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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第3章 I-G
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8『そのあとの』




「さぁーて、皆おつかれさん! 本当は勝者にしか振る舞わない予定だったんだが、いい試合を見せてくれたからね。今日はサービスだ。たーんと食っとくれ!」


『おおーっ!』


 その夜、2つの高校の先生、生徒は一同に宴会場に集まり食事会が催された。

 前に並ぶのは豪華絢爛な色とりどりの食材達。海や山の新鮮な幸が皿の上で踊っている。まるで1枚の絵を見ているようだ。


「……凄いな」


「あぁ……こりゃ普通の食事が見劣りしてまうな」


 ゴクリ、と断と翔矢は同時に唾を飲んだ。誰もがその皿達に夢中……かと思いきや。


「……(ブスーッ)」


「……あんたねぇ、いい加減に機嫌治しなさいよ」


「…………」


「……無限にも堪えたようじゃの、ペーっぺっぺっぺ!」


 火野刃と平沢無限だけは料理から目線を逸らしながら不貞腐れている。

 お互いに、あの結果に納得してはいない。刃からすれば相打ちでは無限を女将さんに謝らせることは出来ないし、無限からしてもI’temも持たない落ちこぼれと相打ちなど悪夢でしか無かった。


「ほーら刃! そんな顔してたら美味い飯が不味くなる! 私の飯を美味く食えないってんなら……またこき使ってやろうかい?」


「い、いや! 頂きます! 美味しく頂きます!」


「よろしい、それじゃ──」




──ガタン!




「……その前に、1つ言わせろ」


 と、立ったのは無限。全員に緊張が走る中、無限は真っ直ぐに女将さんに歩み寄る。


「……なんだい? 私の飯に文句があるのかい?」


 見るものから見たら一触即発に見える場面。全員がI’temに手をかけ、対応を考えていた時。




「……悪かった」


「…………え?」




 無限は頭を下げ、謝った。女将さん相手に。


「……無限、お前……」


「……あの試合のお前の勝利条件は『俺に一撃を入れる』ことだ。つまり、あの試合は俺の負け。特待生は約束は守る。そういう誓いだからな」


 それでも、悔しそうに拳を握る。


「……だが、試合の結果自体は引き分けだった。だから、土下座まではしねぇ。文句はあるか」


「……ないよ。いいから席に戻りな」


 女将に言われて無限は席に戻る。

 皆が呆気に取られた。まさかあの無限が素直に謝るなど、誰も想定していなかったのだから。


「さーて、気を取り直して、せっかくのご馳走だ! たーんと食べておくれ!」


「……」


 だから、刃も決意した。その無限に対する『答え』を。




          ✩




「…………んん?」


  次の日の早朝、気持ちよく眠っていた無限の鼻先を何かがつついた。

 見ると水がニョロニョロと動いている。そして、それが消えた。となると、


「……なんだ、あの野郎」


 寝間着のまま外に出ると、そこに1人の影があった。


「……おはよう。随分と早いな」


「……お前が起こしたんだろうが、水仙流斗」


 ランニングでもしていたのか、ジャージ姿で肩にかけたタオルで額の汗を拭う流斗。


「……それで、俺に何の用だ?」


「俺は用はない。お前に用があるのは、あいつだ」


「……?」


 そう言った流斗の視線の先に無限も視線を移すと、


「……!?」


 昇る朝日を背に、逆立ちしてこちらへ来る影が見えた。まさか、まさか。


「……あいつは、バカだからな」


「お……終わったぁ!」


 ドサッ、と逆立ちで旅館の前まで来た火野刃はそのまま地面に倒れ込んだ。


「……お前、まさか、あの時の話を……」


「だってお前……はぁ、言ったじゃんか……。『負けたら裸で逆立ちのまま山1周』……ってよ。あの勝負自体は、引き分けだから裸ではねーけど、これで、文句、ねーだろ」


 息を切らしながらそう言い放つ。まさか、本気で山を逆立ちで1周してきたというのか。あんな口約束を本気で、守ろうとしたというのか。


「……クッ!」


 バカだ。こいつは本物のバカだ。あんなものは自分の勝ちにでもしておけばいいものを。


「ククククク、クハハハハハハハ!!!」


 腹を抱えて笑わずにはいられない。こんなに笑ったのはいつ以来だろうか。


「……おい、取り巻きA」


「……んだよ」


 刃ももうその呼び方にはもうツッコまない。ツッコんでも無駄と理解していたから。


「……お前、名前は?」


「……火野刃だよ。どうせ覚える気が無いんだろうけど……」


「……当たり前だ。自惚れんな、火野刃・・・


「はいはい…………え?」


 さて、あいつのマヌケ顔も見れたし、もう用はない。


「……もう一眠り、すっか」


 これまでと違い、今度はいい眠りに入れるかもしれない。そう思って無限は大きく背伸びをするのだった。

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