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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第3章 I-G
62/313

2『亮VSカナ』

「解除!」


 藤先生の『陣』が解かれると、今までの主役はそれぞれの学校の仲間の元へ戻る。


「やったな翔矢! やっぱつえーんだな!」


「当たり前やないけ! ワイを誰やとおもとんねや!」


 刃の賛辞に、翔矢は右手の親指を突き立てて答えた。


「さて……とりあえず1勝。次に勝てば勝利か」


 流斗は少し頭を俯かせて考え込む。


「次は誰がえぇとおもとんのや、流斗」


「……そうだな。あっちの出方にも気をつけたいとこだが」


 先生達はこの組み合わせに口出しはしない方針らしく、2人して遠くから見ている。相手側を見ながら少し悩んで、流斗は決断した。


「……亮、お前が出てくれるか?」


「エェッ!? わ……私!?」




          *




「全く、何やってるんですの!? 使えないですわ!」


 戻った断を麗香の罵倒が断を迎える。


「おいおい、勘弁してくれって。たかだか練習試合じゃ──」


「そのたかだかで負けていては本番も危ういですわ! もういい、私が次に出ます!」


「ま、待ってください!」


 そう言って原っぱの真ん中に出ようとした麗香の足をカナの声が止めた。


「れっ……麗香様の前には、私がいきます!」


 体の前でガッツポーズをしながらのカナの言葉。


「……カナ。貴女は無理する必要ありませんわっ。だって貴女……今、I'temを──」


「それでも! 私は麗香様の召し使いで、同じくこの学校の代表者です! お願いします、私に行かせてください!」


 カナは深々と頭を下げ懇願した。


「……でも」


「行かせてやれよ。麗香」


 何か言いかけた麗香の肩を、断が抑えて言葉を止める。

 おそらく覚悟はあるんだろう。なら、止める理由はない。


「……カナ、無理だけはするんじゃねぇぞ」


「……う、うん。ありがとう、断君」


 少し赤くなった顔を隠すように振り返ってから、カナは原っぱに歩み出た。




―第二試合―


三条亮 VS カナ




 原っぱの真ん中に立った2人を藤の『陣』が包む。


「両者とも、用意はいいかのぅ? 第2試合……試合……開始じゃぁッ!」


 岩間の号令と共に、さっきのような劇的な試合が──


「…………」


「…………」


 始まらなかった。


「……あれ?」


 2人とも構えたまま静止。ピクリとも動かない。


「あ……あのぅ……」


 最初にその沈黙を破ったのは、亮だった。


「……I'tem、出しませんか? そうじゃないとやりにくくて」


「……っ!」


 何かばつが悪そうに唇を噛み締めながら俯いたまま、亮の言葉に応えずに立ちすくむカナ。その態度に亮はさらに困惑する。


「あ……あの~……」


「……と一緒です」


「えっ?」


 何かボソッと呟いたカナの声に、亮は耳を傾けた。

 次の瞬間、決意したような凛々しい表情で顔を上げて、大きな声を出して叫ぶ。


「だ……断君と一緒です! 私の……私のこのメイド服は私のI'temなんです!  だから遠慮せずにかかってきてください!」


「バッ!? あいつあんな嘘を!?」


 外で聞いていた断がその言葉に驚愕。


「あっ……そ……そうだったんですか! すいません!」


「い……いえ、こちらこそ! なんかすいません!」


「いえいえ、私の方こそ!」


 2人して頭を下げあう。似た者どおしだなぁ……と、誰もが思わずにはいられなかった。


「じ……じゃあいきます! 解紋!」


 目映い輝きと共に現れた亮のI'temは、


「………………き、綺麗だ」


 思わず刃がそう漏らす。

 そして対戦相手であるカナですらも、亮の姿に目を奪われた。

 なぜならそのI'temを解放した亮の姿は、羽根を広げた天使のような姿だったからだ。


 『形態フォルマウイング』……これが亮のI'tem。


 I'temの中でも珍しい、武器以外の形を成形してそれを武器として戦うI'temのことを通称、『無形態タイプ・ノーマ』という。

 それと比較されるのが、流斗や翔矢達の持つ一般的な形態である『武器形態タイプ・ウェポン』。


 実はこの『形態タイプ』というのは別に固定されているわけではなく、訓練をしていけば『形態』を変化させることもできる。


 しかしながら、最初から『無形態』なのはやはり珍しい。


 亮の翼は長細い平行四辺形の板が14枚、丸い水晶のようなものが嵌まったものが2個。

 それを白い燈気が繋いで2枚の翼を形成していた。


「では、いきます! 『激』!」


 翼を成形していた白い燈気は亮の身体に移り、頭の上にリングを作り出した。まるでその姿は、


「ほ……ホントに天使です……」


 カナは思わず見とれてしまった。これから戦う相手に見とれてしまっていることなど気にせずに。

 そして相手がI'temを解放するのを待つ亮。しかし、いつまでもカナが解紋する様子がない。


「……あ、あのぅ……そろそろ……出してもいいんじゃないでしょうか、I'tem」


 その声に意識を取り戻したカナは腰に手を当てて胸を張り、震える声で言い放つ。


「な……何をいってるんですか! 私はもうI'temを解放しています!」


「えぇっ!? そ……そうだったんですか! じゃあ、こちらが出すまで待っていてくれたんですね。ありがとうございます!」


 礼儀正しく亮がペコリとお辞儀。


「えっ!? いや……そのぅ……」


「そこまで気にしてくれていたのに……気付けないなんて……わかりました! ここからは手加減なしでいきます! 勝てる気はしませんが、ご教授お願いします!」


 そう言うと亮は上空へ飛び上がり、両手の平を見せるように前に重ねて構える。するとそれに答えるように両翼が大きく開いた。


 ヤバイ、あれはなにかヤバイ。そうカナの直感が告げている。早く本当のことを伝えなければ!


