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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第3章 I-G
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3『三条亮』

          *


「それでね、団体戦は3人1組が原則なの。どんな組み合わせでくるかは当日になってみないとわからない」


「な、なるほどな」


 その後、誰もいなくなった会議室で亮と刃の2人きりでの説明会が行われた。ちなみに矢田はめんどくさそうな気配を察知したのか、さっさと目を盗んで帰ったらしい。


 最初こそ刃も帰れることを妬んだが、亮の聞き取りやすい柔かな声、読みやすく綺麗な字、そして優しくてわかりやすい説明にいつしか刃も真剣に話を聞くようになっていた。


「初日は開会式のあとにまず団体戦の予選、代表者の中から選ばれた3人が試合に出るの。それを勝ち進めば、その後が本選になるんだよ」


「なるほど……」


 刃は亮の説明に、ただただ頷いていた。疑問の余地すらない。すごく説明がうまい。先生もこんなに分かりやすく説明してくれれば、授業だってもっと聞いてられるのに。

 そんなことを思って刃はふと亮の懸命に説明する横顔を見た。


「(……確かに、噂されるだけあって三条って可愛いよなぁ。幼く見えるのも魅力っていうか、睫毛も意外に長いし、三条ってモテるんだろうなぁ)」


「……でね、この後の夏休みに……って、刃君? 聞いて──」


 そう言ってこっちを見た亮と刃の視線が至近距離で交差する。それこそ1歩間違えればキスでもできそうな距離で。


「「……ッ!?」」


 ほぼ反射的にお互いが顔を離して明後日の方をみる。このまま黙っているわけにもいかない。何か話題を振らないと。


「あ、あぁ聞いてたよバッチリ! なんつーか……三条ってすげーな」


「わ……私が……すごい?」


 ふとしたその言葉に、亮はもう一度刃の方をみる。


「あぁ。説明も俺みたいなバカでもわかるくらいわかりやすかったし、字だってめっちゃうまくて見やすいし分かりやすい。マジ三条が先生だったらもっと成績上がったなーって思うくらいに!」


