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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第2章 特待生
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1『パパとママ』


「な……何言ってんだお前は!? いいか、俺はお前のパパじゃない! 俺の名前は火野刃、高校生1年、まだパパになれる年じゃないの! わかる!?」


「パパ、パパ!」


「……」



 いきなり空から現れたこの少女は、刃がどれだけ説明しても笑顔で「パパ!」と呼ぶのだった。

 その暖簾に腕押し状態の論争に1時間が経った頃。


──ピンポーン♪


 不意に玄関のチャイムが鳴り響く。


「ん、誰だ? こんな時間に……」


 現在の時刻は夜8時を回っている。こんな時間に訪問者など想定していなかった。

 とりあえずリビングに少女を残し、玄関の対応をする。


「はぁーい!!どちらさ──」


 そう言ってリビングから出ようとした瞬間、勝手にドアが開き、チャイムを鳴らした主がドカドカと入ってきたのがわかった。

 そして、鍵が空いてるのを知っていて返事もなしに図々しく上がってくる人間を刃は1人しか知らない。


「こんばんわー、なまくらー、いる?」


 お隣通しの幼馴染、大門寺光その人だった。


「(ひ……光!? 何でアイツがこのタイミングで!?)」


 反射的に刃は急いで玄関に向かうと、奥に来る光を食い止める。

 今はまずい。こんな知らない少女に「パパ」と呼ばれている状況を見られたら、どんな誤解を生むかわからない。


「待て光! 今うちに入るな!  入っちゃダメだ!」


「なんでよ? こっちは頼まれたから来てあげたのに」


「へ……? 頼まれた? 誰に?」


「今さっき流斗から連絡があって、『刃が今大変だから助けてやってくれ』って。『理由は本人に聞いてくれ』って言ってたけど?」


「(面倒なことしてくれんなよ流斗ぉ!?)」


 この瞬間、さっきの流斗の行動の意味をすべて理解した。きっと少し考えていたのはこれのことか。

 きっと自分だけで少女の面倒を見るのは大変だろうから光も呼んでおいてやろうという流斗なりの気遣いなんだろうが、今は迷惑この上ない。


「……ん?」


 と、刃はそこで1つの可能性に気づき、ハッとして光の顔をまじまじと見つめる。


「な、なによ?」


 光は1歩、玄関の方に後ずさる。それを逃さぬように、刃も1歩前に出て、


「……ちょい失礼するぞ!」


「……え、ちょっ!?」


 光の両頬に手を当てた。


「えっ……ちょっ、な……!?」


 刃は、ただただ光の姿に『変化』があるかどうかを見ていた。

 それというのも、さっき光に化けていた流斗たちが、また化けてきた可能性もあると直感したからだ。


 流斗が使っていた『ミミック』は、普通に見るだけでは本物と何の違いもないが、ただ1つ、『身体の一部分に、“3秒以上”触れられると解けてしまう』という弱点がある。

 この行動は、それを試そうとしたものだった。


 光の顔は瞬時に真っ赤になっていく。これはまさか、やはりまた流斗が──




「だから……何だって言ってんのよぉぉぉ!(ビターン!)」


「へぶぉあッ!」



 見事に光のビンタが刃の頬を直撃した。

 うん、この速度と威力は光本人だ。間違いない。何度もそれを受けてきた刃にはわかる。


 刃は勢いよく玄関の廊下側へ叩き飛ばされ、地面に伏す。


「……?」


 その音でリビングにいた少女が、そっちの方へ振り向いたのも知らずに。


「……っいってーな! いきなりビンタは無いだろ!?」


「あっ……あんたがいきなりわけわかんないことするからでしょ!? 大体、今、何しようとしたのよ……私の顔触って、マジな顔しちゃってさ」


 刃が叩かれた頬を庇って光を睨みつけると、光はドアの方へ身体を向けていた。

 とにかく、光本人だという確認もとれたし、あとは早急にご帰宅願うだけだ。

 刃はスッと立ち上がり、なるべく悟られぬように光に笑顔で言う。



「よし俺は大丈夫だ! 問題ない! だから光は帰っていいぞ!」


「そ、それがわざわざ来てくれた人にいう言葉!? せめてお茶くらい……とかの気配りくらい持てないの!?」


 こちらは頼んだ覚えはないし、今家に上げるわけにはいかない。触らせぬ神に祟りなしだ。


「大体、まだ昨日の御礼すら、してもらってないのよ!?」


「……は? 昨日?」


「そうよ! 昨日の勉強……の……」


 その光の言葉に引っ掛かりを覚えたとき、光も言葉を止め、目を点にした。


──おや? どうして光は俺の後ろを凝視し固まっているのだろうか。


「(……まさか)」


 恐る恐る振り返ってみると、そこには大きな目をぱっちり開いて首を傾げる少女。


──やばい!


