2『選手たち』
「(ちょ……ちょっと待て。これは一体どういう状況だ? なんで俺が見ず知らずの先輩から指名されるんだ!?)」
全くもって意味がわからない。しかもよりにもよってI'temを持っていない自分なんかを。
「ちょ、ちょっとなまくら! これはいったいどういうことよ! しっかり説明しなさいッ!」
「お、俺もわからねぇっての!」
光に胸倉を捕まれて問い質されるが、わからないものは答えようがない。
「まぁ、彼はめぼしい生徒がいなかったから『くじ』で決めたと言っていましたよ?」
「「そんなのありなのぉ!?」」
刃と光のぴったりなハーモニーがクラスに響く。その生徒会長、いくらなんでも適当すぎやしないだろうか。
「まぁ、運も実力のうちということで。じゃ刃君、光ちゃん。お2人は放課後、第一会議室に集まってくださいね」
*
「一体全体、どういう状況だよ……I'tem持ってない人間がI'temを競う大会に出るって」
「んなこと言ったって拒否権はないんだから。出られるだけラッキーだと思いなさい。あんたは超偶然にも、この学校の代表に選ばれたんだから」
「だから、その学校代表に俺なんかが選ばれてどうすんだって……」
刃は大きく1つ嘆息すると、言い合っているうちに会議室前に着く。この扉の先に入るのが正直怖い。でも、そうも言っていられない。何を言われるかも想定できるが、心を強く持っていよう。
「こんにちわー、C組代表、入りまーす」
「お、おい光!?」
刃が重苦しく感じるドアを、軽率に躊躇なく光が開けた。
そこには2人にとってあまりにも面識がある面持ちが多かった。
「おぉ~、光! やっぱお前も選ばれたん……って、刃も一緒か! なんや、付添いか?」
まずドアを開けた一番手前の席にいたのは風間翔矢。
「ちがうのよ。実はカクカクシカジカでね……」
「なんやとぉ!? 刃も代表選手!?」
「……驚いたな。光が来ることは予想はついていたが……まさか刃まで来れるとは」
その翔矢の前の席に水仙流斗。
「おいおい、誰かと思えばナマクラ君じゃないか」
奥からかかった声にも聞き覚えがある。
「ゲッ、矢田……」
「なんだよ、学校内で迷子にでもなったのか? 知らないだろうがここは今、俺らのようなエリートしか入れないんだよ、そう、エリートしか!」
「や、矢田君。そういう言い方は良くないよ?」
鼻高々に自慢する矢田堅二の後ろにオズオズと立っていたのは、三条亮だった。
「とはいってもなぁ、亮ちゃんよぉ? この身の程知らずには現実ってもんを教えてあげないとだロォ? ここは『I-G』の代表に選ばれた人しか入れない、特別な場所だってなぁ!」
「なら刃だって代表なんだからいてもおかしくないじゃない」
「そうそうなにもおかしくない──」
「「……え?」」
困惑している矢田と亮の後ろ。一番端の窓際に寄り掛かっているやつを見つけると、反射的に刃は身構えた。
「(……黒道、鎧亜)」
特待生の証である羽織りを身につけ腕を組んで昼寝。どうやら今はこちらに狙いをつけてはいないようだ。でも、油断はできない。
「(……ん?)」
と、そこで刃は奥にいる黒髪ロングヘアーの女の子に気がついた。彼女だけは見た覚えがない。
「(……あの子は)」
「おぉ、もうみんな来てますね。早くて感心感心」
その声に後ろを振り向くと、宮守がうんうんと満足そうに頷いていた。
「じゃあ皆さん、席についてください。これからいろいろ話し合うことがありますから」
光、翔矢、流斗は会議室の前方に座るが、やっぱり場違いな感じは否めず、なんとなく優秀な親友達の近くに居づらい。
「(みんなあっちだけど……俺はあっちかな)」
そう考えて刃は1番奥辺りの窓際、後ろから2番目を陣取ると、その隣にほぼ同時に腰をかける人がいた。
「あっ……刃君もこっち?」
「おぉ、三条」
三条亮。以前、刃が矢田にクレームをつけられたときに刃を庇ってくれた人物。
短めのショートヘアに左耳の上に白いマーガレットの髪飾りが特徴的だ。
背は155くらい。幼い顔立ちだが面倒見がよく優しい性格で多くの男子を魅了しているとか、していないとか。
「久しぶりだな。そういや体育祭の時はありがとう、助かった」
「ううん、そんなことないよ」
そう言ってクスクスと笑うこの子は天使だろうか。見ているだけで笑顔になる。
「…………」
そしてその様子を遠くで険しい顔で見ている光は鬼か何かだろうか。見られるだけで冷や汗が止まらない。
そしてその逆側にも誰かが座る気配。もしかしてさっき初めて見た女の子だろうか?
