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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第2章 特待生
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1『変わりゆく日常』


「うぅーん……」


 刃は自分の部屋のベッドの上で気持ちよさげに寝返りを打つ。


 現在は土曜の午前10時32分。中間テストも先日終わり、今まで勉強に取られた睡眠時間をこの休みに取り戻すために惰眠を貪っている。


 ただただ時間を浪費するこの行為は褒められたものではないが、気持ちいいのだから仕方がない。


「おいナマクラ! いつまで寝てんの!? もう藍も起きてんのよ!? とっとと起きなさい!」


「……」


 だが、その行為を許してくれない者がこの家には2人いる。

 まず1人は今、刃の部屋をドンドンと叩く彼女、大門寺光だ。




──あれから。『火野藍』が刃宅に居座ってから、1ヶ月が経った。




 光は宣言通り、あの日から毎日家に通って家の片付けやら、藍の面倒やらを見ている。


 光自身もまるで妹ができた感覚なんだろうか。とても面倒見がよく刃も助かっている。

 だが刃にとって、藍は時間を取られる対象でしかなかった。


 勉強は邪魔する、風呂は光に来てもらって入れてもらう、ご飯は自分で食べられないから食べさせる。(どうやらスプーンをうまく使えないようだ)


 とにかく、世話が焼ける同居人になった。


「んんっ……あと……もーちょい」


 刃は寝返りをうって答える。しかし、今日はその眠りを邪魔されることはない。


 何故なら、今日はドアに鍵をかけてあるからだ。これならいくら光であってもドアを壊して入るしかない。そこまでのことはさすがにしない。


 悪いな。今日だけはゆっくりさせてもらおうと刃が毛布に包まった時だった。




──ガチャ、っと扉を開ける音。


「…………は?」


 聞き間違いだろうか。間違いなく鍵はかけてあったはずだ。ならドアを開けることは叶わない。ならば今のは聞き間違いに違いない。


──トテテテ……。


「……!?」


 いや、違う。なにかが走りよってくる音がする。そして刃は直感する。やばいと。

 だが時すでに遅し。その小さな影はもう刃の上へダイブ中。




「アーーーーイ!!」


──ドゴォッ!


「ぐはぁっ!!!?」



 藍の全力のダイブがもろに刃の腹部を直撃した。この頃の刃の朝は、いつもこれがモーニングコール。


 それというのも、先日に光が刃の家に様子を見に来ると、まだ刃は寝ていて藍はリビングで机の上にちょんと座っていたらしい。


 それを見た光が「いい? あなたが起きてて刃が起きてないときは、アイツの体にのしかかりして起こしていいわ。わかった?」と教え、藍が元気よく答えたのが事の始まり。


 それ以来、藍は起きると、刃の部屋へ入って「アーーーーイ」と言ってダイブをカマすようになった。


 その掛け声から付いた名が、『ダイビングアイ』。刃には迷惑極まりなかった。


 刃はその場で腹を押さえうずくまる。


「よーし、なかなかいい筋じゃない、藍! これなら私ん家で鍛えたら私以上になるかもね!」


「アイ!」


 光はまるで親バカにでもなったように藍を溺愛している。時々戦いの型なんかも教えているほどだ。


 自分の教え子の成長に満足そうな表情で光も刃の部屋に入ってきた。藍は満面の笑みでそれに答える。


「……他のやつには……秘密なん、だろうが……お前ん家なんて連れて行ける……カッ」


 そう最後の捨て台詞を吐き、刃は力尽きて頭を地面に伏せたのだった。




             *




「まったく……冗談じゃねぇ」


 この頃は毎日こんな調子だ。これではこっちの身が持たない。


「……ん、こんなもんか」


 刃は持っていたお玉で味噌汁を少し啜り、味を確認。うむ、今日もなかなかだ。


「おーい光、これで味はいい──」


「そうよ藍、上手じゃない」


「あーい!」


 味を確認してもらおうと振り向くと、光は藍に洗濯物の畳み方を教えていた。

 邪魔しても悪いので、そのまま刃は料理に戻る。


「(でも……こういうのって何か……夫婦みたいじゃね?)」


 刃がちらっと光の方を見ると、光もその視線に気付いた。


「……なによ? 何か私の顔についてる?」


「い、いや……なんでもない!」


 刃はパッとまた台所に向き合った。いかん、変なことを考えてしまった。空気を変えるために話題を探す。

 そしてさっき疑問に思ったことをぶつけてみた。



「で……でも光。ピッキングなんていつ覚えたんだよ?」


 ガシャーンと光が盛大にずっこけた。


「はぁ!? 私がいつピッキングなんて犯罪行為にしか応用できないような技術を披露したのよ!?」



──ん?と刃はその言葉に疑問を抱き、再び光と向き直る。


「えっ……だって、藍が俺の部屋に入ってきたじゃないか」


「普通に藍がドアノブを回したら開いたわよ。あんたが鍵を閉め忘れたんでしょ?」


 いや……それじゃあ、さらにおかしいぞ。この藍がいた1週間、毎回鍵をかけても藍が入ってきていたのに、開けていたのが光ではないということだ。


「じゃ……じゃあ、この1週間、お前が鍵を開けてたんじゃないのか!?」


「だ~か~ら~! 華の女子高生がピッキングなんてことをやるわけないでしょうが!」


 言われてみれば、そりゃそうだと冷静になって考え直してみる。

 確かにいつも戸締まり消灯は確認していた。それは間違いない。記憶にはっきりあったから。


 ならば気になるのは、"なぜ鍵が開いていた"かだ。


「……じゃあ、この1週間、俺の部屋の鍵を開けてたのは誰なんだ?」


「あんたが鍵を閉め忘れただけじゃ──」


「いや、それはないって! 俺が寝ている間に藍が勝手に起きて外に出ちまうことも考えて戸締まりの確認はしっかりしてたし、一番最後に鍵をかけるのがこの部屋だから忘れるわけない! てっきり光の仕業とばっかり……」


「……じゃあなに? あんたはこの1週間、私がピッキングなんてものをして鍵を開けてると本気で思ってたわけ?」


「あぁ、それしかないと思ってた」


 光が眉間にシワを寄せたのにも気付かず、刃は考察してみる。光の皮肉も、今の刃には考える余裕はない。


「……そういや、いっつもドアを開けて最初に入ってきたのは藍だったな」


 刃はキャッキャと習ったばかりの畳み方を実践して洗濯物をたたんでいる藍を見た。


「でも、この子はホントにノブに触って回しただけよ? 何も特別なことはしてなかったわ」


「うーん……」


 何かあるとは思う。間違いなく鍵はかけていたはずだし、光でないとすると、それをやったのはもしかして。


 刃は少し考えて、



「……よし、なら試してみよう!」

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