初めての
それから数週間、両校の生徒は仲良く、しかしライバルとしてお互い切磋琢磨し合った。
それぞれで練習試合を組んだり、休憩時間に語り合ったり。
しかし……それは特訓組のお話。
✩
「おら刃、もっと急ぎな! みんなが帰ってくるよ!」
「おすっ!」
あれから刃もだいぶ旅館の仕事に慣れ、刃はいつもの様子で手早く皿を洗いあげると、すぐに部屋の掃除に移行。
次にやることをイメージしながら動く。それだけで動きが大きく変わることが分かってきた。
「……がんばれ、刃」
「おう……って蓮。ちょっとはこっち手伝ってくれても──」
「……特訓のため」
刃は昼は旅館の手伝い、夜は秘密の特訓とハードスケジュール。
しかし、それも何週間か経って慣れたようで、女将さんから「四十度の熱があったときの私よりは使えるようになったよ」という、すごいんだかすごくないんだかの賛辞を頂くほどになっていた。
それに、案外この仕事も気に入っている。
「これが終わったら次は机の整理と次に食事運び。埃はたてないようにして……(ガチャガチャ)」
「……刃、ここに就職する気?」
それもいいかもしれない。半分くらい本気でそんなことを考えるくらいには。
「つっ……かれたー!!!」
「……お疲れ様」
休憩室に寝転んで伸びる刃の隣に蓮が座り込む。
蓮は刃の特訓に付き合うため、名目として刃と一緒に旅館の手伝いをしている、ということになっていた。
実際は、ただ見守るだけであったが。
「はい、刃。お茶」
「サンキュ、蓮。…………ぷはぁ、生き返った!」
「……よかった」
控え目な笑顔で応える蓮。最近、彼女の表情もだいぶ豊かになってきた。最初に比べたら随分な進歩だ。
「次の仕事は1時間後か。……蓮、俺、ちょっと一眠りしたいから、時間になったら起こしてくれるか? ここの時計のアラーム効かないんだよ」
「……わかった」
蓮のその返事に安心したのか、横になっていた刃はそのまますぐに睡魔に身を委ねる。
「……そりゃそうだよね。あれだけ……忙しいんだもん……」
仕事もこなして修行も、なんて、普通の人には出来ない。しかも、あれだけこき使われて、だ。
いったい、彼のどこにそれ程の力があるのか、蓮は非常に気になった。
だから、蓮は横になって眠りについた刃の顔に自身の顔を寄せる。なにか、この顔に感じるのだ。
部屋の時計は5時。夏場とはいえ、少し日が傾きかけている。
そして、ゆっくりその朱い輝きが強くなり、その影がゆっくり近づき、
──休憩所の窓に写っていたふたつの影は、やがて一点で重なった。
「……!?」
ハッと我に帰り、蓮は刃から顔を離す。
「…………私、今」
蓮は自身の唇に指を当てて、いましがた自分が刃にしたことの意味、自分が何故そんなことをしたのか、それが全くわからず混乱する。
今のは、いったいなんだ。なぜ自分はあんなことを──
──ガラッ。
「ただいまでーす」
「ただ今戻りましたぁー」
「……っ!」
今の声は間違いなく宮守達の声。どうやら特訓組が戻ってきたらしい。
蓮は動揺し、辺りを見回して、それから急いで休憩室を後にした。
どうしてそんなことをしたんだろうか。なぜ、あそこから逃げる必要がある。
「(……そうだ、室内用のお茶、補充、しよう)」
そんな理由を無理やりに考えながら、蓮は休憩室を後にした。
余談だが、刃はこの後、1時間の寝坊をして女将さんにこっぴどく叱られることとなる。




