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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第2章 特待生
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9『兄として』



             *




 その日の朝は少し早かった。

 兄が起きてくる前に飯の準備をし、終わらせるべきことを終えて家を出る時間までコーヒータイムを楽しむ。

 別に学校へ行かなくてもいい身分なので焦ることもないが、勉強はできるに越したことはない。それに今は別に学校へ行かなければならない理由もある。


「……あのガキ」


 黒道鎧亜は思い出す。あの子供が予想通りだとするなら、なぜあそこに現れたのか。そこに何か理由があるはず。

 現に自分は特待生でありながら、彼らに野望を阻止された。大門寺光に水仙流斗、風間翔矢、そして、


「……火野、刃」


 一番の想定外は奴だった。あの紋字はなんだ。今まで自分が見たこともない紋字だった。


「……しばらくは、様子見だな」


 そう呟いてコーヒーを口許へ運ぶ。そうだ、あの子を奪うのはあれの真意を確かめてからでも遅くはない。いつでもチャンスはある。

 鎧亜は朝食を片付けると玄関へ。靴を履き出ようとしたところで、


「……あれ? 鎧亜、もう出るのかい?」


 2階に続く階段の先から声がかかる。


「……おはよう、兄貴」


「あぁ、おはよう。なんだよ、言ってくれれば良かったのに。今日の当番は僕でしょ?」


「大したことない。行ってくる」


「……なぁ、鎧亜」


「……何だ?」


 鎧亜はドアノブに手をかけたまま、振り返らずに聞き返す。


「…………いや、なんでもない。いってらっしゃい」


「……あぁ」


 閉まったドアを見て、鎧亜の兄、黒道司郎は肩を落とした。また、何も聞けなかった。


「……鎧亜」


 君は、僕を恨んでいるかい? 憎んでいるかい? そんな言葉がずっと喉に引っ掛かったまま。


 それでも、今は笑顔で送り出せるこの状況が嬉しい。それを壊したくないから、言い出せない。


 情けないことはわかっている。でも、今だけ。今だけは。


「……いってらっしゃい、鎧亜」


 ただ兄として、できる限りのことをする。それが自分の、贖罪しょくざいなのだと。

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