「えっ、えっと、そのですね天使さん! 私は実はその──」


「わかっています! 相手の実力も見抜けない私が未熟でした! ですからここからは本気のご指導、お願いします!」


──カァァァァ!


 翼を成形していた10枚のプレートが輝き出す。物凄い燈気を込めているのがわかる。


「いや、そのですね!? 私は実はその──」


 そう慌てふためいているカナの様子など、もう亮の視界には入っていなかった。


「『初紋字ファーストスキル……げきぃ』!!!」


 亮の翼の軸を成形していた4枚のプレートとそれを繋いでいた丸い水晶体以外の10枚のプレートは、『撃』の号令と共に一斉に、カナに向かって矢の如く放たれる。




──ドガガガガガガガ……!!!




「キャァァァアアアアアアア!?」


 プレートに混ざり、燈気も矢の形を形成し、雨の様にカナに降り注ぐ。

 カナはそれに対し、頭を腕で抱えて地面にうずくまるのみ。その対処におかしさを覚えることはなく、亮は更なる連撃を撃ち込む。


 普段の亮ならすぐこのカナの対応の不自然さに気付くであろう。だが、不幸にも彼女はその直前に自身の過信に嫌悪にも似た自責をしてしまっている。

 それは彼女の“優しさ”というアイデンティティを吹き飛ばし、ただ戦うだけの戦士と化させてしまった。

 まぁ、要は……ある1種で、壊れたのだ。


「ハァァァァァァァア!」




──ガガガガガガガガ……!!!




「イャャャャャヤァァア!!!!」


 カナはただただ、叫んで地に平伏すのみ。


「どうしたんですか! まだ本気を出すほどでは無いということですか!」


「い……イヤ、そういうわけじゃなくてぇ!」


「わかりました、そこまで買ってくだされるなら……私も本気で参ります!」


 亮は一旦『撃』を解くと、地面に突き刺さっていたプレートは全て亮の背後に戻って翼の形から円形に形を変えた。

 そしてその真ん中に集まった白い燈気は球体を成形。物凄い力の塊だ。


「フルパワーァァァ! 『初紋字ファーストスキル』!!!」


「お……おい、やべぇぞあれ!」


 断がそう危惧し叫ぶが、時すでに遅し。




「『せ──」


「ごめんなさぁぁぁぁい! 私、今ホントは『I'tem使えないんです』ぅぅぅぅぅ!!!」


「──ぇぇぇぇ…………え?」




 間一髪でカナの叫びが亮の耳に届いた。


「すいませんすいませんすいませんすいません!  私、岩間先生のバス酔いを治すためにずっと紋字スキルを使っていたので、今もう戦えるだけの燈気は残ってないんですぅぅ……」


 カナは頭を抱えながら、涙ながらに亮に訴えかける。


「……え? しょう(そう)なの?」


 その言葉に当事者であるはずの岩間すら呆気にとられた。


「当たり前ですわ。調子の悪そうな先生を見かねてカナが後ろで先生の身体を『調メンテナンス』で見ながら調節していたからここまで来れたんですのよ? まぁ、気付いていたのは後ろで見ていた私達、生徒だけのようでしたけど……」


 心底呆れた様子で、麗香はため息混じりに言った。


「……どおりで今年こちょしは症状がかりゅいと思っちゃ(た)……」


 その言葉にますます神童高校の生徒一同は脱力。

 カナは攻撃が止んだのを片目を開けて確認すると、勢いよく立ち上がり続ける。


「だ……騙してごめんなさい! で、でも、だからって遠慮は無用です! どうぞかかって来てください!」


「えっ……で……でも……」


「わっ……私だって選手です! 本番でこんなことが無いとは言えません! だから、どんな状態であろうと諦めません!」



 あぁ、なんと真っすぐな瞳。これがI'temを持った平等な条件の試合なら、さぞいい試合を繰り広げられたであろうに。

 ただし……今は明らかに違う。明らかに力は不平等。条件も不平等。

 それは普通、無力な方が圧倒的不利にたたされることは必至。

 ただ、今のこの状況はそう簡単なものではなく、頭に上った血が引いて冷静さと優しさを取り戻した亮にはあまりにも酷な状況。

 なにせ、相手はI'temを出せない。しかもその原因は『お爺さんを助ける』という紛れもない善意。


 亮もその紋字スキルが使えたなら、間違いなく刃に使い同じ状況に陥っていただろう。そう考えると、亮の代名詞とも言える『優しさ』が邪魔をしないわけがない。

 しかし……選手として逃げるわけにはいかないというのは亮も同じこと。


 シュルシュルと構えたまま地面に降りてきてしまっていたが、そう考えると「自分もその考えを見習わなければ!」と思い直し、構えに再び力を入れる。


「なっ……ならばっ! いかせていただきます!」


「はっ……はいっ!」


 カナは目を閉じ、ギュッと拳を握り締め、身体を丸める。


「『初紋字ファーストスキル』!」


「……!(ビクゥ!)」


「………。ふぁ、ファースト!」


「……!(ビクゥ!)」


「………………。ふぁ、ふぁーすと……」


「……(プルプル)」


「…………………………」




──できないよぉ。




 亮は泣きそうな顔で皆を見ると、それに応えるように全員が同時に頷く。


 わかってる……もういいと。


 そうして第二試合の結果は、亮の降参で幕を閉じたのだった。

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