7『冷たい音』
なぜ2人がここにいるのかわからないが、一刻も早く藍をあの男から引き離さなければ。
機嫌を損ねてなにかされてはまずい。刃は急いで2人の間に割って入る。
「お、おい藍! 心配したんだぞ! 勝手にいなくなるなよ!」
「パパ!」
刃を認識すると、藍は満面の笑みで抱きついてきた。
「……パパ?」
そしてその一言を黒道鎧亜に聞かれる。まずい、このままではまずい。
「い、いやー! お前はまだ男はみんな『パパ』だからなー! そう言われたら誤解されちゃうだろー!」
わざと大きめの声でそう言いながら後ろに立つ鎧亜の反応を見ると、
「あぁ……そういうことか」
納得してくれているらしい。なんとかこれならセーフだ。
「さ、さぁ藍。俺と一緒に先生のところへ行こうな! 午後の授業が終わるまで先生とおとなしく待っててくれよ?」
「アイ!」
元気よく返事をする藍の手を引いて早足で離れる。ここにいてもあまり良いことはなさそうだと刃の勘が告げている。
──キーンコーン、カーンコーン。
「ヤバっ! チャイムが!?」
授業の始まりを知らせるチャイムが辺りに響く。早く戻らなければ先生にどやされる。
「藍、早くこっちに……藍?」
刃が藍を見ると、なにやら藍の様子がおかしい。
「あ……あ……!」
耳を塞いで体を震わせ、顔面は蒼白。チャイムの音の度に身体の震えが大きくなっている。
「お、おい藍!? 大丈夫か!?」
「あ……あ……!」
刃が肩を掴んで揺さぶるも、藍は刃に焦点を合わせず遠くを見て震えていた。
「どうしたんだよ、一体……!」
「あ、いた! ちょっと刃、なにしてんのよ!」
「見つけたのか。なら早く先生のところに連れていこう」
と、そこに藍を探していた光、流斗、翔矢が合流。
「……ん? なんや、藍ちゃんどないしたんや。顔色が悪ないか?」
「ちょ、ちょっと藍!? 刃、藍になんかしたの!?」
「い、いや何もしてないって! なんか急に苦しみだして……」
──キーンコーン、カーンコーン。
そして最後の鐘が鳴り響いた、その時だった。
「あ……アアア……!」
*
暗い場所にいた。とても暗く、冷たいところ。
大嫌いなその場所に、ずっと『彼女』は閉じ込められていた。
「誰か……誰か……!」
と、ゆっくり足音だけが近づいてくる。誰かなんてすぐにわかった。
ここに来る人なんて、今の今まで1人しかいない。
「……おぉ、素晴らしい! とうとう『力』に目覚めたんですねぇ!」
『力』という言葉に身に覚えがない。一体なんのことだろうか。
「さぁさぁ、そうとわかれば善は急げです。善とは、言えないかもしれませんけどねぇ」
その下卑た笑みを浮かべながらゆっくり近寄ってくる。
「いや……やめて……!」
「さぁさぁ、今日も楽しい実験を、始めましょうか!」
「やめて、いやいやいや、やめてええええええええええ!!!」
──ゴォーーーーンと、そこでは常に重く冷たい鐘の音が辺りに響き渡っていた。




