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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第1章 I'tem~アイテム~
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4『ナマクラ』


          *



 案の定、といえば良いのか。その不安は現実のものとなる。


 それは刃たちの組の実行委員は刃と光に決まり、それぞれ出る種目も固まってきた頃。


「……嫌だなぁ」


「ほーら、さっさと行くわよ!」


 とある日の放課後、光に首根っこを捕まれて刃が連れ込まれたのは会議室。


 ガラッとドアを開けると、目の前に女の子が立っていた。


「あ、光ちゃん! こんにちは」


「こんにちは、亮。少し遅れたわ」


「ううん、皆今さっき集まったところだから」


 短い髪にワンポイントのマーガレットの髪止めが特徴的な彼女は、三条亮さんじょう りょう


 刃たちと同じ中学出身で、刃や光とは中学の頃から友人の仲である。


「あ、えっと、その……それから、刃君も……こんにちは」


「あ、あぁ、こんにちは」


 刃から目をそらしつつ亮は挨拶を交わす。




「(やっぱり……三条って俺のこと苦手なんだろうなぁ)」


「(じ、刃君と久しぶりに話しちゃった……お、おかしく、なかったよね?)」




「さて、じゃあ会議を始めましょうか。もう本番まで日数もないし」


 今日は1年生の実行委員による会議の日。体育祭実行委員全体での会議もあるが、これは主に1年生の種目や警備について話し合われる会議である。


 そして今回の内容は学年別で行われる実行委員での『エキシビション』だ。


「さて、今回の件は『エキシビション』についてだけど、誰か案のある人は──」


「ねぇねぇ光ちゃーん、それより俺、気になってることがあるんだけどさぁ」


 ピクッと光の眉が跳ねる。「またか」と言いたげに小さくため息をすると、その声の主に向き直った。


「なーに矢田くん。言いたいことでもあるの?」


 もちろんそれは彼、矢田堅二やだ けんじだ。


「いやね、俺らって体育祭中の警備もやるじゃないですか? でもそのなかに1人名前がなかった人がいると思うんですけどねー」


 そこにいる全員が、それは誰のことを言っているのか理解する。


「……俺のことか?」


「おーおーわかってんじゃん! だったら話が早いや」


 もちろんそれは、I'temを持たない火野刃のこと。警備のタイムシフトにその名前はない。


「いくらI'temがないっていってもよー、仕事がやらなくて良いって訳じゃないと思うんだよなー、俺は」


「それなら安心して。刃は私と一緒の時間に警備に当たるから」


 刃も今はじめて聞いた情報だった。光を見ると無言の重圧がかかってくる。何も言うな、というところだろう。


「やさしーねー、光ちゃんは ! そりゃ刃は守ってあげないと危ないもんなぁ」


 周りから小さく笑い声が聞こえた。


「……勘違いしないで、矢田くん。刃は別に弱いわけじゃないし、1人でも大丈夫とは思ってるわ。でも今回は手伝って欲しいことがあるから一緒に回るだけよ」


「それなら俺がナマクラの代わりにやってあげるよ、その仕事。だったら刃も警備に入れるよね?」


 ナマクラ。それは刃の名前と現在の状態を皮肉って誰かが言い出した刃の呼び名だ。


「それは私が遠慮するわ。私、はっきり言って君のこと苦手だから」


「あちゃー、手厳しいなぁ光ちゃんは! はいはいわかりましたよ。でも、そっかそっか」


 うんうんと意味ありげに頷く矢田。


「……まだ何かあるの?」


「いやぁね。そいつが弱くないなんて言うやついるんだなーと思ってさ」


 刃をみながらニヤニヤ笑みを浮かべる矢田の言葉にに、光のボルテージが上がるのを確かに刃は感じとる。


「……それはいったいどういうことかしら」


「言葉通りの意味だよ。そいつはI'temがないから何も出来ない、そんな弱いやつを弱くないなんて、どうして言えるのかなって不思議でさぁ」


「何度でも言うけど、刃は強いわ。はっきり言えばあなたなんかよりずっとね」


「お、おい光!?」


「……言ったね、光ちゃん?」


 その言葉を待ってたと言わんばかりに、矢田の口角は大きく釣り上がる。


「なら光ちゃん、1つ勝負をしないか?」


「……勝負?」


「そう。今回の『エキシビション』、実は1つ提案があるんだ。その中で刃が強いと証明できたら俺はなんでも言うことを聞くよ。でもさ、もし俺の言う通りだったら……」


 そこで矢田はグイッと光に詰め寄り、


「……皆の前で、『火野刃は弱かったです、ごめんなさい』って言ってもらえるかな? 土下座してさぁ」


「わかったわ」


「まぁすぐには了承なんて出来ないだろうね、俺だってまぁそこは寛大に……へ?」


 その言葉に目を点にしたのは矢田だけではない。


「お、おい光! お前何言ってんだ!?」


「聞こえなかった? わかったって言ったのよ。刃が強いってことを証明できればいいんでしょ? じゃあ、その提案ってのを聞かせてもらえるかしら」


「……あ、あぁ! もう言ったからな! もう訂正はできないぞ光ちゃん! ここにいる全員が証人だ!」


「ひ、光! 止めとけ! こいつの話に乗る必要なんてない! お前にメリットなんてないじゃねぇか!」


「別に、こいつを足蹴に使えるならまぁいいかなって思っただけよ。色々雑用を全部任せられるわよ?」


「……本当に勝つ気なのか、光ちゃん」


「当たり前じゃない。私、勝負事で嘘はつかないわ。でもその前に、あなたの案を私が気に入ればの話だけどね」


「……オッケー。それでいいよ。面白いじゃん」


 なぜか当事者をおいてけぼりにどんどん話が進んでいく。


「……どうなっても知らねぇぞ」


 この先の自分の苦労を考えて、刃は小さくため息をつくのだった。



          ※



「さぁて、皆。とうとうこの日が来たわ! 体育祭当日よ!」


 あれからは特に問題という問題もなく、むしろ円滑すぎるくらいに事は運び、体育祭当日を迎える。


 あれからというもの、矢田もこちらに必要に絡んでくることもなく、平和そのものだった。


「じゃあ皆、手はず通りに頼むわよ。1年生としての最初の行事、成功させてみせるんだから!」


『おおーっ!!!』


 全員が一致団結し、成功を願って動く中で、誰も気づきはしなかった。


「……へへ」


 矢田が小さく、下卑た笑みを浮かべたのを。

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