っているはずはない。


「……そうだよ。俺が、いかなくったって」


 なにも変わらない。自分がいなくても、結果は変わらない。


「……だったら、三条が言う通り」


 ここにいることが正しい選択だ。行っても無駄なら、ここで待つのが最良。




──そんなことは、わかってるんだ。




「……なんで」


 こんなに悔しい。どうしてこんなに情けない。


「……くそっ!」


 理由はわからない。でも、ここでいかなきゃ、きっと自分は納得できない。


 走る意味もわからずに刃は走り出す。あいつが待つ、その場所に。



            *



「……な、なんだよ、これ」


 校庭に着いた刃が見た光景は、想像を絶するものだった。


「……はぁ……はぁ……」


「ひ、ひかりちゃん……」


 校庭の両端に立った2つの棒。向かって右が光達、実行委員側。そして左が悪の軍団側だ。


 しかし、実行委員側でまともに立ってるのは光だけ。他の人は地面に倒れこんで呻いている。


 光は棒の周りに盾を構えて薄い半透明の半球体を作り、なんとか棒を守っていた。


「どうしたの光ちゃん? ずいぶん辛そうにしてるけど?」


「はっ、気のせい……でしょ……!」


 矢田の煽り文句に強気な口調で返すものの、息も絶え絶えで立っているのもやっとのようだ。


「なんで、こんな……」


「よう、遅かったな」


 と、横から掛かった声に隣をみると、


「りゅ、流斗!? 翔矢!?」


 流斗と翔矢がいつのまにか隣に立っていた。流斗は光から目を逸らさずに続ける。


「……戦況は最悪だ。正直、戦力差が大きすぎる。向こうの金本先輩が出てきただけで大抵の実行委員はやられた」


「な、なんで……!」


「そりゃ金本先輩は『五紋の砦』に選ばれとるくらいの強者や。普通のやつやったら簡単にやられるやろうなぁ」


「しかも光は今、棒の周りに『こう』の紋字スキルを張り、棒を独りで守っている。このままじゃ時間の問題だろうが」


「じゃなくて! 2人はなんで助けにいかないんだよ! なんで黙ってみて──」


「刃、これはエキシビションだぞ」


 そう流斗に言われ、刃は気づく。そうだ、これは今はエキシビション。そこに他の人が乱入すれば……。


「そうや。これはエキシビションって名目でやっとる。他の人も今はあの一方的な状況もシナリオやと思ってるんや。だからまだ誰も、危機感をもってへん。先生たちもそうや」


 そう。皆がエキシビションだと思って見ている以上、こちらもおかしな動きは出来ない。


「この体育祭は校外から見に来てる人もいる。つまり、これはその人たちへのアピールの場でもあるんだ。もし先生たちが介入し中止なんてことになれば、大きな問題になりかねない。だから、俺たちも迂闊に動けない」


「そ、そんな……」


 このまま何もせずに見ていても、彼らがそのまま暴れだせば先生たちも介入するだろう。でもそれは同時に、この体育祭の失敗を意味する。


 つまり、光や他の実行委員の思いが無駄になるということだ。


 でも、ここで部外者が介入しても今の段階ではシナリオでしかない。つまりここで出ていっても、問題にされるのは介入した方であり、金本達に非はないことになる。


「よく考えたもんだよ。どっちにしても、金本先輩が主導権を握ってる」


 つまり、この状況はほぼ詰んでいる、ということだった。


「ど、どうすりゃいいんだ……!」


「何をいってるんだ? 解決策ならあるだろう」


「ほ、本当か流斗!」


 刃にとって流斗ほど頭が切れる人間はいない。その流斗が提示する作戦なのだから、きっとこの状況を打破できる素晴らしい考え──



「お前が行けばいいじゃないか」




──ではなかった。


「………………は?」


「いや、あとあの中に入って問題ないのはお前だけだ。だったらお前が乱入して、試合を終わらせればいい」


「い、いやいやいや! 流斗、お前何言ってるかわかってんのか!?」


 光達が勝てなかった相手にI'temを持たない自分1人が介入しても、結果は見えている。それなのに、流斗は自分にいけと言う。


「……刃。どっちにしてもこの状況をなんとかできるとしたら、お前しかいない」


「…………」


 答えは出ているのに、答えることが出来ない。出ていくことも出来ない。


 どうしてかなんてわかっている。自分には力がないから。なにもできることがないから。意味がないから。


 世界に、見放されているから。

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