1『属性と相性』
旅館裏の特別錬成場。そこが先生達の言う『学校対抗戦』の舞台だった。
「こちらは今回5人しかおりゃんからなぁ! ルールは5対5の1回勝負! 最初の2人は個人戦形式。最後の1試合は3対3の団体戦形式で行う! どちらかの選手が負けを認める、または気絶、こちらからの危険と判断した場合。それが勝利条件じゃ!」
「全3回戦を先に2勝した高校の勝利とします。また、勝った方の高校には先生含めた全員に豪華なお食事が旅館から出ることになっていますから……皆、頑張ってくださいね!」
『(それが目的か!?)』
先生達の賭け事に繰り出されたことを理解して呆れつつも、それぞれ生徒は錬成場の真ん中に対峙し並び立つ。
その中に、昨日まで見なかったやつが1人。
「ケケケ……テメェらが桜ヶ峰か? ってことはお前らが今回の贄ってことでいいのかぁ?」
「(な……なんだこいつ……)」
なんだか嫌な予感がする。感覚だけだが、刃の全身がそう告げていた。
「こりゃ無限! ちゃんと自己紹介せんか! 昨日はすぐに寝よってからに!」
「うっせぇなクソジジイ! 平沢無限だ。お前らをボコすやつの名前だ。しっかり覚えておけよ、ケケケ!」
刃達の第一印象は最悪だった。しかし、そんなことよりも問題なことがある。
その平沢無限と名乗るやつの服装は配色こそ多少違うものの、鎧亜の羽織りと瓜二つを羽織っていたのだ。
「……よう『地天』。何年ぶりだぁ? まぁ会いたくはなかったがな、ケケケ!」
「…………」
どうやら鎧亜に話しかけたようだが、鎧亜は無視を決め込む。この様子から察するに、
「(……なぁ流斗、やっぱりこいつって)」
「(あぁ、間違いなく鎧亜と同じ『特待生』だ)」
無限の表情は無邪気で静謐。しかし、どこが危なげな笑みが髪の合間から覗く。
特待生には良い思い出はない。注意しなければ。
「では最初の対戦者、前へ!」
対戦順は先ほど相談してもう決めてある。
「よっし、行ってくるわ!」
「頑張ってこいよ、翔矢!」
そう言って腕を振り回しながら桜ヶ峰の一番手、風間翔矢は一歩前に勇み出た。
「へぇ……あんたが相手か」
「よろしゅうな。えっと……断やったっけ?」
「あぁ、よろしく、風間」
「翔矢でえぇわ」
「じゃあ、そうさせてもらうか」
―第1試合―
風間翔矢 VS 久遠断
断は両腕に銀鼠色の手甲をすでに嵌めている。
「(あれ……I'temか? それとも……)」
刃が目線で流斗に確認してみるが、流斗は首を横に振る。流斗にもまだ確信は持てないようだ。
原っぱのまだ青い葉達は気持ちいいくらい眩しく朝日の黄金色を反射し、美しく輝いている。
「さっきはほんまにスマンかったなぁ。あのねぇちゃん方、トラウマにならんといいんやけど……」
「安心しろよ、あの程度のことじゃあいつらにはトラウマにならねぇからさ」
「……そうか、ならええんやけどな」
「念のために言っておくが……手加減はするなよ!」
「こっちのセリフじゃ!」
2人してI'temを持って構える。この2人の人間的な相性は良さそうだ。
「2人とも、準備はいいですか? それじゃあ藤先生。お願いします」
「はいは~い、『参紋字・三重陣』!」
──ガガガ……キイィン!
2人を隔離するように三重の『陣』が張られる。これで、準備は整った。
「それでは、第1試合……始め!」
「「解紋!」」
──ガキィィン!
『始め』の合図と共に瞬時に先制を仕掛けたのは、翔矢。合図と共に一気に距離を詰めて発現した刀で一閃。
しかし、その超速の一閃を、断は右の手甲で軽々受け止めている。
「ウラァァァァッ!」
──ガガガガガガガガガガガガガガガガ……!!!
翔矢の鋭く深い連撃。それを断は手甲で受けるのではなく往なす形で防いでいる。
「ハアァッ!」
右からの剣閃を断が右の手甲で受け止めると、お互いが力を均衡させて動きが止まった。
「……ほぉ、やるやないけ!」
「翔矢もな……ハァッ!」
受け止めていた右手甲で翔矢の剣を弾くと、空いていた左の拳を翔矢に向ける。
「『麟』!」
だが、翔矢には想定内。翔矢の両足と両手にのみ集まった力は、瞬発的にその身体を断の拳から後方に退けるだけの力を与えた。
「(へぇ、『麟』まで使えるのか)」
『初紋字・麟』。それは基本紋である身体強化の紋、『激』の強化版。
これはこちらも出し惜しみをしている場合じゃなさそうだと断は理解する。
「『激』!」
断の身体に炎の様に赤い紅色が纏わり付き、構えをとって。
──ドンッ!