「……ほ、ほんと?」


 その刃の言葉に亮は俯き、顔が前髪で見えなくなる。照れているのだろうか。


「マジマジ! 三条が先生だったら俺でもテスト90点くらい取れる気がする!」


「……100点じゃないんだ」


 そう刃が言った瞬間、亮はクスクスと笑い始めて必死にそれを堪えていた。


「な、なんか俺おかしなこと言ったかな……?」


「う……ううん! そうじゃないんだ。ただ……嬉しかったの」


 そういって亮は俯いた顔を刃にしっかり向けた。


「私ね、ずっと先生になりたいって思ってたから……そう言ってもらえて、すごく嬉しかった」


 そのうっすらと涙を浮かべた瞳と笑みは、きっと全ての高校男子を魅了するであろう。

 絶対に電気屋の電球コーナーより眩しかった。例えがこんなものしか出てこない自分のバカさが憎い。


「……なんか三条にはお礼しないとな。こんな時間まで迷惑掛けたんだから」


「ふぇ!? い、いいよそんなお礼だなんて……私そんな大したことしたわけじゃないし」


「いや、それじゃ俺の気がすまねぇ! 俺にできることならなんでもするから言ってくれ!」


「……な、何でも?」


 その言葉に亮は自らの膝を凝視したまま固まって俯く。

 膝の上でモジモジと指を動かしていたが、やがて何かを決意したように目を輝かせて刃に向き直った。


「あっ……あのね、刃君!」


「お、おう。なんだ?」


「…………………………えっとね……そのぅ……」


 しかし、次の瞬間には見る見るうちに小さくなる声と気迫。

 上げた顔も真っ赤にして口をパクパクとさせたまま。こんなに赤いのは夕日のせいだろうか。

 それとも、怒っている……とか? やはりいきなりでは困ってしまうか。


「……ごめん、迷惑……かけちまったか?」


 心配になって刃が聞いてみると、


「そんなことない!」


「うおっ、亮!?」


 刃の予期せぬ勢いで一気に亮は刃への距離を縮めた。具体的には刃の胸部辺りの服を両手で掴み、その目線を逃がさないようにロック。刃の顔のみに注いでいた。


「そんなことない! 私はただ嬉しくて……!」


 おそらく亮は必死なんだろうが、刃の理性も必死だ。こんなに近くて嬉しさもあるが、やはり恥ずかしい。

 と思えば、亮は息を1回大きく吸い込み、そして吐き出した。深呼吸して息を整えてから。


「……じゃあ、刃君」


「お、おう」


「……私、刃君にずっと言いたいことがあったの」




──あれ? なんかこの雰囲気……。




 ここで、現在自分達が置かれているシチュエーションを思い返してみよう。




①会議室で男子と女子が2人きり。


②体が近い、というかほぼ密着。


③夕日が差し込む良い雰囲気の中、他の生徒の気配なし。


④なにやら決意した表情の女子。


「あのね、刃君!」


「お、おうっ!」


──あれ? これはまさか、まさかなのか!?


 刃はゴクリと息を飲んだ。こんなの男なら想像せずにはいられない。

 こんな可愛い子と、こんな素敵空間だぞ。今後の人生にはない大チャンスかも知れない。答えなんて決まってる。そう考えて刃はそっと瞳を閉じた。




『なーにしてんのよ、ナマクラ』





「ごめん亮! 俺、他に好きなやつが──」


「私を下の名前で呼んでほしいのっ!」




 両者言ったのはほぼ同時。しかし、亮の声の方が刃より万倍大きく、その声は亮には届いていなかった。



「……ん? なにか言った、刃君?」


「なんでもねぇッ!」


「……?」


 顔から火が吹き出そうだ。こんな妄想してたなんてバレたらたまったもんじゃない。急いで話を戻す。


「し……下の名前で?」


「う……うん。光ちゃんとか流斗君とかみたいに……私も下の名前で呼んでくれないかな?」


「……そんなことでいいのか?」


「うん! 今は私、これ以上の望みはないよ!」


 その笑みはまるで天使のようで、それが夕日に照らされてさらに輝きを増している。


「わ、わかった。じゃあこれからは亮って呼ぶな」


「……! う、うん! よろしくね、刃君!」



 その本当に嬉しそうな笑顔。こんなことで喜んでもらえるとは、良かった良かったと肩を撫で下ろした。


「(……あれ?)」


 と、ここで刃は思い至る。さっきの一瞬、自分はいったい何を言おうしていたのか。


「(さっき……俺なんて言おうとしてたっけ。勘違いとはいえ、亮にNOって言おうとしてなかったか? いやいやんなわけないだろう。こんな可愛い子に告られたら一発OK──)」


「あっ、そうそう。1つ言い忘れてたんだけど、この後に私たちは合宿するんだよ」


「へっ? 合宿?」


「うん。『I-G』に出る人は宿題は全免除なんだけど……そのかわり、夏休みのほとんどを強化合宿で費やすの」


 その言葉に、刃の顔から一気に血の気が引く。それはつまり、せっかくの夏休みが特訓や練習に費やされるということ。


「『ほとんど』って……どれくらい?」


 とはいえ、いくらなんでもそんなに多くはないだろう。多くて一週間とかそのくらいで──




「『最後の3日以外全部』だよ?」


「…………………………」



 その言葉に刃はスッと立ちあがり、窓を開けて外に向かって大声で叫んだ。




「なんじゃそりゃあああああああああ!!!」





 刃の苦痛のお叫びは、人の少ない校舎中に木霊したのだった。




          *




「アーイアイ。アーイアイ」


 そんなこととは露知らず、藍は保健室で呑気に積木を詰んで遊んでいた。

 チャイムが聞こえて藍の集中が切れないよう保健室担当の藤が張っていた結界が刃の声を消しているなんて当人達すら知らないことで。


「こんな可愛い子が……ねぇ」


 藤は保健室の自身のデスクに腰掛け、藍を見つめる。

 そしてふと藤は遊んでいた藍の頭を撫でた。


「アイ?」


 その感触に藍は見上げると、優しい顔をして頭を撫でる藤に気を許したのかニコッと笑って積木遊びを再開。


「……この子をしっかり守れるくらいになりなさいよ。……?」




──ミーンミンミンミー……。




 外ではミンミンゼミが、静かに夏の始まりを歌っていた。

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