こういうことはやはり第一印象は大切。いい人と思われるためにも笑顔で挨拶せねば! そしてなるべくフレンドリーに、よし!
「やぁ、俺は火野刃って言うんだ、君はだーれ?」
「黒道鎧亜」
「「………………」」
何も言うまい。
「さぁ、みなさん集まってくれたところで……そろそろ始めますよ。『I-G』についてね」
*
──んんっ……。なんか……きもちいぃ。
とても心地いい気分だ。窓際だったお陰だろうか。とても優しく暖かな木漏れ日が背中に当たり、絶好のお昼寝気分で。
「刃君! 起きて刃君!」
刃がうっすら目を覚ますと、亮が体を軽く揺すっていた。
「じ……刃君、今までの話……聞いてた?」
「は……なしぃ……?」
どうやら気がつけば背に浴びる心地よい太陽の毛布に身を委ねていたらしく、すっかり眠りこけていたらしい。
刃は意識を覚醒させると、恐る恐る亮に問いかける。
「や……やべぇ、な……なぁ三条。先生、何の話してた?」
「や……やっぱり聞こえてなかったんだ……私が『大丈夫?』って聞くたびに『だいじょーぶだいじょーぶ』って返してくれてたから大丈夫だと思って……ごめんなさい、私がちゃんと確認しておけば……」
そういうと亮は俯き、瞳を潤ませる。どうしよう、罪悪感で押し潰されそうだ。
「わ……悪かった三条、だから泣かないでくれ! なっ!? それよか先生は何の話を──」
「へぇ……ぐっすりご就寝してたくせに……女の子まで泣かせるとはいいご身分ねぇ?」
その地獄の底から響くような悪魔の声にゆっくり後ろを振り返ると、もちろんそこには青筋をビキビキ立てて仁王立ちの光さん。
「ゲッ!?」
これは、逃げねば死ぬ!
──ガッ!
遅すぎた。逃げようとした刃の二の腕はガッチリと光の腕でキャッチ。
「あはははどうしたんだい光さん、ずいぶんとご機嫌みたいじゃないか!」
「ウフフフフ、どうしてだかわかる? 刃君?」
「便秘が治ったのかい?」
──コンボ中、しばらくお待ちください──
《ギャャャャァァァ……!!》
「ふぅ……こんなもんかな?」
普通に見れば爽やかな運動後に汗を拭ったようにも見える光の前には、ぼろ雑巾のように横たわる刃だった何か。
「じ、刃君……大丈夫?」
「ワレ……イノチ……所望ス……」
亮が倒れた刃の顔を覗き込むと、ガクッと頭を木の床につけた。
「まぁ心配しないで。私たちにとってはいつものことだから」
「し……心配しないでって……刃君をこんなにしたのは光ちゃんじゃない!」
いつもの亮らしくない強気な発言に光は一瞬、戸惑う。こんなに声を張り上げた彼女は初めて見た。
その事に構うことなく、亮は刃の肩を揺すり心配そうに声をかける。
「刃君、大丈夫? 立てる?」
「あ……ありがとう三条。助かったよ」
そのやりとりから不意に光は目を反らした。どことなく気分が晴れない。
「さて……この話は刃君と矢田君が聞いてなくてはいけない話だったんですが……どうしますかね」
奥の方を見ると、どうやら矢田も爆睡しているらしい。
「……仕方がありません。2人には後で個別に時間をとって説明を──」
「……先生、それ私がやります!」
宮守の言葉を遮ったのは亮。まっすぐ腕を伸ばして宣言していた。
「刃君が聞いてなかったのは、隣でしっかり起こしてあげられなかった私のせいです、やらせてください!」
「い……いや、実際に悪かったのは俺らで──」
「ううん、しっかり起こしてあげなかった私も悪いよ。だから今の説明は私がします。よろしいですか?」
「……わかりました。じゃあ三条さん。刃君と矢田君に先程の説明、お願いしますね」