次の瞬間、断は地面を爆発的に強く蹴りだし、翔矢までの距離を一瞬にして詰めた。
「(何やとッ!?)」
「『拳』!」
──ブゥゥゥン!
断は翔矢の前まで来ると、その右拳に全力を注いだ。
「(これは、アカンッ!)」
「ハアッ!」
そしてその拳を、勢いよく突き出す。
「『跳』!」
──ドガァァァッ!!!
地面がえぐられるほどの拳圧。翔矢は間一髪、『跳』でハイジャンプをし、空に逃げて地面に着地する。
「(っ……危なかったわ。しかし、今のはどういうこっちゃ」
翔矢が疑問に思ったのは、相手の紋字を使うタイミングだ。
断は今初めて紋字を使ったように思える。つまり今『激』を使うまで翔矢の1撃目の一閃と2撃目からの連撃を紋字なしで防ぎきったということになる。
いくらなんでもそれは異常だ。
「(……考えられるんは『封紋華』、もしくはどこかのタイミングで先に使うてたんか?)」
どっちにせよ、確認せねばなるまい。翔矢は足に燈気を集中させる。
「『靴』!」
翔矢の足のみに集まった翠色の輝きは“風”へと形質を変化させ、翔矢の身体を空中に停滞させる。
「へぇ……翔矢の燈気の属性は“風”か」
「そういう断の属性は“火”やろ? あんさんの性格にはよう似合っとるで!」
「ぞ……“属性”?」
「なんだ、刃。ここは授業にもやっていたぞ?」
流斗達I'temを持っている者達と違って、刃にとっては『紋字』は自分に実感のないことだった。人間とは自分に関係ないことだと思うとどうしても適当に聞いてしまいがちだ。だから刃の頭になかなか入ってこなかった。
『基本紋』などの話でいっぱいいっぱいだった刃にとって、“属性”の話は頭からすり抜けていたのだ。
「……お前も見ているからわかるだろうが、燈気には扱いが慣れてくると色がついてくる。元の燈色からそれぞれの属性の色に変わるんだ」
刃の表情から察した流斗は、そう言って地面に図を描いて説明し始めた。
その図には『火→金→雷→水→土→風→火』 と1周していた。
「この属性には、主に6種類ある。
『火』、『水』、『土』、『風』、『金』、そして『雷』。
そして対応する色は『火』は“赤”、『水』は“青”、『土』は“茶”、『風』は“翠”、『金』は“黄金”、『雷』は“黄”という具合だ」
刃も頷いてしっかり聞いていることを流斗は確認すると、続きを話始める。
「さらにこれは右回りに属性の優劣も表している。『火』→『金』→『雷』→『水』→『土』→『風』→『火』……という感じにな」
「……じゃ、断ってやつの燈気は“赤”だったから『火』で、翔矢の燈気は翠だったから『風』……ってことになって、翔矢の方が有利ってことか」
ならば翔矢の方が属性的には有利、勝てる可能性は高いということか。
「だが、属性的には有利でも断は半端じゃないぞ。今朝の1件だけでもおそらく燈気の扱いを極めてる」
「じゃ、じゃあ翔矢やばいのか?」
「……まぁ、心配はしてないさ。今は試合を見ていよう。刃、お前……まともに翔矢が戦ったとこなんて見たことなかっただろ」
「えっ? いや、普通に授業とかで──」
「あいつが……その程度だと思ってるのか?」
「……は?」
刃はその流斗の発言に首を傾げる。
「ど……どういうことだ、それ?」
「見ていればわかるさ」
「どうした翔矢? 来ないのか?」
翔矢は断のその挑発に乗らずに思考を巡らせる。さっきから相手はこっちの風が火に有利だとわかっているはずなのに、怯みもせずに攻撃を加えてくる。しかもスピードも並みではない。
「(……やりにくい相手やで)」
「……翔矢、お前の感じは大体わかったぜ。そんじゃそろそろ……俺の戦いかたを始めようか!」
そう言い放って断が上着を翻すと、そこにあったのは、
「な!? んなアホな!?」
I'temだ。『収納状態』のI'temがそこに張り付いている。
しかし、これはどういうことだ。まさか、I'temを2つ持っていたりするのだろうか。
いや、違う。燈気の感じから翔矢もすぐに答えを導きだした。
「これが俺のI'temだと思ってただろ?」
そういって断は“手甲”を自身の前に出す。
「……話には聞いとったが、それが『サポートI'tem』ってやつか」
