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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第3章 I-G
69/313

初めての


 それから数週間、両校の生徒は仲良く、しかしライバルとしてお互い切磋琢磨し合った。

 それぞれで練習試合を組んだり、休憩時間に語り合ったり。


 しかし……それは特訓組のお話。



           ✩



「おら刃、もっと急ぎな! みんなが帰ってくるよ!」


「おすっ!」


 あれから刃もだいぶ旅館の仕事に慣れ、刃はいつもの様子で手早く皿を洗いあげると、すぐに部屋の掃除に移行。

 次にやることをイメージしながら動く。それだけで動きが大きく変わることが分かってきた。


「……がんばれ、刃」


「おう……って蓮。ちょっとはこっち手伝ってくれても──」


「……特訓のため」


 刃は昼は旅館の手伝い、夜は秘密の特訓とハードスケジュール。


 しかし、それも何週間か経って慣れたようで、女将さんから「四十度の熱があったときの私よりは使えるようになったよ」という、すごいんだかすごくないんだかの賛辞を頂くほどになっていた。

 それに、案外この仕事も気に入っている。



「これが終わったら次は机の整理と次に食事運び。埃はたてないようにして……(ガチャガチャ)」


「……刃、ここに就職する気?」


 それもいいかもしれない。半分くらい本気でそんなことを考えるくらいには。




「つっ……かれたー!!!」


「……お疲れ様」


 休憩室に寝転んで伸びる刃の隣に蓮が座り込む。

 蓮は刃の特訓に付き合うため、名目として刃と一緒に旅館の手伝いをしている、ということになっていた。

 実際は、ただ見守るだけであったが。


「はい、刃。お茶」


「サンキュ、蓮。…………ぷはぁ、生き返った!」


「……よかった」


 控え目な笑顔で応える蓮。最近、彼女の表情もだいぶ豊かになってきた。最初に比べたら随分な進歩だ。


「次の仕事は1時間後か。……蓮、俺、ちょっと一眠りしたいから、時間になったら起こしてくれるか? ここの時計のアラーム効かないんだよ」


「……わかった」


 蓮のその返事に安心したのか、横になっていた刃はそのまますぐに睡魔に身を委ねる。


「……そりゃそうだよね。あれだけ……忙しいんだもん……」


 仕事もこなして修行も、なんて、普通の人には出来ない。しかも、あれだけこき使われて、だ。

 いったい、彼のどこにそれ程の力があるのか、蓮は非常に気になった。


 だから、蓮は横になって眠りについた刃の顔に自身の顔を寄せる。なにか、この顔に感じるのだ。

 部屋の時計は5時。夏場とはいえ、少し日が傾きかけている。

 そして、ゆっくりその朱い輝きが強くなり、その影がゆっくり近づき、



──休憩所の窓に写っていたふたつの影は、やがて一点で重なった。




「……!?」



 ハッと我に帰り、蓮は刃から顔を離す。


「…………私、今」


 蓮は自身の唇に指を当てて、いましがた自分が刃にしたことの意味、自分が何故そんなことをしたのか、それが全くわからず混乱する。

 今のは、いったいなんだ。なぜ自分はあんなことを──



──ガラッ。


「ただいまでーす」


「ただ今戻りましたぁー」



「……っ!」


 今の声は間違いなく宮守達の声。どうやら特訓組が戻ってきたらしい。

 蓮は動揺し、辺りを見回して、それから急いで休憩室を後にした。

 どうしてそんなことをしたんだろうか。なぜ、あそこから逃げる必要がある。


「(……そうだ、室内用のお茶、補充、しよう)」


 そんな理由を無理やりに考えながら、蓮は休憩室を後にした。


 余談だが、刃はこの後、1時間の寝坊をして女将さんにこっぴどく叱られることとなる。

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