13『もうひとつの優勝候補』
「…………来ました、か」
宮守がそう不敵に呟く。これが顔面に食らったお味噌汁を拭き取りながらでなければ少しくらいは格好がついたかもしれない。
「……? 何が来たんですか?」
流斗がそう質問した、瞬間だった。
──ガラッ!
勢いよく旅館のドアが開く音。
『いらっしゃいませ……あぁ、桜ヶ峰の皆さんでしたら奥の……』
──ドタドタドタドタ!
こっちに向かって歩いてくる音。そして、
──パン!
「たにょもうかぃ! 桜ヶ峰高校の代表者諸君!」
広間の戸を勢いよく開け、細身のお爺さんが入ってきた。
「な……なんや?」
「フッフッフ……今年はずいぶん遅かった様に感じましたが……逃げたのかと思いましたよ、岩間先生?」
「ペーッペッペッペッペェ! なじぇ勝てる相手から逃げるひちゅよう(必要)がある!」
──だ……誰だこの人?
桜ヶ峰の生徒全員の総意だった。少なくとも面識は誰にもない。
「おいお爺……なにいきなりスピードアップして──うををををっッ!?」
と、その後に顔を出した見た目ワイルドな男は入ってくるなり驚愕の声を出す。
それもそうだろう。いきなり入った部屋の中はまさに惨劇のあと。
中は血まみれの火野刃であった死体が1つ転がり……その前には息を荒げる阿修羅が1人……いや、1体。
「(お……おいお爺、こいつらやばいんじゃ……!)」
「ペーッペッペッペッペェ! 恐れるこちょなぞない! さぁ宮守、今年こそ因縁をはらさしゃせてもらうじょッ!」
「み……溝渕先生……彼等は一体──」
「あぁ、あいつらは『私立・神童高校』の先生と生徒だ」
そうなんでもないことかのように言いながら飯をかっ食らうが、
『し……神童高校!?』
刃たちにとってその名前は簡単に聞き流せるものではなかった。その名に飯を食べ終えて眠っていた鎧亜も反応を示す。
「毎年、『I-G』で優勝候補に挙げられる有名高じゃないですか!?」
「ペーッペッペッペッペェ! 素直でいい生徒もいるようでしゅなあ!」
「……まぁ、ここ2年は私たちの高校が2連覇をしてるんですがね」
「グヌヌ……!?」
煽る宮守と岩間の間に視線の火花が散っている。どうやら浅からぬ因縁があるようだ。
「ちょっと! この私を置いていくとは一体どういう──ギャァァァァァァッ!?」
「麗香様!? 一体どうされて──キッ……キャァァァァァッ!!!?」
突然、部屋に入ってきた女2人は中の惨劇に失神寸前に陥る。
「おい、麗香、カナ!? しっかりしろっ!」
卒倒しかけた女子2人をワイルドな男が纏めて支えた。
「……うぅっ……断……私、もう駄目ですわ……」
「お……おい! あんたら大丈夫か!?」
青ざめる2人に思わず流斗も立ち上がって走り寄る。それはそうだろう、なにせこちらの惨劇《お仕置き》が原因だ。
「2人ともしっかり気ィ持て! ったく、しょーがねぇ……『激』!」
断と呼ばれた少年が体に力を込めると、彼の全身が燈気に包まれる。そして軽々と2人をまとめて持ち上げた。
その光景に流斗も目を見張る。今のは間違いなく『封紋華』。だがその精度はずっとそれだけを極めてきた刃にすら匹敵するように見えた。
まさか人2人をこんな簡単に持ち上げるとは。
「岩間先生、俺はこの2人を部屋まで運んでくる。それと『桜ヶ峰高校』の皆さん、挨拶はあとになっちまうけどちょっと時間くれ」
「い、いや、元はといえばこちらのせいだ。こっちはそちらが帰ってくるまでに何とかしておく」
「そうしてもらえると助かるわ。そうじゃないとこいつら耐えられそうにないからな。」
「本当にすまない。そうだ、亮。彼女らにお前の『回復』を使ってやってくれ。断……だっけか? そう呼んでも支障はないか?」
「あぁ。かったりー呼びかたよりそっちの方がいい」
「じゃ、断。その2人はここで亮の『回復』を受けさせてやってくれ。亮、頼む」
「う……うん。わかった!」
──それから1時間。
刃の顔の腫れ以外はほぼ全てが元に戻ると、旅館の大広間で両校の先生、生徒は机を挟んで対峙した。
「どうも、『神童高校』の皆さん。私は『桜ヶ峰高校』の国語教師、及び1年C組の担任をしています、宮守雅人と申します!」
まず最初の挨拶は宮守。しかし刃達も神童高校の生徒達も困惑している。
「な、なぁ雅ちゃん先生。今回の合宿って合同だったの?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
──言われてないよ!
