ある秋の日 5
「あ……ありゃ、断!? てか」
「……おっ、お前ら!」
断達、神童高校の生徒がそこにいた。私服でいるということは、別に学校行事で来た訳では無いらしい。
「み、みなさん、お久しぶりですっ!」
「……驚きましたわね。運がよければ会えるかもなんて思ってはいましたが、まさか全員に会えるなんて」
その中でも麗香とカナも変わらずメイド服と白のフリフリドレス。しかし、それだけで刃達が驚くわけはない。
驚いたのは、神童高校の面子の中に、
「……神童がいることにも驚いたんだが、さらに驚くのは……」
流斗はそう言ってちらっと見ると、本人達もその視線に気付く。
「…………」
「なっ、なんだよ! 俺らがいたら悪いか!?」
その集まりの中に、鎧亜と矢田がいたからだ。
「いや……なんで2人がいるんだ?」
「……そこで会って、強引に連れて来られた」
「そういうこった、ケケケ!」
鎧亜と無限も2人とも珍しく私服(といっても合宿では何回も見ているのだが)。休みの日まであの羽織りを着る必要はないらしい。
「まぁ、せっかくの機会だ。特待生同士、親睦を深めるとしようぜ、ケケケッ!」
その言葉にピクッと鎧亜が眉を吊り上げる。
「……貴様、死にたいか?」
「お前に殺されるほど弱くねぇって、ケケケッ!」
「……ホントに死にたいらしいな」
「いいねぇ、決着つけるってか、ケケケケケケ!」
そう言って鎧亜と無限は互いに収納状態のI’temに手をかける。
雰囲気は一触即発。まずい。こんなところで暴れられては……!
「……本選前に潰すのもいいか」
「今日は本選前の息抜きの予定だったけど、気が変わったぜぇ、今ここで潰す!」
「ちょ、ちょっと待て2人とも! ここでやり合うのはまずいって! 死にたいのか!?」
「邪魔だ。お前如きに口出しされることは無い」
「そうだな。それともなんだ? 取り巻きAに俺らを止められるってのかよ、ケケケッ!」
「いや……俺じゃなくて」
──シャキン!
「……静かにしなさい」
「光がブチ切れる」
「「畏まりました」」
喉に優しく当てられたナイフとフォーク相手に手を挙げて降参の意を示す2人。どうやらあのジェンガの件以来、光に逆らう意思が消えたらしい。
「まったく、マナーってもんを知りなさい」
「アーーイ!」
そう言って光は席に戻る。おそらくナイフとフォークで殺害予告をするのもマナー違反だろう。
そんなことを刃が考える内に、藍は正座した光の膝の上へ。
「あら、どうしたの、藍」
「アイ!」
すると、藍は刃に向けて手招き。こっちに来て欲しいらしい。
「はいはい」
「ハイは?」
「……1回でした。すいません」
その要求に従い、刃も光の隣へ座って差し出された藍の手を握ってやる。
「アーーイ!」
「……そんなに嬉しいの?」
「アイッ!」
光の問に藍は笑って手を挙げて返す。
「ハハッ……ならいいんだけどな」
そんな藍の可愛さを横目に、刃は上に凜と咲き誇る万年桜を見上げた。
万年桜はその名の通り、1年中ずっと花をつけている桜である。
春夏秋冬はここでは通じないし、なぜここの桜がずっと咲き続けているのか、メカニズムも解明されてはいない。
しかし、この変わらない桜は刃達にいつでも優しい記憶を作ってくれる。
思い出はいつも、この桜が思い出させてくれるのだ。
「……ここの景色は、本当に変わらないな」
✩
『刃、ここの桜は綺麗だな』
『うん、きれー!』
そういえば、この街に来てから最初に俺が両親に連れて来てもらったのもここだったっけと刃は思い出す。
『刃、楽しい?』
『うん。お父さんとお母さんが一緒にいるから!』
それは小さい頃の記憶。両親は無邪気にはしゃぐ自分の手を優しく握っていてくれた。
『……なぁ、刃』
『なに?』
『もし、このまま許されるなら……ずっと……3人で……』
『……お父さん?』
『……いや、なんでもないさ』
そう言って困った顔をして笑った父の顔が、舞った桜の花びらと共に今でも脳裏に焼き付いている。




