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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第3章 I-G
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10『湯けむりパニック2』


「……友達だから」


 蓮は少し悩んだ間の後にそうボソッと呟くように言う。


「「……は?」」


「……私たち、友達になって、仲良くなった」


「お、おう、そうだな。それで?」


「……前に本で読んだ。仲良くなったら、裸の付き合いするって」


 確かに、そういう文化は存在する。でも、それはあくまで同姓の場合。異性は絶対に含まれていない。


「……それと、教えてもらったお礼も」


「い……いや、蓮が気にすることではないって! 協力するって言ったのは俺らだし!」


 とにかく、今はこの場を早急に去ってもらわねばなるまい。このままでは自分達の命はない。主に話を聞かない幼馴染みの手によって。


「でも……」


「大丈夫! 本当に大丈夫だから、蓮はそのまま回れ右をして出るんだ! 誰にも見つからないうちに!」


「でも……刃は言ったよ? 『また明日』って……」


「はい?」


 確かに言った。言ったが今はそんなこと関係ないはず……そう思ったとき、流斗の顔から血の気が引く。

 まさかとは思うが。


「だ……だからどうしたんだ?」


「『明日』になったから来た」


 そのまさかであった。刃と流斗は温泉の壁にかけてある時計を見る。


 ただいまの時刻、0時2分。


 確かに、確かに日にちは回っているが、刃達が言いたかったのはそういうことではない。


 いかん、この感じでは下手をすれば自分達が罪に問われる可能性すら出てきた。蓮を急いで説得しここから出さなければ!


「ちがう、色々それは違うぞ蓮! 俺が言った明日はそういう意味じゃないから!」


「……違う? 何が?」


「うあ~っ、何ていうか違い過ぎて……ウア~ッ!」


「刃、出るぞ!」


「えっ!? あっ、あぁ!」


 流斗の合図に合わせてダッシュで刃達は蓮の横を摺り抜け、露天風呂入口の硝子戸へ向けて走り出す。これ以上ここへいてはまずい。全身の危険信号がそう言い放っていた。


「……逃がさない。解紋」


 と、蓮は手首に巻いていたI'temを解放。自身の腕にミドルシールドを発現させる。

 そしてその腕を刃達に向け、


「……『初紋字ファーストスキルじん』」


──キィィン……!


 高い音と共に刃達の周りが薄い膜で覆われる。


「「なっ!?」」


 それは風呂から出ようとしていた刃達の先を遮り、行き場を奪う。


「こ、これ『陣』かよ! 蓮、お前本気過ぎるぞ!」


「観念……して」


 ジリジリと距離を詰めてくる蓮。そうだ、この窮地こそ我が友の出番だ。きっと彼ならば良い打開案を出してくれるに違いない。


「流斗! なんとか破れないのか、この『陣』!」


 普通、I'temを持っている人間は浴室にもI'temを持ってくる人は珍しくない。慎重派の流斗のことだからきっと持ってきているだろう。

 そう思ったのだが、当の本人は苦い顔をして蓮の張った『陣』を睨み付ける。


「……不覚にも、俺のI'temは脱衣所に置いてきてしまってる」


「なっにぃぃぃいぃ!? 何でだ!?」


「……すぐに出ると思っていたからな。まさかこんなことになるとは……」


「……2人とも」


 背中に当たるその声に、2人は恐怖すら覚えた。世間知らずが度を越えている蓮のことだ。きっと逆らえば、今以上の危険がふりかかるに違いない。


「観念……してくれた……?」


「………………流斗」


「………………しょうがない、か」


 これが最善の手だ、と自身を納得させる以外に、今の2人にはできることはなかったのだった。




          *




──ゴシゴシ……ゴシゴシ。


「……流斗、この辺で良い?」


「あ、あぁ。大丈夫だ」


──ゴシゴシ……ゴシゴシ。


 タオルの擦る音と水音だけがこの空間を支配していた。

 刃と流斗の後ろにはタオル1枚の女子。向いちゃいけない……振り向いちゃいけない。1人の男として……そこだけは負けてはならない。


「れ、蓮。俺はもういいから、次は刃の背中をやってやってくれ」


「……うん。じゃ……いくよ、刃」


「あっ、あぁ! いつでも来い!」


──ピチャ、バシャバシャ……ギュッ!


 タオルを洗って絞って、


──ワシャワシャ……!


 泡立てて、


──クシャ、ゴシゴシ……ゴシゴシ……!


 背中にタオルを当てて洗い始める。水音だけで蓮が行う一連の動作が手に取るようにわかった。


 この背中から感じる心地いい加減の力、そして小さな手の感触で実感する。


 今、自分達の後ろには、童顔で綺麗な黒い長髪の美少女が一生懸命に背中を流している。


「(いかん……鎮まれMy Heart! そして鎮まれ、男の勲章!)」


 刃や流斗だって男だ。やっぱり意識しないなど無理な話しなのだ。それに周りが湯煙で見えない分、感触だけが伝わり、想像力を掻き立てる。


 そして匂いも女子の特有のそれである。なぜ女の子というのは男とは違ってこんなに良い匂いがするのだろう。


「(やっぱり、この違うシャンプーの匂いって蓮のやつのかな?)」


 五感のうち、視覚がない場合これほどまでに嗅覚と触覚が敏感になるものなのかと思ったとき。


「……はい。あと痒いとこはある?」


「へっ? い、いや大丈夫だ、ありがとな!」


 急に話しかけられたので刃が焦って返すと、クスッと蓮が後ろで笑った。


「どうした、蓮」


「ううん……なんでも……クシュッ!」


 と、蓮が可愛らしいくしゃみをする。


「体が冷えたのか? だったらもう女湯に行って蓮も風呂に入れ。暖まるぞ」


「で……でも……」


「大丈夫、俺も刃も十分に尽くしてもらった。だから蓮はもう気にすることはない」


「……わかった」


 そう言うと蓮は脱衣所の方へ歩いていく。これでとりあえずは一件落着だろう。よかったよかったと2人が胸を撫で下ろした時だった。



──ガラッ。




 こんな時間だというのに誰かが入ってくる音が聞こえる。


「「……えっ?」」


 露天風呂にいても聞こえたその音に、刃と流斗は固まった。


「おい……」


「まさか……」


「……どうしたの、2人とも」


 蓮に静かにするようにジェスチャーで伝えると、2人して静かに耳をすませてみる。




「いやー、今日は楽しかったわぁ~っ。雅人も来ればよかったのにぃ」


「いやぁ……私はやることもありましたし」


「お前は昔から生真面目だよな……そんなんだからいつまでも女をつかまえられねぇんだよ」


「溝渕せんせぇ、それは貴方も言えることじゃなくてぇ?」


「グッ!?」


「「アハハハハ……!」」


「じゃあまた後で。しっかり湯船に浸かって暖まるのよ?」


「わかってらぁ」




「……刃、流斗? 汗がすごいけどどうしたの?」


「「…………」」


 あぁそうだろう。その声の主はどう聞いても教員である宮守と溝渕、それに藤のものだった。

 今の現状は自分達が経験したことのなかでも過去最高にまずいことになっている。このままではきっと拳骨程度ではすまない。


「刃、俺が行って時間を稼ぐ! その間に蓮と一緒に隠れろ! このままじゃやばい、マジでやばい!」


「そのくらいわかるって! 蓮、こっちだ!」


「……え? 刃?」


 流斗は刃が蓮を奥につれていくのを確認すると、真っ先に脱衣所へのガラス戸を開けた。

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