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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第1章 I'tem~アイテム~
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3『I'tem~アイテム~』




「おうおうおう! 相変わらずの人気者だなぁ、お前ら!」


 と、そこで前に立ち塞がる男が1人。刃達はその男を一目見てジリジリと歩み寄り、


「……ところで刃、今日の夕飯家で食べるんでしょ? 何がいいかをお母さんがリクエストしてって」


「えー、リクエストって言われてもなぁ」


「なんや羨ましいなぁ、ワイも一緒に混ぜてーな!」


「別にいいと思うわよ。お母さんも久々に会いたがってたし。流斗も来る?」


「なら一度解散してから向かうよ。荷物も置いてきたいからな」




 その横を華麗に通過スルー




「無視すんなテメェら!? 無視すんなら泣くぞ! この公共の場でテメェらの名前を叫びながら泣き叫んでやるぞ!」


 全員が渋い顔をしたが、無視はできないらしい。


「……何かしら、矢田くん」


「ハッハッハ、やーっとこっちに気付きやがったな! 今日こそ決着をつけに来たぞ、流斗に翔矢!」


 矢田堅二やだ けんじ。人気者の流斗と翔矢に何かと因縁をつけてくるやつ。高校に入ってからこれで何度目かわからない。


「……あのねぇ、私達も毎回毎回あんたに関わっていられるほど暇じゃないのよ」


「お前には聞いてないんだよ、大門寺光! 俺が用があるのは──」




「……何か言ったかしら?(ギリギリギリギリ!)」


「申し訳御座いません光さんにご用はありません後ろの2人に少々お時間いただきたいんですぅぅぅぅぅ!!!」




 流れるように関節を決める光。謝ったので解放してやると、矢田は急いで光から距離を取る。


「ふ、ふぅ。さ、さて、ちょっと回り道したが勝負だ、流斗に翔矢!」


「なんでお前と俺らが戦わなくちゃならないんだ?」


「……へっ?」


「矢田、俺は常に学年1位を取るために帰って勉強をしなきゃならない。それにI'tem(アイテム)の修練もな。その時間を削ってまで、お前に付き合う義理はどこにある?」


「そ、それは、お、お前らは俺のライバルだからだよ! だから勝負してどっちが上か──」


「ライバル? じゃあお前は俺や翔矢と同じ『五紋の砦(ファイブブレイザー)』に選ばれていたっけか?」


「え……い、いや、それはその……」


「それとも俺と勉学の順位争いでもしていたか? 少なくとも上位10人にお前の名前を見た覚えはないな。それとも翔矢のように体育の成績がずば抜けて良かったか?」


「…………」


「それともI'temの成績が良かったか? いやそれなら俺たちと同じく『五紋の砦(ファイブブレイザー)』に選ばれていたはずだな。俺が思うに俺たちとお前が『ライバル』と呼ぶにふさわしい関係とは思えない──」


