8『ふりだしに戻る』
「「誰が可愛いんだって?」」
「!?」
急いで手を離して声の方を見る。そこには周りを覆うカーテンから顔を覗かせる2人組。
「流斗! 翔矢!」
「静かにしろ、ここは保健室だぞ?」
「……あっ」
思わず声を荒げてしまったことに焦り、口を塞いで回りを見回してから刃はゆっくり口を開いた。
「な、なんで先に声かけないんだよ」
「いやー、声かけようとしたらいい雰囲気なもんでな」
「邪魔できんやろってなぁ」
それにしてはタイミングを見計らったような感じだったが、それよりまず確認しなければならないことがある。
「あの後どうなったんだ! 藍は!? 鎧亜はどうなったんだよ!?」
「わかったわかった、説明するよ」
「藍はそこや、見てみ」
翔矢が指差す先を見ると、
「……藍!」
光の足元でクークー……と気持ち良さそうに寝息を立てる藍がいた。
「……あの後、黒道鎧亜は雅ちゃん先生に邪魔されて素直に引き下がった。でも、諦めた訳じゃなさそうだった。これからも警戒は怠らない方がいい」
「そ、そうだな」
「私がどうかしましたか?」
「「「!?」」」
急に後ろからかかる声に流斗と翔矢は超反応。振り替えって、その顔に安堵する。
「なんや雅ちゃん先生か。驚かさんといてくれ」
「え? 驚かせてしまいましたか。それはすいませんでした」
宮守雅人。刃達の担任で、今回の件で刃達を救ってくれた人物でもある。
「……刃君、容態はどうですか?」
「は、はい。全然平気です。このあとの授業は出れます!」
「いいえ、出ることは許しません。ここで光ちゃんと共に休んでなさい。今回は特別中の特別ですから」
その優しい笑顔にこっちまで安心してしまう。本当にこの先生はすごい。
「それにしても、おめでとう刃君。I'tem、出たのですね」
「……えっ、あっ!」
言われて思い出す。そうだ、鎧亜との戦闘中にI'temが出たんだった。
「これで『IーG』の参加券を手に入れられるかもしれませんね。いやー、一時は刃君はどうするのかって職員の間で話題だったのですが、これなら心配はないですね」
「あ、アイグランプリ!?」
『IーG』。それはI'temの祭典で各学校で選りすぐりのメンツが集まって、最強の学校を決めるものである。
毎年の盛り上がりはとてつもないもので、『IーG』に出たくてこの強豪、桜ヶ峰に入学する者も少なくない。
そして来週からその代表を決める選定が先生たちの間で行われる。刃はI'temを持っていなかったので、半分諦めていたが。
そうか、自分が出れる可能性があるのか。
「……そっか。そっか!」
「良かったのぉ、刃!」
「おめでとう」
翔矢と流斗も祝福してくれる。こんなに嬉しいことはない。
「……もちろん可能性の話でしょうが、私は期待していますよ」
「……はい! 絶対に、代表になってみせます!」
「いい心がけです。では刃君のI'temを今一度見せてもらえますか? こちらで登録しておきたいので」
「はい、えっと……」
そうして刃はポケット、背中、身体中、パンツの中と確認し、
「……ない」
「「「…………え?」」」
「……ばか」
最初から起きていた光の小さな呟きに気付く者は、誰1人いなかった。




