9『夜明け』
光の身体は大きく弧を描いて飛び、音を立てて落ちた。
「……全く、さっさと渡せば死なずにすんだものを」
「貴様ああああああああああああ!!!」
流斗の激昂の一撃すら鎧亜は簡単に受け止めて見せる。
「ひ、光……!」
「ママ!」
刃はなんとか体を引きずって光のもとへ移動。
「ママ、ママ!」
「光、おい光! 返事しろよ!」
「………う、うぅ!」
良かった、まだ息がある。とはいえ、身体の至るところから出血している。このままでは本当に命が危ない。早く病院につれていかなければ。
「……せっかくだ。もう1つお前達に絶望を教えてやる」
「黙れええええええええ!!!」
「『弐紋字・鎧帝』」
流斗と翔矢が同時に鎧亜へ向けて刀身を叩きつけた。決まったと思った、その瞬間。
「「!?」」
2人の一撃は鎧亜が纏った黒い衣に防がれた。
「……俺の本領は攻撃力じゃない。この全てを濃縮することによって得られる絶対的な硬度、すなわち防御力。それを全身に纏った。辺りに張ってある『結界』を纏ったと思ってもいい。これでお前らのどんな攻撃も俺に届くことはなくなった」
そして、鎧亜は2人へ向けて掌を向けて、
「今度こそ、終わりだ。『弾』!」
黒い玉を放った。それは流斗と翔矢を直撃し、
「があああああああああ!!!」
「ぐあああああああああ!!!」
断末魔をあげて吹き飛び、2人とも動かなくなった。
「……流斗、翔矢?」
刃にとってそれはあまりにも信じがたい光景だった。流斗と翔矢でも、全く歯が立たない。
「ぐ……あ……!」
「く……そっ……!」
光に視線を戻す。光ももう動けない。誰も勝てない。こんなの、どうしようもないじゃないか。
「ママ! ママ!」
藍は一生懸命に光の体を揺するが、反応がない。
「……おいガキ。俺と一緒に来い。そうすればこいつらは今すぐに解放してやる」
「!?」
それは脅しだった。付いてこなければ刃たちの命の保証はしないと。刃は思わず藍の肩を掴む。
「だ、ダメだ藍! こいつの言うことなんか聞く必要は──」
「『弐紋字・咬鮫』」
鎧亜の一言に藍は肩をびくつかせ、光から鎧亜に目線を移すと、黒い鮫が今度は優に10体は生まれていた。しかも黒い衣を纏ったまま。
規格外過ぎる。さっきのですら、鎧亜にとっては本気じゃなかった。
「……これが最後のチャンスだ。こっちへ来い、ガキ」
──パシッ。
「!?」
藍は肩に乗っていた刃の手を払い除けて鎧亜のもとへゆっくり歩みを進める。
「ま、待て藍! 行くな!」
「……パパ」
と、そこで藍はこちらを振り替えって、
「……あい!」
哀しそうに、笑って見せた。
「……っ!?」
そしてまた鎧亜の方を向き、歩いていく。
全ては、刃たちを守るため。大事なものを守るため。
「……少しは利口なガキだ。お陰で命拾いしたな」
「……藍っ!」
藍を止めようと前に出ようとして、刃の体は前に倒れる。体がまだ言うことを聞かない。
また自分の前には、何もない自身の掌があった。
悔しさが目から涙となって流れ出す。
藍の笑顔が刃の頭から離れない。なんで藍があんな悲しい笑顔をしなきゃなきゃならない。
「くそっ……」
なんで、流斗と翔矢がこんなに傷つかなきゃならない。
「……くそっ!」
なんで、光がこんなに傷つかなきゃならない。
何もない拳を強く握る。まただ。また、自分はなにもできないじゃないか。
なんで自分には友達を守る力がない。なんで藍を守る力がない。なんで約束を守る力がない。
「……くそっ、くそくそくそ!」
──なんで俺には、大門寺光を守る力がない。
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
守りたいんだ。大事なんだよ。みんなみんな自分の大事で大切で、絶対に守りたいものなんだよ。
『アイ!』
あの笑顔も、あの声も、あの温もりも、
『大丈夫だよ光ちゃん、僕たちが、絶対守るから』
『藍を、守って』
あの子供の頃の約束も、今の約束も、守りたいんだよ。
「……なぁ」
刃は語りかける。他でもない、自分自身に。
「……もし、もし俺に心があるってんなら、今でなくていつ出るんだ!」
刃は強く、強く拳を握る。その拳にゆっくり何かが集まっていく。
それは小さく、暖かい『何か』。それが小さくも大量に。
「……守りたいんだよ、大好きなんだよ、大事なんだよ。心からそう思ってるんだよ! そんなの、俺の心ならわかるだろ!」
集まるそれはどんどんと大きく、輝きを増して、強さを増して。
「……もし、もし俺に心があるってんなら……」
「俺に、みんなを守る力を寄越しやがれえええええええええええええええええええええ!!!」
──その輝きは、太陽になった。
「!?」
刃も気がつく。体が軽い。腕が動く。そして、握った拳から溢れ出す強い輝き。刃はゆっくりと、その握った掌を開く。
──中にあったのは、一筋の光。
「……っ!」
なんであるのかはわからない。いや、そんなものわからなくていい。
でも、もし今何かを変えることが出来るとしたら、これ以外に手はないんだ。
刃はその輝きを握りしめ、熱い魂で叫ぶ。
「解紋!!!」
「さぁ、ここまで来い」
藍は鎧亜が差し出した手に向かって真っ直ぐに歩く。
きっとこれでみんな助かる。そう藍はわかっていた。そして、居たくなかった場所に戻されることも。
でも、今の藍にはそれよりも大事なものがあった。大好きなパパとママ。それにその友達。それが自分のせいで壊れようとしている。
でも、これで全部終わる。きっとこれで大丈夫。藍はそう信じて鎧亜に向けて手を伸ばそうとしたところで、
──強い輝きが、辺りを照らした。
『!?』
藍が振り替えって見ると、暗い中にゆっくりと緋色の輝きが昇る。
それはまるで、朝日のように。
そして、その輝きを引き連れてゆっくりと歩いてくる影。
「!?」
その影は藍の横を通りすぎ、鎧亜と藍の間に立った。
「……ぱ、ぱ?」
「大丈夫だ、藍」
その輝きは、とても暖かい。全てを包み込む、暖かい太陽の光。
「……お前は、俺たちが守るよ」
大きく輝く、その背中。
「……貴様」
「……黒道鎧亜。お前に藍は渡さない」
彼はその輝きを鎧亜に向けて言う。その金色の輝きは形を変え、剣となった。
その光景を見て笑ったものが2人。
「はは……」
「……遅すぎやっちゅーねん、ホンマに」
流斗と翔矢。そして同時に、呟いた。
「「頼んだ、火野刃」」
「お前の相手は、俺だ!!!」




