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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第2章 特待生
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4『鉄拳と声』


「へっ!?」


 その返し方に、刃は少し戸惑う。

 いつもの光と明らかに様子が違う。俯いて顔を赤らめていた。


「いや、その……ほんと覚えてないんだ。特に瓦礫にお前が潰されると思った瞬間は……」


「……そっか」


 また2人の間に空白の時間が流れる。でも今はそれが少し心地いい。


「……でもね」


 その沈黙を光が破った。光はまだ俯いたまま、しかしどこか優しい目をしている。


「……なんか、感じたんだ。刃が……私を助けてくれたのかな、って」


「……光」


 光は俯いていた顔を上げ、刃の顔を上目使いで見た。刃もしっかり光に向き合う。


 そこから、刃と光はしっかり真正面を向いて見つめあった。




──また……時間が遅い。




 そして、そのまま光はゆっくりまぶたを降ろす。


 これは……いいのか? もし間違っていたらただでは済まない。そうわかっていても、止められない。


 光の肩に手を置いて、刃の顔と光の顔は近づいていく。ゆっくり……しかし、確実に。


 そして今度こそ──




『…………か』


「……ん?」




 刃は動きを止めて辺りを見回す。今……何かが聞こえたような気がする。


『……か、だ……か』


 なんだ、この声は。辺りを見回してみても、自分と光以外に人影はない。

 でも、空耳なんかじゃない。確かになにか聞こえた。


「…………じ、刃?」


 光が目を開け、キョロキョロと辺りを見回す刃に声をかける。


「……なぁ、なんか声が聞こえないか?」


「……声?」


「あぁ。何言ってんのか、声が小さくて聞こえねぇけど……でも、何か言ってるのははっきり聞こえる」




「いや……私には聞こえへんけど(・・・・・・・)




「…………は?」


 そう口走った瞬間、光はパッと口を抑えた。今の口調、どこかで聞き覚えがある。いや、覚えがあるなんてものじゃない。ずっと昔から知っているその口調。

 そして、刃が想像するようなことをやろうとする人物を。


「……お前、まさか……」


「……おい翔矢。もう遊びは終わりだ」


 刃がそこまで言いかけて、草むらから声がする。

 草むらから出て来たのは、刃の親友であり、時に最悪の悪友。


「り、流斗!?」


 水仙流斗、その人だった。流斗はおもむろに持っていた剣を振りかざし、唱えた。


「『ミミック』、解除」


 と、次の瞬間、目の前にいた光が水色の淡い光球に包まれ、その場所に立っていたのは、


「し……翔矢ッ!?」


 同じく親友、風間翔矢。翔矢は他人の声を完璧にコピーできる特技を持っている。それは老若男女関係なく、まさに変幻自在の特技。

 だが、困ったことにそのすごい特技は大抵、刃をおちょくることにしか使われない。


「いや~悪いなぁ! ちょいI'temの新しい技覚えたから試したかったんや! いやしかし……見事にハマってくれたなぁ? もうちょいでわいの唇が──」


「そぉい!!!」


「プギャ!?」



 翔矢が身体をうねらせ、キスの真似をすると……刃の人生最高の鉄拳が、翔矢の顔面を捕らえる。

 翔矢の身体は大きく後方に吹き飛んだ。


「おぉ、見事な鉄拳だ」


 流斗は関心した面持ちで、刃の隣で拍手喝采。


──ふっ、貴様……何を悠長にしている?


「流斗……」


 刃の次の矛先は、当然ながら流斗に向く。


「まぁ、言い訳する気はない。だが聞け、刃。お前は俺を殴りたいだろうが……お前は俺を殴れない。何故だかわかるか?」


「なん……だと!?」


 流斗はさらに得意げに言葉を重ねた。


「何故ならお前は、俺らに最大とも呼べる弱みを握らせてしまった」


「くっ……!? この野郎!」


 殴りかかろうとした刃の体に急ブレーキがかかり、拳を構えたまま固まる。


「……そうやで~、刃! お前は光にキスしようとしたんや! 本人にこれ言ったらどんな反応するやろなぁ! その現実がある限り、ワイらには手も足も出せんやろ! わーっはっはっはっはプギヤッ!?」




──あ、無意識に殴ってた。




 復活してすぐ死体と化した翔矢。まぁこうなればもう仕方ない。

 少し法に触れるかもしれんが、背に腹は変えられない。


「……殴ッテ、記憶ヲ抹消スベシ」


「おぉ、何という潔さだ」


 流斗はまた隣で拍手していた。さて、これで覚悟も決まった。


「さぁ……次は」


 もちろん、水仙流斗である。さて、流斗といえども容赦はしない。心を踏みにじった責任はしっかり取ってもらおうか!


「いや、その考えの切り替えといい、鉄拳のキレといい、素晴らしいとしか言いようがないな。だがその前に、お前のさっきの『声』とはなんだ? 何か聞こえたんだろ?」


「もうそんなことはどうでも──」



『……ねぇ』


「……っ!?」


 流斗に向けていた足は、その声によって制止する。


「……やっぱり、何か聞こえる。今度はさっきよりはっきり」


『……だれか……きこえますか?』


 なんだ、この声は。頭の中に反響するその声はなにかを探しているようだった。


「おい刃……俺にはなんにも聞こえないぞ?」


「いや、今はっきり……」


『……だれか、いませんか……たすけて! だれか……』


 “少し大人っぽい女の声”が刃の頭に響く。


 いかれてないよな、俺の頭。と、もう一度辺りを確認しても刃とその親友2人(1人は死体)のみ。

 どうやら自分にしか聞こえていない声なのは確実のようだった。

 そしてその声と共に暗い感情が流れてきた。何か危険な状況なのかもしれない。


「おい、大丈夫か!? 聞こえるのか、俺の声が!」


 ダメ元で刃は頭の中に聞こえる声に対して返事を求める。

 もしかしたらこっちが聞こえているように、向こうにも聞こえているかもしれない。


「おい刃、一体何を──」


「流斗、 頼む! 少し静かにしてくれ!」


 すると、何か明るい感情と共に『声』が刃の頭の中に生まれてくる。


『あぁ……やっと……とどいたぁ』


「おい、どうしたんだ!? お前は一体……」



 何か情報を得られないかと思ったが、その声は刃の話に割り込んで続ける。



『時間がないの……この子をお願い。きっと……あなたが……“最後の1人”……』


「なぁ何の話だ! あんたは誰なんだ? 無事なのか!?」


『……いつかわかる。だからそれまで……この子を……守って』


 だんだんとその声の主を感じられなくなっていく。そして何かが視界に落ちてきて、刃はハッと空を見上げた。

 雨のような、雪のような何かが降ってくる。沢山の橙色の光球。それが無数に、山のように。


「な、なんだこれは」


 博識の流斗でも見たことのない光景。その橙色の玉はゆっくり空中で集まり、刹那、その輝きを増す。


「「!!?」」


 目を開けていられないほどの眩しさ。思わず刃と流斗は目を瞑った。

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