桜ヶ峰のほぼ全員が心のなかで突っ込みをいれるが、それは通じていないようで。
「さて、それではうちの生徒の紹介を。私の右から……火野刃君」
「どうぼ(どうも)……」
「水仙流斗君」
「……よろしく頼む」
「風間翔矢君」
「よろしゅうッ!」
「大門寺光ちゃん」
「よろしくね」
「黒道鎧亜君」
「……」
「矢田堅二君」
「どうもっす」
「東蓮ちゃん」
「……よろ……しく」
「三条亮ちゃん」
「こ……こんにちは」
「以上がこちらの参加選手です」
「おやぁ? 確か参加上限は7人だったのじぇは?」
「実はカクカクシカジカでしてね……」
「(見なさい、カナ! 素敵な殿方がいるじゃない!)」
「(そ、そうですね……)」
麗香は流斗と鎧亜に目を交互に配りながらカナに囁き、その様子にカナは苦笑しつつ応えた。
「ではワシの方でもあいさちゅ(挨拶)から参ろうきゃのう!」
続けて話すのは岩間と呼ばれていたお爺さん。
「ワシの名前は土方岩間! 私立・神童高校の『I'tem実技技能・総責任者』である!」
『(そ……総責任者!?)』
さすがに桜ヶ峰の全員が驚いた。というのも、優勝候補の学校のI'tem実技総責任者ともなれば相当の実力者しかなれるものではない。
それがこのおじいさんとは到底思えないのだが。
「しゃて、次は右きゃら……久遠断君」
「挨拶が後になって申し訳なかった。よろしくな」
そうワイルドな見た目とは裏腹に断は礼儀正しく深々と頭を下げる。
「その隣ぎゃ、神宮寺和真君」
──カタカタカタカタ。
和真と紹介された少年は、皆が集まっているというのに先程からパソコンに熱中している。
「(ちょ、ちょっと和真! その態度は相手に失礼でしてよ! しっかり挨拶を──)」
そう麗香が耳打ちした瞬間、和真はパソコンのディスプレイを刃達に向ける。
すると、画面になんかキャラが出てきた。ピエロをモチーフにしたような黄色い生き物。
『オイッ! 桜ヶ峰高校の生徒諸君、ハジメマシテだな!』
『(し……しゃべったぁ!?)』
『オレの名はポッピー! 御主人がプログラミングした独自の人工知能、AIってやつだ! しっかり名前で覚えろよッ! そしてオレのご主人がシャイなんだ、だからプログラミングされたオレが代わりに挨拶するゼェ! よろしくなァッ!』
「(な……なんか色々とすごそうな人だな)」
キャラが濃いというかなんというか、今まで刃が出会ったことがない人種であることは間違いなかった。
「その隣ぎゃ──」
「お待ちくださいませ、岩間先生! 私の紹介は自分で致しますわ!」
岩間が紹介しようとしたのを彼女が制止する。
見た目は白が色調の豪華なドレスに金髪のクルクル髪。どこからどう見てもお嬢様って感じだ。
そして懐から取り出すは白いフリフリが付いた扇子。
「オォーッホッホッホ! 初めまして皆様! 私の名前は花星麗香!」
「れっ……麗香様は!」
と、突如そのすぐ隣に座るメイドがメモ用紙を見ながら立ち上がり、たどたどしく読み上げる。どこからかBGMまで流れている始末だ。
「れ……麗香様は……あの大企業、『花星財閥』の一人娘にして成績優秀っ、才色兼備! 言い寄った男は数知れず……えっとぉ……」
