ある秋の日 8
「知り尽くしているのがお前だけだと思うなよ?」
翔矢と流斗は互いに不敵な笑み。やはり通いつめている人間はこういう時に強い。
「やっぱ、ワイにとっては幼なじみ3人が強敵やなぁ」
「おいおい、俺らだって簡単には捕まっちゃやらないぜ」
「『1人も捕まえられませんでした、なぁーんて情けないことにはならねぇようにな。ヒャハハッ!』」
断とポッピー、いや、和真もやる気のようだ。
「わ、私はちょっと……走るとかは苦手で……」
「……私も」
「俺もやらん、バカバカしい」
「俺もぉ~。疲れるし」
対して亮と蓮、鎧亜と矢田は否定的。
「まぁいいんじゃないか? 捕まったら言い訳できないもんなぁ、ケケケッ!」
──ピクッ!
「貴様……何が言いたい?」
「いんや別に。ただ意気地無しはそこで寝っ転がってろってことだよ、ケケケッ!」
──ブチッ。
「上等だ……今ここで細切れの肉片にしてやる!」
「鬼ごっこでは勝てないからってそれかよ! なっさけねぇなぁ、ケケケッ!」
──ブチブチッ!
「……いいだろう、下らない余興に付き合ってやる。もし貴様が俺以上早く捕まったら土下座してもらおうか」
鎧亜が無限に上手く乗せられている。この2人も要注意だな。
「刃、ちょっと」
と、光がこっそりと話しかけてきた。
「私たちは藍と3人であそこにいきましょ」
「あそこって……昔見つけた隠れ家か?」
光が言っているのは、昔2人で遊びに来た時に見つけた隠れ家のことだろう。
「そうそう。あそこならぴったり寄り添えばうまく隠れられるし」
──ピクッ。
亮と蓮の耳が動いたのを2人は気づかない。
「あの時より体もでかくなってるし、3人で隠れられるかな?」
「見つかったら仕方ないわよ。藍に無茶させる訳にはいかないもの」
「それもそうか」
「あ、あの……やっぱり私も参加して、いいかな?」
「……私も」
と、蓮と亮からいきなりの参加表明。
「あぁ。元はみんなでやるって話だったんだから、いいんじゃねぇか?」
「なら、今から100数えるから、その間に逃げぇ! その後にスタートするから全員覚悟せぇよ! いーち!」
といっていきなりカウントを始める翔矢。
「おいおい! いきなりかよ!?」
「よっしゃあ! やるからにはこの久遠断、ぜってぇに捕まってやらねぇぜ!」
「ケケケッ! 退屈しのぎにはなるか」
「貴様、約束は忘れるな」
「っておい! まさか俺以外みんなやる気──」
『解紋!』
矢田を除くほぼ全員が解紋し、ばらばらに飛んでいく。
「刃、簡単に捕まるなよ」
「そっちこそな」
流斗も刃とは別の方向に飛んでいく。
「さぁ行くわよ、なまくら。あんたはI'tem無いんだから私が連れて行ってあげる」
「……へ?」
そう言った光に刃はムギュと首根っこを掴まれた。
「へっ!? ちょ、ちょい待っ──」
「『激』!」
「アーーイ!」
刃の言うことは全く光の耳には入っておらず、引っ張られた刃の視界は一気にさっきまでいた桜のピンクから、空の少し晴れた雲間から見える空の青に変わる。
「ま、待って光ちゃん、刃君!? 『激』!」
「……『激』」
その後ろから蓮と亮もついてくる。
✩
そうして、翔矢がカウントしている場には矢田だけが取り残された。
「…………」
やるせない。なんともやるせない。
「へ……へん! こ、こんなガキみたいな遊び本気でやるなんてバッカじゃねぇの! こんなの本気でやるなんて小学生くらいだっての! なぁ、翔矢!?」
「51~、52~、53~」
目を隠して数を数え続ける翔矢はどう見たって本気の様子。
「な、なぁ翔矢。こんな遊び止めて今から違う場所遊びにいかね! ゲーセンとかさ! 俺奢ってやるから!」
「60、61~、62~」
「あっそういえばあっちに可愛い女の子がいんだよ! お前に会いたがってんだぜぇ! 今から呼べば来るかもなぁ!」
「69~、70~、71~」
「…………」
これはダメだ。微動だにしない。矢田はしばし逡巡し、頭を掻きむしる。これは諦めるしか無さそうだ。
「解紋!」
矢田も折れて結局、全員参加。
その鬼ごっこの決着がついたのは、晴れた空が紅く染まった、その日の夕方であった。




