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父さんは、いつも偉大な人だった。
僕にとっていつも偉大な人だった。
その大きな背中は、僕の指標となっていた。
海賊という職業は、世間で言っているようなイメージではなくて、ロマンを求めているんだぞ、と父さんは言っていた。
僕はその通りだと思っていた。
僕は父さんが大好きだった。
だから、信じられなかった。
父さんが死んだ――その言葉をじいちゃんから聞いても、僕はそれが本当かどうかなんて信じたくなかった。
⚓ ⚓ ⚓
「船が難破したんですって」
「それにしても、海賊なんてことをしていたからではなくて? していなかったらきっと、そんなことなんて起きなかったと思いますわ。ほんと、ルイネス島の恥ですわよ」
「しっ。子供に聞こえますわよ……」
そんな声が、僕の背中に突き刺さる。
父さんの墓を、僕はただ見つめていた。
父さんが遺してくれたものとして、コンパスと古い海図、それにゴーグルを受け取った。船は難破してしまったけれど、生き残った人が居て僕のところまでそれを届けてくれた。
父さんは居ない。けれど、墓はある。
「……泣くな、ショータ」
「泣いてないよ」
雨が降っていた。
だから泣いていても、気付かれないって思っていた。
でも、僕は泣かない。
父さんはいつも言っていた。男は泣くものじゃない、って。
だから僕は泣かないんだ、って。
父さんの墓を僕はそうじっと見つめていた。
残された海図と、ゴーグルと、コンパス。
父さんの遺したものを、強く握りしめながら。