「まるで壮大な……(ボソッ)」
「そ……そう! まるで壮大な原っぱに咲いたたった1つの可憐な星の様に輝く花! それが……花星麗香様なのですッ!」
──ジャーーン……。
ちょうどBGMが止まると、麗香は満足そうにひらひらの付いた扇子を開いた。
「と……いうわけで、皆様よろしくお願いしますわ!」
──すげぇ……さっきよりもキャラが濃いとは。
なんというか、開いた口が塞がらない。隣では満足そうにメイドもパチパチと拍手しているし、刃には見たこともない世界だった。
「さぁ、次は貴女ですわよ!」
「えっ!? い、いえ……私は岩間先生の紹介で──」
「何言ってますの! 我が花星財閥の召使いがその程度と思われてはいけないのですわっ! ほらっ!」
麗香が後ろに立って紹介文を読み上げていたメイドの背を押して前に出させる。
「……えっと」
麗香は満足そうに座ると、ワクワクしながらメイドを見守る。メイドはばつが悪そうに顔色を伺って。
「……私の名前は、カナです」
「……!?」
瞬間、麗香の顔色が変わった。
「皆さん、よろしくお願いしま──」
「カナッ!!!」
そして自己紹介が終わるのを待たずに麗香はすごい剣幕で立ち上がり、カナと名乗ったメイドの肩を掴んだ。
「違いますわ! あなたは花星香奈ですわ! ちゃんとそう自己紹介なさい!」
「(な……なんだ!?)」
刃達もいきなりのことに戸惑いを隠せない。いったいどうしたというのだろうか。
「そ……そんなことはできません。私はカナ、それ以上でもそれ以下でもありません」
「オイお前ら、何も今それにこだわることは──」
「大問題ですわ! このままほっとけば、この子は昔に戻ってしまうんですのよ!」
「(……? 昔に戻る?)」
止めに入った断の言葉にも耳を貸さない。2人の様子からすると何か訳ありのようだ。
「……2人とも落ち着きなさい。カナ……今はそれでよい」
「……すいません」
岩間の言葉に従ってカナは静かに座る。真剣な声色だった岩間はさっきまでの雰囲気に戻って。
「いやはや申し訳なきゃった! こちらもイリョイリョ(色々)とあっての! あとここにはおらんが、上で寝ちょる馬鹿が1人おる。それからあと2人は、諸事情でこにょ(この)合宿には参加できなんだ。以上の7名が今年の我が最強の布陣じゃ!」
そう岩間は自信満々に宣言する。これが桜ヶ峰と並び立つ優勝候補の一角。自分達の、ライバル。
「……わかりました。では早速、そちらが朝食を食べた後に始めましょうか?」
「そうじゃのう! わしゃ毎年これを楽しみにしとるんじゃ、ペーッペッペッペェ!」
なにやら先生だけで怪しげな会話が繰り広げられる。
「……始める?」
「雅ちゃん、何を始めるんや?」
「それは、ですねぇ……」
宮守と岩間は顔を見合わせると嬉しそうに笑い、全員に向け高らかに言い放つ。
「「学校対抗戦、in 白河旅館!」」
『が……学校対抗戦!?』
「グオォ~~……ッ」
そんな中でも神童高校の『特待生』、平沢無限は2階の寝室で静かに寝息をたてるのだった。