サポートI'temとは、自身から生まれるI'temと違って外部から燈気を供給されて『人工的に作り出されたI'tem』のことだ。
とても高価で市場にも出回らないため、刃達も見たことはなかった。
「よく知ってるな。そうだ、これは俺ん家に代々伝わる家宝、『火拳・カグツチ』! 俺のI'temは、こいつと一緒じゃなきゃ真の力を発揮しねぇ!」
そう言うと断は、くの字型のI'temに手を触れた。
「解紋ッ!」
眩しい輝きの後、姿を表した断が持っていたのは、
「……それは」
……ブーメランだ。
ただし普通のじゃない。本体は木製のように見えるが、その端から鎖が繋がっていてその先はやつの右腕の『カグツチ』に続いていた。
これはただのブーメランというよりも。
「“鎖付きブーメラン”……か」
「そういうことだ。その力は……その身で味わってみなぁ!」
断はブンッと一振り、そのブーメランを翔矢へと投げる。
なるほど、鎖もI'temの一部。つまりは伸縮自在、どこまで逃げても追えるということだ。
逃げても無駄のようだし、翔矢も作戦を変更して受け止める体勢に入る。右から弧を描いて飛んでくるブーメランを受け止められるように、右側に剣を構えた。
「(まずは受け止めて動きを止めて、そっちの様子見させてもら──)」
「『受け止めて様子見』……なんて考えてねぇよな、翔矢?」
「!?」
「もし、そんな軽く考えてるなら……」
──ガツッ!
翔矢と断のI'temがぶつかり合った瞬間、断はこれを狙っていた。
「『激』!」
真っ赤な力は鎖を伝わり、一瞬にしてブーメランの身に届く。
「なっ!?」
「……痛い目見るぜ、翔矢」
──ドガアァァァ!!!
「ぐぁァァッ!?」
そのブーメランがぶつかった瞬間、まるでトラックがぶつかってきたような凄まじい衝撃が翔矢を襲った。
それによって『靴』の紋字で空中に固定していた翔矢の体は吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。
「翔矢!?」
地面に叩きつけられた衝撃の砂塵で、翔矢の安否が外からでは確認できない。
だが、それは中にいた断も同様に。
「……そんな簡単にやられるタマじゃねぇだろ、翔矢。立てよ」
「……考えたもんやな」
「!?」
強撃を食らったとは思えないほどケロッとして砂塵から翔矢が姿を現し、肩をコキッと1回鳴らして答えた。
「……あんまり効かないとは思ってたが……まさかここまでとはな。自信なくすぜ」
「……普通、『激』は肉体強化。それを腕を通して[武器強化]に変え、ブーメランに力を移動させる。『鎖付き』になってるんはその力をブーメラン本体に移行させるためか。自身の肉体強化もしながら遠距離攻撃も可能になる……結構な相性やないけ」
ニッと爽やかに笑って見せる翔矢に、断は畏怖の念すら覚えて冷や汗が流れる。
だが、諦めるわけではない。まだこっちの攻撃は続くのだ。
「……なら、もっかい食らってみるのはどうだぁ!」
そして断が腕を振って翔矢に再び軌道を変えたブーメランが迫るが、
「……断、悪いけどな」
「……?」
「もう、勝負はついとんねん」
──ビシィィッ!
「なっ!?」
その時だった。突如、断の鎖付きブーメランの鎖の部分に亀裂が入り、砕け散ったのだ。
──バキィッ! ヒュルルル……ドスッッ!
投げた衝撃に耐えきれずに鎖はちぎれ、ブーメランの身は翔矢の隣に突き刺さった。
「なっ……何が……どうなってるんだ?」
「簡単なことや」
そう言って翔矢は峰を肩に掛ける。
「断が攻撃してきたときに、カウンターで鎖にしこたま攻撃を食らわせといたんや。それでヒビでも入れば力の供給もうまくいかなくなるなと思たけど……まさか壊れてくれるとは思わんかったわ」
「なっ!? 翔矢はただ剣を構えてただけじゃねぇか!?」
「……なんや? そう見えたんか?」
「……!?」
その言葉で断は理解する。
今、この目の前で立っている男は、自身の半分の力も出し切っていないことを。
油断していたのは、実は自分の方だったと実感したのだ。
「……ちっ、敵わねぇな。降参だ」
微笑を含んだ落胆の声に、翔矢は即座に答える。
「しゃーないて、ワイが相手やったんやから」
「そこまで!交流試合、第一試合、勝者。風間翔矢!」
宮守の勝者のアナウンスが響いた。