「……え、刃、この子誰? 見たことない顔だけど」


 なんと説明すればいいのか。きっと素直に言っても信じてもらえない。


「いや……この子は……だな……」


「なんで言いよどむのよ? まさか……誘拐とかじゃないわよね?」


 一気に表情が厳しくなる光。後ろに三面六手がはっきり見えるのだから恐ろしい。


「いや、だから……その……えっと……知り合い! そう知り合い! 知り合いの子をしばらく預かることになったんだよ!」


「あぁ、なるほどね」


 出任せであったが、光には納得のいく答えだったらしく、すぐさま疑いは鎮火したようだ。


「そうそう! アハハハハハ……!」


 よし、うまくごまかせた。

 この少女もさっきから自分のことは話さずに、刃の事を『パパ』と呼ぶだけ。きっとごまかせるはずだ。


「(……ん? 何か間違っているような……)」




「……パパ!」




「………………は?」


──三面六手、復活。


「いや、話を聞け光! これは誤解で──」


 その言葉が届くか否かのスピード、名に恥じぬまさに『光速』で刃の胸倉を掴み、


「大外刈りぃ!」


 ズダァーーンと刃の体は廊下に、強く背から叩きつけられた。


「ぐはぁ!!」


 これで終わるわけもなく、掴んだ胸倉を離さずにまた身体を引き上げる。


「……いったい、いつの間に」


「いや待て! 待ってください光様! 少し話を──」


「いったいどこの誰と……子供を作ったわけ!? 内股刈りぃ!」


──ズドォッ!


「がはぁ!!」


 また引き上げる。


「吐くまで続けるわよ」


「マテ、ヒカリ……ハナシヲ……」


 刃の意識が朦朧としてることなど気づかず、光は感情の限りを尽くしたのだった。



            *



「…………ホントなの、それは?」


 光の決殺30連コンボが決まって、次に『光グレートスペシャル』が施行される前に何とか刃の声が届いた。


「ハヒ……嘘はありまひぇん」


 それでも刃の身体は全身ズタボロ。前の矢田戦よりダメージは深刻かもしれない。

 彼等は少女と机を真ん中に挟み、光は腕を組んでドンと胸を張り、刃は正座で俯いていた。


「でも……そんな馬鹿げた話を信じろって?」


「嘘じゃないんだって! なんか空から光が降ってきたと思ったら……それが集まって──」


「空からその子が降ってきた……何の冗談かと思うわよ。でもさっき流斗に電話して確かめた内容とほぼ一緒だし、もしあんたの口からいった出まかせなら、流斗と口裏を合わせる時間もない。どうやら嘘じゃなそうね」


 光はどことなく納得できない顔をしているが、どうやら信じてくれたようだっだ。


「やっとわかってくれたか」


「ただ、まだ疑問は残るわよ。何で、あんたあの娘から『パパ』なんて呼ばれてるわけ?」


 光はさっきから自分のことをクリクリとした目でジーッと凝視している少女を指差して言う。


「それはマジでわからないんだ。……いくら俺が『パパじゃない』と言ったってわかってくれないんだよ……」


「まぁ……その顔は嘘とは思えないけど」


 すると突然、少女は指差していた光の手を両手で包むように握った。


「な……何? どうしたの?」


 その少女は、光の手を握り、光の目を凝視して笑顔で言った。




「…………ママ!」


「「……………………は?」」





 刃と光は目を点にして顔を見合わせ、その後、光が少女に向き直って問い質す。


「えっと……誰が……ママ?」


 答えるように少女は、今度は光を指差してはっきり告げた。


「ママ!」


「「…………」」


 間違えるわけがない。真っ直ぐにそれは大門寺光のことを指していた。満面の笑み。含みなど微塵も感じさせぬ笑顔。

 やがて、光がハッと意識を取り戻し、同時に顔を真っ赤に染める。


「なっ……何でぇッ!? ちっ、違う違う違う! こいつはどうか知らないけど私はママじゃない! 私あなたを今知ったばっかで……えっ、じゃ無意識なの? 無意識に産んだの? 子供ってそんなもんなの? 何で私がママなの? しかも私がママでこいつがパパって──」


 光は両頬に手を当て体をうねらせ、今起こったことを必死に整理しようとしていた。

 そしてハッとして光は刃を見る。


「な、なんだよ」


 光は顔に赤の絵の具を塗りたくったように真っ赤になり、今にも泣きそうな表情。

 そしてそう聞いた刹那、刃の左頬に光のビンタが華麗に炸裂した。

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