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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第2章 特待生
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4『特待生』


             *




「『高貴』って言ってなかったら……たぶん死んでたな」


 考えただけでもゾッとする。今現在、刃は両手と首に水いっぱいのバケツを引っ提げて廊下に立たされていた。


 まぁ、これで済んで良かったと思うしかない。


「しかし……これは内申点に響くんかなぁ」


 そう考え、ため息を吐いたときだった。




──ドゴォォッ!!




 外から響く、けたたましい爆裂音。


「な……なんだっ!?」


 思わず刃は急いで廊下の窓に走り寄って、音がした校庭を見る。外には直径3mくらいのデカいクレーターが1つできていた。

 その手前には腰を抜かした矢田がいる。




 そしてその反対側には、そのクレーターを作り出した張本人であろう人物がI'temを持って悠然と立っていた。




 黒髪のちょい癖が目立つヘアースタイルに、仮面のように感情のない表情。冷酷な漆黒の瞳。


 そして服装。制服の上から白い生地に黒のラインが入った羽織りをかけ、首から丸い"握り拳程度の大きさの黒いペンダント"をぶら下げていた。


 右手に持つI'temは太刀状だが、白の刀身部分に黒のカクカクとした筋が端から端まで入っている。まるで歯並びのように。


 その生徒だけ、明らかに他の生徒とは何か違う雰囲気を出していた。


「……なんだ、あいつ」


 刃は罰を受けている途中ということも忘れ、バケツを持ったまま立ち尽くす。


 そして校庭に立っていた彼は刃が見ていたのに気がついたのか、こちらに目を向けて睨み付けてくる。


「……(ギロッ)」


「……!」


 そのあまりにも暗く冷たい瞳は刃の背筋も凍りつかせた。まるでこちらの全てを見透かしているような、そんな錯覚すら覚える。


 そしてそのまま、背を向けてゆっくりと立ち去っていった。




             *




 その同時刻。教室にもその爆音は聞こえていた。


 全員が一瞬ノートを取っていた手を止めざわついたが、数学の溝渕の喝一発でまたノートを取り始めて静けさを取り戻す。


「(……なに、今の音)」


 光はノートを取りながらも、しきりに廊下を気にする。なぜなら、廊下には今刃がいる。また何かしでかしたのではと気が気ではない。

 やがて溝渕は全員に課題を出し、起こった事態を確信しに教室から外へ出ていった。


 外へ出た瞬間、


『こら刃! お前何してる!? しっかり立ってろ!』


 その声にクラス中が苦笑。とりあえず、爆発音の原因は刃ではないようだ。


 それから10分くらいが経過した頃、刃と溝渕が一緒に教室に戻って来て授業が再開。


「(なんだろう、この嫌な感じ……)」


 ただ1人、大門寺光だけは何かを感じていた。これからヤバイことが始まりそうな、そんな予感が。




             *



 校庭の一角の木の下の段がある場所。そこが刃たち幼馴染みが集まって昼御飯を食べるのが恒例になっていた。


 今日も例外ではなく、いつもの4人が集まる。


「なるほどな、さっきの騒ぎの正体はそれか」


「ワイらのクラスもその話で持ちきりやったからな」


 水仙流斗、風間翔矢が並んで座り、それぞれ持ってきた弁当と購買で買ってきたパンを開け、


「……刃の話を聞く限りじゃあ、やっぱり騒ぎの中心って」


「あぁ」


 その隣に光と刃が弁当を開けて全員で「いただきます」。4人が並んで腰をかけて、それぞれが弁当だったりパンだったりを食べている。


 しかし心なしか、今日は空気が重い。


「……間違いなく、あの騒ぎの中心は……黒道鎧亜こくどう がいあだろうな」


「でしょうね」


「せやな」


「そうだな」


 流斗の言葉に全員が同時に同意し、流斗と翔矢と光は飲み物に口をつける。刃はご飯を1口箸で持ちながら。




「……で、黒道鎧亜って誰だ?」


──ブーーーーーーッ!!




