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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第2章 特待生
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3『提案』


 それが出来ていれば苦労はしないと思う3人を尻目に、刃は自信満々に続ける。


「……流斗、確か流斗って『ケース』が使えたよな?」


 『初紋字ファーストスキルケース』。本来は籠で相手を囲み、一定時間相手を足止めする紋字の一種だ。


「使えるが……まさかそれをこの子に使えってのか?」


「そのまさかだよ。『I'temの技の精度、威力と持久力は“使用者の技量や能力”に比例する』って授業で言ってたろ? だったら流斗の『籠』はきっと1日くらいは持つんじゃないか?」


「あのなぁ……そんな事、無理に決まってるだろ。プロだって1日技を継続させるのは至難の技なんだぞ?」


 流斗は呆れ顔で刃の発言を真っ向から否定。いくら流斗と言えど、1日同じ紋字を維持など難しい。しかもその間、流斗はI'temを常に発動していなければならず、他の紋字を使えないことになる。それは流斗だって困る事態だ。


「ううっ……」


 やはり無理かと思った矢先、その意見を擁護するものがいた。


「いや……ちょい待て! それ、どうにかなるかもしれんぞ!」


 それはもう1人のバカ、風間翔矢だった。




             *




「……大丈夫かな、あんなんで。すっごい不安なんだけど」


「大丈夫だって! 心配することない!」


ナマクラの案だから余計心配なんじゃない……」


「……まぁ……気持ちは察する」


 光が肩を落として呟くと、その呟きが聞こえたのか流斗もそれに同意。並んで肩を落とす。


「刃の言う通りや、何の問題もあらへん! なぁ刃?」


「だよな翔矢!」


 ワハハと笑いながら肩を組み先を行く脳天気な2人に、慎重派の2人はますます脱力した。




 翔矢が出した提案は、流斗の『籠』に光の『パワード』という最も一般的な強化技をかけて強化するというものだった。


 光のような盾型は、基本は『防御・サポート』を得意としている。


 さらに1つの技に強化技は一種類、1人しかかけることはできないので、言い出しっぺの翔矢より得意分野の光の方が適任だということになったのだ。


 そして実体化した2人のI'temを翔矢が『擬』で自分のI'temごと景色と一体化させる。これで現在の状態が完成だ。


 幸いなことに今日の授業でI'temを必須な項目もない。これなら今日だけはどうにかなるはずだ。


「あいつ……発案しておきながら、自分は何もしないんだから……」


「まぁ……しかし光の『強』のおかげで少しでも『籠』の中を大きく広くしてやれた。あれならきっと藍も狭いとは感じないだろう。さすがだな」


 脱力して呆れる光に、流斗はさりげなくフォローをいれる。


「……まぁ、流斗の『ケース』だったら私の『パワード』がなくても十分だった気がするけどね」


「おーい! 早くしないと遅刻するでー!」



 光が流斗に笑いかけたとき、前を行っていた翔矢の呼ぶ声が後ろの方にいる2人にかかる。


 と、そこで刃はハッとし、翔矢の腕を引っ張っていく。



「よーし翔矢! 俺と2人で学校まで競争だ!」


「おッ、なんややるかぁ? ワイに勝てる思うんなら、計算違いって事教えたるわ!」


 言うが早いか動くが早いか、2人はスタートの合図と共に学校への道をダッシュで走り去り、あっという間に見えなくなった。


「……ほんとにガキね、あの2人は」


 呆れて光は嘆息したが、流斗は去っていった2人を厳しい目つきで睨みつける。


「……あいつら、余計な事を……」


 そう流斗が呟いたのを、光は聞き取れなかった。



         *



「あーいあい、あーいあい」


 その頃、藍は部屋全体を覆った流斗の『籠』の中で、本を読んでいた。


「あーいあい……あーいあい」


 いつも通り意味不明な歌を歌いながら、体を揺らし足をパタパタさせ、ノリノリで本を読んでいる。

 やがて本に飽きたのか、本を閉じ、外に出ようとドアに手をかけた。


 だが、流斗の『籠』がかかっている部屋から出れるわけがなく、ドアは押しても引いても横にやっても、微動だにしなかった。


 開かない扉に藍の不機嫌度はMAXに近づき、顔をプクーッと膨らませる。


「アーーーイ!!!!」


 そしてイライラが最高潮になったのか、藍は叫んで両手を上げた。


──カッ……!


 すると次の瞬間、辺りに張られていた『籠』が、叫び声と共に消え失せる。

 藍はしばらくぽけーっとして辺りを見回していたが、再度ドアノブに手をかけた。



             *




「はぁ……やっと4時間目かよ」


 暑さにやられて刃は下敷きを団扇代わりにして机に伏し、うなだれていた。

 いつもは冷たい木製の机が今はなんとも心地良い。


「情けないわねぇ。あんた昔はいち早く夏が来たらはしゃいでたじゃない」


「いや……夏休みはいいのさ! 宿題と授業はいらない!」


 刃はうなだれていた身体を起こし、そう断言。

 女子ももう衣替えを終えており、光の薄い白シャツがなんとも眩しい。


「ほほぉ~。俺の授業はそんなにいらんかぁ……刃?」


「「…………えっ?」」


 後ろから聞こえたこの声に、刃と光は固まった。


──こ……この声は……数学の溝渕みぞぶち


 さっきまでと違う汗がダラダラと額を流れる。


 しかし、刃は思い出す。これと似たことが過去に二度もある事を。


 そう……過去に体育教師の猿島、清掃員のおっちゃんなど、人の声色を自在に操り、おちょくってくるやつがいる。


 1度は光に扮して刃を騙そうとしたこともある。あのときだってその特技を活かしたものだった。


「ふっふっふっ……残念だったな。今回は……騙されないッ! 本物の溝渕みぞぶちはそんなゴリラのような声をしていない! 本物はもっと高貴な声だ! お前の声マジック敗れたり、翔矢ぁっ!」


 刃は高らかに叫び、同時に体を捻って後ろに振り返った。




 次の瞬間、目に飛び込んできた光景は刃の体を石像と化す。

 まず見えたのは体。主に上半身の部分。




──……あれ?  なんか……翔矢より腕組みしてる腕とか……ムキムキのような……。




 次に少し上に目線をシフト。




──あれ、ガタイ良くね?  それに心なしか……翔矢より背が高いような……。




 下からゆっくり、『それ』が何かを把握していく。


 そして、これ以上ないくらいゆっくりと顔を上げ、刃はそれ(・・)と目線を交差させた。




「……刃。俺の声はゴリラかぁ……言ってくれるもんだなぁ、おい」



 そこには言うまでもなく、怒り心頭した溝渕が立っていたのだった。

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