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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第2章 特待生
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7『時間』


「……はあっ!」


「流斗!?」


 膝から倒れこんだ流斗に刃は急いで駆け寄る。


「大丈夫か流斗! 身体は──」


「……心配ない。ちゃんと俺だよ」


 冷えてまともに体も動かせないが、なんとか刃にだけは笑顔を作ってみせた。


「……全く、無茶はしないでくれって言っただろ」


「そうでもしなきゃ勝てなかったさ。そのくらいわかるだろ?」


「そ、そりゃそうかもだけど……」


 刃が前方に目を移すと、辺り一面が氷の世界に変わっていた。

 これは下手をすれば流斗自身の危険に繋がる紋字スキル。そこまでしなければ確かに勝てなかった。

 いかに鎧亜と言えども、さすがにこれをまともに食らって立ってなどいられないだろう。そう思っていた。


「……え?」


 と、そこで刃は気づく。銀世界の中に1つ、黒い空間があることに。


 その空間はまるで生き物のようにどんどん周りの氷を食って大きく成長していく。


「お、おい……」


 嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感。しかも、


「『結界』が……解けてない!?」


 辺りを覆う黒い膜はいまだにその場に存在している。これらが示すことは、ただ1つ。


「……こんなに驚かされるのが多いのは、はじめての経験だ」


 ゆっくりその黒から現れたのは、やはり、


「……黒道、鎧亜!?」


 まさかあの流斗の一撃を受けても平気でいられるとは思っていなかった。流斗も苦虫をかみつぶしたような顔で歯を食い縛る。


「……まさか、お前があの一族(・・・・)だったとはな。いや、水仙という名で警戒すべきだったか」


 そこで初めて鎧亜は嬉しそうに笑って見せる。どうやら鎧亜は、この戦いを楽しんでいる。


「お、おい流斗!?」


 流斗はなんとか立ち上がってI'temをその手に構える。

 しかし体温が下がりすぎているのだろう、体の震えが止まっていない。


「ほう……まだ戦う気力があるのか。勝ち目がないことは今の1回で理解したと思ったが」


「あぁ……それは理解したさ。でもな、俺は勝つことを諦めた訳じゃない」


「……何?」


「……5分だ」


 そう言って流斗は片手をパーにして鎧亜に見せる。


「……5分? なんの話だ」


「わからないなら教えてやる。それはここに俺たちが入ってから経過した時間だ。考えてもみろ。もう授業が始まる寸前から5分も俺たちがいなかったら先生たちが動き出す頃だ。そして校庭でのこの大きな紋字、気づかないはずがない。そうなればお前は逃げられないぞ?」


「……!」


 そこで刃も理解した。流斗の狙いは最初から鎧亜自身を倒すことじゃなく、


「……俺たちにとっての勝ちはお前を倒すことじゃない、藍を守ることだ。先生方に囲まれれば、いかに黒道鎧亜と言えど簡単には突破できないし、できたとしても誘拐事件だ。大事は避けられない」


 鎧亜の足止めと時間稼ぎ。最初からそれが流斗の狙いだった。

 きっとあわよくば倒せれば良かったんだろうが、倒せなくても勝てるよう考えられた作戦。流斗のこの機転の良さはさすがとしか言いようがない。


「……」


「……今ならまだ間に合う。『結界これ』を解除しろ。そうすれば俺らも何もなかったことにする」


「……クックック!」


 と、次の瞬間、


「アハハハハハハハハハ!!!」


 大口を開けて鎧亜は笑う。


「……何がおかしい?」


「いや、何に希望を持っているかと思えば、貴様も結局は他人任せか。期待して損したよ、水仙流斗」


 そう吐き捨てると鎧亜は太刀の切先と視線を流斗へ向ける。それはどっちも殺気に満ちていて。


 もうこっちに切れるカードはない。あとはなんとか時間を稼ぐしかない。


「刃、時計を見ろ! 今何分経った!?」


 流斗は鎧亜から目を離すわけにはいかないため、刃に確認を促す。

 もう優に5分は経ったはず。ならもうあまり時間は要らない。それなら守りきれる。


「お、おう! えっと、今の時間は……」


 そう指示を受けて刃は『結界』の外にある校庭に設置された時計の時刻を確認、そして……。


「……え?」


 愕然として固まった。


「おい刃! なにしてる! 時間は何分経ってるんだ!?」




「……ない」




「なんだ!? なにがないんだ!?」


「……経って、ない」


「!?」


 その刃の一言に思わず流斗が視線を時計へ向けると、


「ば、バカな……!?」


 1分すらも経っていなかった。時計が壊れているのか、そう疑問に思ったとき。


「……あの時計は壊れていないぞ」


 そう呟くように言ったのは黒道鎧亜。


「この空間は俺の『闇』で作った特殊な圧縮空間だ。ここでは全てのものが圧縮される。攻撃の密度、体内の細胞密度、そして……時間もな。具体的に言えば」


 そこで鎧亜は下卑た笑みを浮かべて太刀を振る。そして再び太刀の『口』が開いた。




『ガアアアアアアアアアアア!!!』


「……外での1秒が、ここでは1000秒だ」




「……っ!?」


 そのことがどれだけ絶望的か流斗は瞬時に理解する。


「つ、つまり、どういうことなんだよ」


「そっちは理解が悪いようだな。つまり外での60秒はここでは60000秒。つまり外での5分というのはこの5倍の300000秒、これを分に戻すと……」




「5000分、時間にして約83時間、ざっと3日と半日ってところだ」


「なっ……!?」




 あり得ない。特待生というのは、時間さえ自由にできるとでも言うのか。


「さて、お前達の取れる選択肢は2つ。諦めてそのガキを渡すか、それとも」


『ガアアアアアアアアアアア!!!』


 鎧亜の太刀から黒い鮫が産み出される。しかもさっきよりも多い4匹。


「こいつらの餌になるか、だ!」

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