5『想定外』
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「……あいつら、本当に置いてくんだもんなぁ」
少し急いで腹に入れたせいで気持ち悪い。これで午後の授業大丈夫だろうか。
「……って、あれ?」
刃が下駄箱まで来たとき、そこに大きな人溜まりができていた。その前に流斗や光、翔矢も立ち往生している。
「……流斗、これなにしてるんだ?」
「……なんでも、誰か部外者が入り込んでいるらしい」
「ぶ、部外者?」
それは俗に言う『不審者』というやつだろうか。
「……俺らも今来たばかりで詳しいことはわからないが、この人だかりじゃ俺たちも中に入れないな」
確かに凄い人が下駄箱に集まっている。これじゃあ間を縫って入るのも難しい。
「……大丈夫でしょ。なんか先生も呼んでるみたいだし、すぐに収まるわよ。それより急がないと授業が始まっちゃうわ」
「せやな。裏から回ろか」
「だな」
そうして刃たち全員が人溜まりへ背を向けた時だった。
「アーーーーイ!」
「「「「…………」」」」
何か、声がした。
「……なぁ」
「……なにかしら、刃君」
「……今、どっかで聞いた声が人溜まりの方から聞こえた気がするんだが」
「……き、気のせいでしょ。だってあの子がここにいるわけないし」
そう言いながらも光は額からダラダラと汗を流している。そういう刃も冷や汗が止まらない。
「せ、せやな! 気のせいやって気のせい!」
「そ、そうだな。こんなところにアイツがいるはずがない──」
「アーーーーイ!」
『なにこの子! 可愛いー! この蒼がかった髪きれー!』
『どこから迷い込んだんだ? 校舎の中には部外者は入れないはずなのに』
『生徒とか先生とか誰かと一緒に入ったんじゃない?』
『それより先生まだか? 早くしないと授業始まっちまうよ』
「「解紋!」」
流斗と翔矢は同時にI'temを解放。燈気を練って紋字を発動する。
「『初紋字・駿』!」
「『初紋字・幕』!」
流斗の『幕』が辺りを包み込む。まるでそれはオーロラのように虹色に輝いて美しく空を彩る。
『うわぁ……綺麗!』
その場の全員が上の景色に気を取られたその一瞬。翔矢は素早くその騒ぎの種を回収。そして刃達全員でその場をそそくさと離れたのだった。
*
「……で、これはいったいどういうことなのかしらね?」
「……俺達に聞くなよ」
「アーーーイ!」
他には誰も来ないであろう校舎裏まで移動して、4人は顔を見合わせた。
原因はもちろん、4人の中心でニコニコとこちらに笑顔を向けてくる火野藍である。
どうやったかはわからないが、あの檻を抜けてきてしまったらしい。
「……とにかく、こうなったものは仕方ない。先生に言って預かってもらおう」
「な、なぁ。それって親にも連絡いったりしないか?」
「こうなったら仕方がないだろう。刃の両親には今連絡がつかないだろうから、従兄弟と言っても足もつかないし大丈夫だろ」
「いや、そういうことじゃなくて……」
もしこれで光の家に連絡がいくことになれば、藍をそっちに連れていかざるを得ない。
もし光を溺愛している父親や道場の弟子の前で『パパ、ママ』なんて呼んだ日には……!
「確実に……死ッ!」
「何を大袈裟な。ちゃんと説明すればわかってくれるわよきっと」
「……」
光は最初こそ隠そうとしていたが、今では『ママ』と呼ばれることに耐性がついてきたのか至って気にしなくなってきたようだ。
「仕方ない、とりあえず職員室に行くか」
「唯一の救いは、お前達の担任だな」
流斗のその言葉に刃と光は深く頷く。他の猿島や溝渕ではなかなか言い出せなかっただろうが、刃達の担任に限ってはそんなことはなかった。
「ほないこか、『雅ちゃん先生』のとこに」




