8『希望』
「……っ!」
無理だ。もう翔矢も流斗も限界。打開する術も、その時間もない。
「……誰が!」
「諦めるかい!」
「!?」
それでも、流斗と翔矢はI'temを構える。その目は決して死んでいない。
「……なぜ立ち上がる。貴様らは赤の他人のために死ぬと言うのか?」
「……赤の他人じゃ、ないわよ!」
「……光!?」
体調が優れなそうな光も震える足を踏ん張って立って見せる。
「ほう、血の繋がりもなければ出会って間もないガキを他人と呼ばずになんと言うんだ?」
「……たとえ血の繋がりがなくったって、出会って間もないからって、私は仮にもこの子の『母親』なのよ! 解紋!」
光もI'temを解放し、鎧亜に対して言い放った。
「……この子は、私が守るわ! あんたなんかに、藍は渡さない!」
「手ぇ貸すで、光!」
「……行くぞ2人とも。上等だ、3日でもなんでも耐えてやろうじゃないか」
奇妙だ、鎧亜は素直にそう感じる。
どうして奴らは諦めない。ここまで絶望的な状況にも関わらず、なぜ向かってこられる。
その理由に鎧亜は心当たりがあった。きっと奴らには『希望』がある。それを見つけて折ればこの勝負は決するはずだ。
そして、『希望』を持つ唯一の可能性は、
「……お前か」
『ガアアアアアアアアアアア!!!』
鎧亜が太刀を振り上げると4匹の鮫達は一斉に目標めがけて真っ直ぐに突き進む。
その目標はただ1つ。
「「「……っ!?」」」
──大門寺光。
「「初紋字──」」
「流斗、翔矢、行って!」
鮫に応対しようとした2人の前に出て、前方に手を構えて光が指示する。
「なに言ってる!? お前1人でどうにかできるものじゃ──」
「あいつの目当ては私よ、今ならあいつの身体はがら空きなの! これを逃したら勝機はないわ!」
「せやけど、そしたらお前は……!」
「これは負けられない勝負なのよ、流斗、翔矢!」
「「……!」」
そこで光は2人に向けて優しい笑顔を向けた。
「……お願い、2人とも」
「……っ!」
「流斗、先に行くで! 『麟』!」
翔矢は先に出る。鮫を横目に真っ直ぐ狙うは鎧亜本体。
「……すぐに戻る、それまで耐えてくれ! 『激』!」
流斗もそれに続く。一刻も早く鎧亜を倒す。それしかない。
「……愚かな」
「らあああああああ!!!」
鎧亜は翔矢の『麟』がのった一撃を軽く受けて見せる。
光は息を整えて集中。精神統一。避ける択はない。避ければ後ろの刃と藍を巻き込んでしまう。
なら、取る択は決まっている。
「『初紋字・甲』!」
自分1人で4匹を受けきるしかない。前方に円形の盾を張り、腰を据えた。集中しろ、燈気を極限まで高めろ。
鎧亜は言った、この空間は全てが圧縮されている特別な空間だと。なら、燈気も例外じゃないはず。
つまり、すぐに次の紋字を使いやすいはずだ。
『ガアアアアアアアアアアア!!!』
「ぐうっ!?」
展開した『甲』で1匹目を受け止める。その強力な歯が『甲』に皹を入れる。
「らああああああああああ!!!」
光は『甲』を横にずらして鮫の威力をいなすと、鮫は地面に当たって消える。
「……ほう、やるな。だがあと3匹だぞ、女」
『ガアアアアアアアアアアア!!!』
「……!?」
次に迫る鮫に『甲』をもう一度向けるが、
「きゃああああああああああ!!?」
皹が入ったままの『甲』はいとも簡単に砕かれ、光を直撃し消える。
「光ぃ!?」
思わず刃は叫んだ。光の身体は吹き飛ばされ、そのあと目前に迫る鮫2匹。
「……終わりだ」
翔矢と流斗を相手にしながら鎧亜は呟いた。
「……っ、まだぁ!」
「……なに?」
光は吹き飛ばされながらもすぐ立ち上がってI'temを構える。踏ん張って燈気を練り直し、
「『初紋字・甲』!」
『ガアアアアアアアアアアア!!!』
3匹目を受け止める。さっきよりも皹が入るのが早い。
「ぐうっ!」
「やめろ光! このままじゃお前──」
「……刃!」
刃が見えるのは、光のその背中だけ。だから、光がどんな表情をしているのかわからない。
「……大丈夫だよ、刃。私は、刃を信じてる。刃は誰より強いって、私は知ってるから」
光の『甲』がゆっくり砕けていく。そして砕ける寸前。
「はああああああああっ!!!」
その鮫を押し返し、『甲』の破壊と同時に鮫も消える。
「だから……お願い、刃」
「……っ!」
そこで光は振り返り、刃に向けて笑顔を作る。その背後に、最後の1匹。
そして、
「……ま、ま?」
目を覚ました藍の目の前で、
「藍を、守って」
──光の身体は、大きく吹き飛んだ。
「ひかりぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」




