1『代表選手』
「んんんんんををををーーーー!!! おーわっっっ……たぁーーーー!!!」
6時間目の終了を告げる鐘が鳴り響き、先生が教室を去った瞬間に刃はお叫びを上げた。
それは刃だけではない。クラスの全員が叫ぶとはいかないまでもざわつく。
なぜなら、今日は1学期最後の学校登校日。つまりは、明日からは、
「ん夏休みだぁぁぁぁぁ!!!」
「うっさいわ……よっ!」
──バンッ!
「イッテェ!?」
ハイテンションな刃に喝を入れるが如く、光は刃の背に『もみじ』をお見舞いする。
光の平手をお見舞いされても、今日という日はなにも気にしない。刃はおとなしく机に伏せる。
「やっと……今日……この地獄だった勉強の日々から解放されるんだっ!」
「……まったく、こういうときだけ元気になるんだから。でも私は夏休みもだけど、この後の発表の方が楽しみだわ」
「……ん? 発表?」
──ガラッ。
「さぁみなさん! 浮かれるのはわかりますが、帰りのホームルームを始めますから、席についてください」
とその時、教室のドアが開いて宮守が入ってくる。クラスの全員は席へと座り、一気に静かになった。
皆が席についたのを確認すると、宮守は教卓に手を置き、満足げに話しはじめる。
「えー皆さん。これから皆さんが、とってもたーーのしみに待っていた夏休みですね!」
『うをおおおおおおおお!』
「えー、ですが楽しいだけが夏休みではありませんよ! 規則正しい生活と『宿題』を忘れないで下さい」
『ブーーーーーー!!!』
さっきまでの歓喜は一瞬で掻き消え、ブーイングの嵐。なんとも分かりやすい。
しかし、それでも宮守の笑みは次の言葉を紡いだ。
「まぁ……今から呼ぶ方は、例外ですけどね」
『……!!?』
生徒達の関心を集めるであろう、その言葉を。
「せ……先生、ってことは決まったんですか!? 『出場選手』が!?」
「えぇ、そういうことです」
その言葉にクラスがさっき以上の歓喜に包まれる。
「(……なんだ、この異様な盛り上がりは? 夏休み以上のビックイベントなんかあるのか?)」
ただ1人、火野刃を除いて。
刃は首を傾げてから光を見ると、他の女子とキャッキャと話をしている。
クラスが浮き足立っているのも、おそらく宮守がさっき『出場選手』とかなんとか言ってたのが関係していそうだが、いったいどういうことなのだろうか。
光もさっき『発表』とか言っていたし、恐らくこれのことなのだろう。
「そうです、決まったのです! 『I-G』の出場者が!!!」
「(あぁ……なるほどね)」
活気の理由がわかると、刃はゆっくりと机に倒れて自らの腕を枕にし始めた。
「先生、選手は!? 選手は誰なんですか!?」
「そんな話をするってことは……このクラスの『出場者』が決まったってことですよね!」
どうしよう、クラスの熱量に着いていけない。
「なに面白い顔してんのよ?」
「いや……なんでもねぇよ」
光に感づかれたようだが、それは気にしないでおく。きっと光もこちらの気持ちは察するだろうから。
「さぁて、とはいえ『I-G』について知らない人もいるでしょうから私から少し説明を──」
「先生、んな説明しなくても『I-G』のことなんて皆知ってますって! それより早く選手を聞きたいでーす!」
「まぁまぁ、みなさんの気持ちもわかりますが物には順序があるんです。まずは詳しい説明を聞いてください」
その言葉にクラスがシンと静まり返ると、コホンと1つ咳をしてから続ける。
「さて、まずは『I-G』が何かというところからですが……皆さんも知ってはいる通り、これは高校生を対象に行われる『全国I'tem選手権』と呼ぶべきものです」
そう、いわばI'temの祭典とも呼ばれるものだ。
「年に一度行われるこの『I-G』にはこの大陸に存在する多くの高校生が集い、それぞれの伸ばした個性を発揮して競い合う。つまり、色んな技や力を競べ、『全国I'tem最強の座』を決めるものです!」
瞬間、クラス中がまたも歓喜の渦に包まれた。そう、普通ならこの反応は当たり前だ。
「……はぁ」
ただし、刃は違う。これは繰り返すがI'temの祭典。I'temの才を競い合うお祭り。
つまり、逆を言えば『I'temを持たないものには全く関係ない行事』と言っても間違いないのだ。
刃はまた無意識に自分の手のひらを見つめる。
あの日、また刃のI'temはどこかへ消えてしまった。
