第五十五話 強度資料室で新聞調査、ですわ
先生への聞き込みで得られる情報はここが限界みたい。そう思った私たちは、放課後は図書室に向かうことにした。
昼と同じ三人組で、郷土資料室のカギを開ける。ちなみに、ぴあのさんは馬淵君を教室で勉強させているみたい。
「昔の事件の情報探し、って言ったら、当時の新聞を探すのが定石だよね」
って、タカヒロ君の提案に従って、幽霊ガードレールに関する新聞記事を探しに来たの。
そんなことを思いつくなんて、さすがお巡りさんの息子! って、思ったけれど、今の時代警察署では過去の事件なんてコンピュータ管理でしょうし、たぶん推理小説の読みすぎだわ!
そういえば、いつだったか読んでた『ロスト・シンボル』もミステリー色が強いし、タカヒロ君って推理小説好きなのかしら。
「事故があったのは今から十七年前の四月だから、その頃の地元紙を見れば何か書いてあると思うんだけど……」
タカヒロ君がすぐに本棚から一冊のファイルを取り出してくる。十七年前の年と、地元新聞の名前だけが書かれた、購買で売っているのと同じタイプのバインダー。
「年だけ書いてあるってことは、これ全部見るの?」
「まさか、日付順に並んでるから、事故があった日のページを見ればいいだけだよ」
慣れた手つきでページをめくっていくけれど、普通の本のページに比べて新聞紙はめくりにくいみたいで、目的のページに至るまで少し時間がかかった。
「あった」
タカヒロ君の目が留まったのは、その日の新聞の最後のページ。
「思ったより小さな記事ですね」
ケロちゃんがぼそりとコメントした。確かにガードレールとフェンスが壊れるくらいの事故だった割には、写真を除けば段組み二段程度の小さな記事だ。
それに、なんだか文章に対して写真がやたらと大きいような……?
「たぶん、もっと長い記事だったのが差し替えられたんだよ。変な注目されるのを、当時被害者の両親が嫌がってたって、お父さんが言ってたし」
「やっぱりこの辺りってそういう話題になるといにくいものなの?」
東京だとそんなニュース、すぐに風化するからあんまり実感がわかないわ。
「田舎の土地柄もあるけど……被害者に兄弟がいたらしくて。そっちに騒ぎが波及するのを恐れたみたい」
「あー、『お前のにーちゃんキャトルミューティレーション』とかいじめられたら嫌ですものね」
ケロちゃん!? いきなり悪口に謎のセンス発揮しないでよ。思いきり笑っちゃったじゃない!
元いじめられっ子だから、ってわけじゃないわよね。あのカツアゲ軍団にそんなセンスはなさそうだし。何かのBL小説とかに出てくるの、そのフレーズ!?
「でも、これだけの記事じゃ新しい情報はなさそうだ。当時の写真が手に入ったことだけは収穫だけど」
タカヒロ君に言われて私は写真をしげしげと眺める。
事故があった直後の写真みたいだけど、確かに不思議ね。トラックのブレーキ痕は痛々しく残っているけど、肝心のトラックがどこにもいない。
被害者のものらしい血がひしゃげたガードレールの周りに流れているけど、それほど量はないみたい。失血死する量は全身の血の半分って聞いたから、これぐらいの量ならなんとか死んでいないかもだけど……トラックがぶつかった勢いで内臓や骨に何かあったらどうだかわからないわよね。
そして被害者のものらしい、うちの学校の指定鞄が転がっている。ちょうど何かを取り出そうとしたタイミングで事故にあったのか、無残に中身がぶちまけられている。
「ずいぶんと中身がぐちゃぐちゃね……」
ぐちゃぐちゃなのはトラックにぶつかったからじゃなさそうで、レシートやら小さくなった消しゴムやらが無造作に突っ込まれていたみたい。
がさつな性格の子だったみたいね。なんだかガードレール幽霊のイメージ、変わっちゃうかも。
「あ」
ケロちゃんが、そんな鞄から飛び散ったごみの一つを指さす。
「ケロちゃん、それがどうかしたの? レシートみたいだけど」
「このレシート、ピンクにふちどりされてますよね」
確かに、この小さな写真じゃわかりにくいけれど、レシートの文字の左右に蛍光ピンクの線が入っているみたいね。
「これ、たぶん私が知ってるお弁当屋さんのレシートです。毎月二十九日に肉料理の入ったお弁当を買うと、この特別なレシートがもらえて、次回お弁当が半額になるんです」
「じゃあそのお弁当屋さんに行ったら、被害者のことが聞けるかも?」
よかった、どうにか次につながったみたい! さっそく行くわよ!
次回はあのモブが再登場です!