「流斗、その辺にしといたれや。矢田泣きそうやで」


 翔矢に諭され矢田を見ると半べそをかいている。少々やり過ぎたか。


「……矢田、冗談だ。勝負方法はどうする?」


「!!! な、なら翔矢、まずはテメェだ!」


「えぇで。どんなルールでやるんや?」


「小難しいルールは要らねぇ! 『参った』と言った方が負け、それでいいだろ!」


「シンプルでええな。それでいこか」


 そう言って翔矢は腰の辺りから手のひらサイズの刀の形をしたキーホルダーを取り出す。


「へっ、昨日までの俺だと思うなよ!」


 矢田も腰に手を当ててキーホルダーを取り出し、両者はそれを前方に構えて同時に叫んだ。




「「解紋かいもん!」」




 その叫びに呼応してキーホルダーが輝きだし、その輝きは徐々に形を変えてその場に顕現した。


 翔矢は柄に竜の彫物が入った刀、矢田はボクシンググローブ。


 これがこの世界の常識、『I'tem(アイテム)』。


 普段は先程のようにキーホルダーの形で仕舞われているが、『解紋かいもん』の合図と共にその姿は本来の武器の形へと戻る。


「さて、どっからでもええで」


「ふっふっふ、そんな余裕ぶってられんのも今のうちだ!」


 と、矢田のグローブに周りから光のつぶが集まり、その拳に『瞬』の文字が浮かび上がった。


「行くぜ! 『初紋字ファーストスキルしゅん』!」


 瞬間、矢田の姿が全員の視界から消える。


「え!?」


「……へぇ」


 刃は驚き、光は感心したように声を漏らした。


 これがI'temを使った戦闘術『解紋華かいもんか』。


 この世界には"燈気ひき "と呼ばれる心に反応するエネルギーが存在する。


 それは大気中、地面、水の中、至るところに存在し、人体の生成にも関係する非常に重要な原子の1つ。


 その特徴は『もん』という力を集める文字に反応し、その『紋』に燈気を集めることによって力が使えるようになる。


 その『紋』を使った戦闘術。それが『紋字スキル』だ。


 『紋字』には『ファースト』から順に『セカンド』、『サード』、『フォース』の4段階あり、上に上がるにつれて難易度と威力が格段に上がる。


「どうだ翔矢! いくらお前でもこのスピードにはついてこれないだろ!」


 つまり姿が透明になったわけではない。矢田は高速で移動しているだけ。速すぎて姿が見えないのだ。


 対する翔矢は少し口角を上げて刀を肩に構えたまま全く動かない。


「終わりだぁ!」


「『初紋字ファーストスキルげき』」


 そして、一瞬で決着はついた。


 矢田の拳が届く前に、翔矢の刀の切先は矢田の喉元に突きつけられる。


「……!」


「ワイの勝ちやな」


 誰がどう見ても、翔矢の勝利だった。


「な、なんで……俺の姿は見えなかったはず……!」


「いいや、ばっちり見えとったで。ワイに速さで挑むなんて良い度胸しとったけど、残念やな。まだワイの方が速い。そんで、まだやるんか?」


「……ま、まいった」


 矢田の言葉に満足そうに翔矢は刀を下ろす。

 翔矢のI'temは速さに特化している。その速さとI'temの持つ属性『風』を操って自在に繰り出される攻撃は他の生徒の追随を許さない。


「く、くそっ! なら流斗、今度はテメェだ! 絶対に泣いたって止めてやらな──」


「ほう、それは奇遇だな」


「……へ?」


 矢田が流斗の方を見ると、もう流斗はI'temを解放していた。綺麗な蒼の宝飾が施された両刃剣。それが流斗のI'tem。


「『初紋字ファーストスキルロンド』」


 そしてそこから伸びる無数の『水』属性の鞭。こんな数は普通は扱えない。


 翔矢といい流斗といい、さすがはこのI'tem実技の有名校である桜ヶ峰高校で、更に上位実力者5人に与えられる称号『五紋の砦(ファイブブレイザー)』に1年生にして選ばれた2人なだけはある。


「いや、この鞭で無限にお前の顔を叩き続けたらどうなるのか興味があってな。泣いても止めないならちょうど良い。どこまで連打が効くか試して──」


「参りましたぁ!!!」


 華麗なる土下座を披露した。こういうところはいさぎよい。


「……ふ、ふふ、ま、まぁお前達は前座だよ! 本番と行こうじゃねぇか、なぁ刃!」


「……」


 そしていつもの、この流れだ。


「あんた、いい加減にしなさいよ! 今日という今日は──」


「……いいぜ、やろう」


「ちょ、ちょっと刃!?」


 光の制止も聞かずに刃は1歩前に出る。そして静かに拳を構えた。


「良い度胸だな。じゃあいくぜぇ!」


 そして一気に距離を詰めて、それぞれの拳が放たれた。


「グッ!?」


 結果はいつもの通り(・・・・・・)


「あっれぇ~刃君どうしたんだい? I'temはもちろん使って良いんだよぉ?」


 頬を殴られ倒れこんだ刃にわざとらしく言うと、もっと大袈裟に矢田は皮肉を言ってのける。




「あぁそっかぁ! そういえばI'temが無いんだったね君は! 忘れていたよ失敬失敬!」




 火野刃は、I'temがない。

 どうしてかは謎だが、普通12歳頃までに発現するはずのI'temが、16の彼には存在しなかった。そんな人の前例もない。


 だが、彼がこの世界の常識を持っていないことは確かだった。


「いやーでもI'temがないなんて普通は思わないからさ! まぁ無い方が悪いよねぇ! だってこの世界じゃそれが当たり前なんだし? むしろ持ってない刃が悪い──」


「解紋」


 と、刃と矢田の間に立って彼女がI'temを解放する。


「ひ、光……!」


「いい加減にしなさい。それ以上言うなら、代わりに私が戦ってあげるわ」


 光のI'temは自身もスッポリ覆ってしまうようなドでかい盾。

 怒りのせいか本来の属性である『炎』がいつにも増してメラメラと燃え上がっている。


「い、いや、きょ、今日のところは引き下がってやるよ! またな、流斗に翔矢! 今度はボッコボコにしてやる!」


 そんな捨て台詞を吐いて矢田はそそくさと退散していった。光達もI'temを元の姿に戻す。


「……あんたねぇ! あんな勝負をわざわざ受けてやる必要なんか無いのよ!? なのになんで毎回毎回受けて立つのよバカなの!?」


「ま、まぁまぁいいじゃねぇか。別にたいして怪我したわけでもないし……」


「良いわけないでしょ!? あんた舐められてんのよ! 悔しくないの!?」


 そう言われて言葉につまる。

 確かに反撃できずに負けるのは悔しいが、こっちにもその勝負を受けたい理由があるのだ。


「……いいわ。その腐った根性叩き直してやる」


 そう言って光は1枚の紙を刃に向けて差し出した。


「……なんだ、これ?」


「今度の体育祭実行委員、1年からまだ出るメンバー決まってなかったのよ。あんた出なさい」


「……は?」


 あまりにも唐突なことに刃の頭が追い付かない。


「一緒に体育祭実行委員を私とやるのよ。私が1年委員長であんたが副委員長。文句はないわね?」


「大有りだよ!?」


 I'temを持ってない自分が体育祭実行委員なんてなんの冗談だ。何かあったときになにもできないじゃないか。


「うるさい。もうこれは決定事項よ。明日からガンガンこき使ってやるから覚悟しなさい!」


 そう一方的に捲し立てて、光は1人帰り道へ足を伸ばした。

 体育祭実行委員だって? そんなもの出来るわけがない。こんなときは頼りになる幼馴染2人に同意を求める。


「お、おい流斗に翔矢! お前らからもなんとか言って──」


「あ、じゃあ光。時間はいつも通りに行く。適当に物は持っていくから」


「ワイもや、お母さんによろしゅうな」


「あぁハイハイ。お母さんにも伝えておくわ」


「話聞けよ!!!」


 逃げる場所もなく、刃は肩を落として3人の後ろについていく。

 せめてこの不安が的中しませんように。刃はそう切に祈るのみだった。

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