 刃以外の3人が盛大に吹き出した。


「えほっ、ケホッ……は? あんた本気で言ってんの!?」


「……それはさすがに、世間を知らなすぎだぞ。刃」


「え……そこまでのことなのか? で、でも、翔矢だって知らないだろ?」


「なんでワイが知らない側に入ってんねん! さすがにワイでも『特待生』のことは知っとるわ!」


「……『特待生』?」


 そこでまた刃の聞きなれない言葉が出てきた。

 この反応で流斗は刃の「知らない」という言葉が嘘ではないことを確信し、思わずため息を吐く。


「……お前、どうやれば今の今まで『特待生』のことを知らずに生きていれるんだ」


「……これはバカとかの域を越えてるわよ」


「ワイやって知ってるくらいやからなぁ」


 ひどい言われようだが、今はその事には目を瞑る。


「で、なんなんだよ。その『特待生』って。それにその黒道鎧亜がどう関係あるんだ?」


「……そうだな。刃にわかりやすく言うとだな」


 そこでやっと流斗はご飯を口に入れ、飲み込んでから答えた。


「……あいつは、いや、あいつらは『化け物』だ」


「ば、化け物?」


 なにやら物騒な言葉が飛んできて、思わず刃は身構える。


「……まず『特待生』のことについて説明するぞ。『特待生』っていうのは、この世界に『13人いる世界の中心と言われてる者達』のことだ」


「じゃ、じゃあその『特待生』ってのは全員で13人いるのか?」


「あぁ。その内の1人がさっき話に出てきた黒道鎧亜ってわけだ。ここまではいいか?」


 流斗の問いに頷いて応える。そこまでは理解できるが、それがどうさっきの『化け物』ということに繋がるのだろうか。


「……それでもって『特待生』というのは、例外なく『異常なまでに強い力』を持っている。その例として、この学校の入学試験があったのを覚えてるか?」


「あ、あぁ」


 覚えてないわけがない。刃はI'temがない状態でこのI'tem強豪校と名高い桜ヶ峰高校に幼馴染みたちと受かるために、血が滲むほどに努力したのだから。


「……黒道鎧亜。あいつはその試験すら受けていない(・・・・・・・・・・)


「……それって、流斗や翔矢と同じI'tem推薦枠ってことか?」


 『試験すら受けていない』とはいったいどういうことなのだろうか。高校に入る以上は試験を受けるのは普通じゃないだろうか。


 流斗や翔矢は中学時代にI'temの成績優秀さが認められ、『I'tem推薦枠』でこの学校への入学を決めている。

 だから刃も流斗達に付きっきりで面倒を見てもらって、なんとかこの高校に入学することができた。


 その刃の意見を、流斗は首を1回横に降って否定する。


「……俺達『I'tem推薦枠』にもI'temの試験だけはあるんだ。しかしあいつはそれすらない。受ける必要はないと判断されたということだ」


「……もっと言うとやな」


 モグ、と食べていたパンの最後の一欠片を口に放り込んでから翔矢が続ける。


「あいつと同じ中学のやつの話を聞いたんやけど、『特待生』っちゅーのは学校に来んでもええてことになってるらしい。せやから学校にもほとんど来てなかったらしいわ。でも噂じゃ、その在校生徒全員を合わせてもあいつ1人に勝てないくらいの実力差って話や」


「う、嘘だろ!?」


 さすがに刃も度肝を抜かれる。そんなことは流斗や翔矢でも絶対に無理だ。


「……まぁ、さすがにそれは噂に尾ひれが付きまくった結果だろうが。気にするほどのことじゃない。でも、なるだけ関わらない方がいい」


 流斗の本気が滲む忠告に、思わず刃は息を飲んで頷く。


「ならいい。さぁ、おしゃべりが過ぎた。そろそろ戻らないと授業が始まるぞ」


「せやな」


「そうね」


「えっ」


 見ると流斗と光も弁当を食べ終えている。いったいいつ食べたんだ!?


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 今食べるから!」


「さーて、次の授業の準備しないとねー」


「せやなー。ワイは体育やから簡単やな」


「俺は数学だから別に教室移動もない」


 刃のそんな言葉を無視して全員片付けてそそくさと教室に戻ってしまう。刃は見事においてけぼり。


「は、薄情者ぉ!」


 急いで弁当を掻っ込む刃の頭からは、すでに黒道鎧亜のことなど消え去っていたのだった。


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