I'temが生まれた後に消えることも前例がなかったため、もしかしてあれは夢だったのではないかとも疑う。どうしたって表情も曇る。
「私たち教員は約3ヶ月の間、君達1人1人を見てきました。その中で優秀だったりなにか飛び抜けて才のあると思われる生徒をそれぞれクラスから1人ずつ選出。計6名の人材が選び抜かれるわけなんです」
つまりは、このクラスからももう出場選手は決まっているということなのだろう。
そう思うと刃の視線は自然に隣の成績優秀な幼馴染みに向けられる。
「その6名がこの学校の代表者となり、出場していただくことになります。なお、選ばれた人に拒否権はないのでそのつもりで。夏休みの宿題は全免除なのですけど」
『!!?』
その一言にクラスはさらに沸き上がった。夏休みの宿題を合法的に全免除とは、なんとも素晴らしいじゃないか。羨ましいにも程がある。
「そんで先生、その選手は!?」
「早く教えてくださいよー!」
「……わかりました。それでは早速発表したいと思います。このクラスから選ばれた代表者はー?」
その言葉に誰からともなく息をのみ、次の言葉を待つ。
「ダララララララ……!」
小太鼓を叩くようなジェスチャーと共に下手なドラムロール。思わず全員の顔も若干引きつった。
「ダララララララ……ダン! 出場者はっ……大門寺 光ちゃんでーす!」
『おおーーーー!!!』
光が指差されると、クラスの盛り上がりは一段と大きくなる。光の周りには一瞬にして人だかり。
「やったね、光ちゃん! おめでとー!」
「すげぇ、さすがクラス委員長だぜ!」
「皆で応援するからね!」
「ありがとう、みんな! 私、皆の分もがんばるから!」
そうにこやかに返す光を横目で見つつ、刃は頭を腕の上に完全に預けた。
正直、悔しい気持ちもある。でも、今は嬉しい気持ちの方が大きい。自分の大事な幼馴染みが皆から認められ慕われているのだから、嬉しくないわけないんだが。
「みなさーん、はしゃぐのはわかりますがしっかり席についてください! まだHR中なんですから」
『はーい』
その宮守の号令で皆、自らの席へと戻っていく。
「やったじゃんか」
刃はボソッと隣で微笑む光に呟くと、光も「あんたの分も頑張ってきてやるわよ!」と小さく呟き、右手の親指をグッと立てて見せた。
「えー、みなさん浮かれていますね。まぁ無理もないでしょう。でも、ビックな発表はまだもう1つあるのです!」
『!?』
その一言にクラスがざわついた。I-Gの代表発表ほどビックなこともないだろうに、まだ他のことがあるらしい。
「まず皆さん、この大会には『特別枠』があるのをご存じですか?」
『……特別枠?』
「はい。『特別枠』というのは、2種類の人に分けられます。まずは『特待生』。彼らは学校の出場枠とは別に枠が設けられています。それは彼らが強すぎる力を持つ故に出来た必然の枠と言えますね。つまり、この学校では黒道鎧亜君が枠組みに関係なく参加確定となっているのです」
「……っ!」
その名前に刃の体は無意識に震えた。
黒道鎧亜。この学校にいる『特待生』であり、先日自分達を襲ってきた相手。あの後も警戒してはいたが、全くこちらに干渉してこない。いったいどういうつもりなのだろうか。
「それとは別にもう1人。前年度の『I-G』でMVPを取った選手に与えられるものです。その選手が独断と偏見で選んだ人、1人を“大会に無条件で参加”させられるという権利なのです」
『えっ!?』
その声を待ってました、と言わんばかりに宮守は口角を上げて手をパンと平打った。
「では順を追って話しますが、去年の『I-G』でMVPを取った2年生。つまり今の3年生がこの学校にいるのです」
「それって……もしかして龍堂翼先輩のことですか?」
「えぇ、その通りです」
その一言にクラスはまたもざわつく。
「(り……龍堂翼?)」
周りを見渡しても知らないのは自分だけのようなので、ここは知ったかぶりをしておこう。
しかし、それを遠目で察したように宮守は続ける。
「彼はこの学校の現・生徒会長であり、去年の『I-G』で団体、個人を勝ち抜き見事にMVPに選ばれた優秀な生徒です」
「その人が『特別枠』を持っている……ですよね」
生徒の誰かが何気なくそう聞いて、
「えぇ。そしてその『特別枠』に、今回このC組の火野刃君が選ばれました」
あまりにもサラっと衝撃的な真実を告げた。
「………………………………………………は?」
『『『えええええええええええええ!!?』』』




