第四十七話 やっぱり日本史は苦手、ですわ
教室の前に行くと、思ったより上位者リストの前には人がいなかった。
みんな一瞬だけちらっと見て、あとは興味なさげに去っていく感じね。
「あれ、みんなあんまり興味ないみたいね」
自分が出てるのに興味もたれなくて、ちょっと悔しいじゃない。
「あー。あの様子だとまたトップがあの二人だね」
ぴあのさんは何か心当たりがあるみたいで、うんうんとうなづく。
「あの二人?」
「きっと一位がタカヒロ君で、二位がD組の小林太郎君」
言われて私も張り紙を見る。
一位、高尾博、全教科満点。一瞬下の名前がタカヒロじゃないことに戸惑ったけれど、タカヒロ君ってそういえばあだ名だったわね。転入したての自己紹介以来、フルネームなんてご無沙汰だったから忘れてたわよ。ゴメン。
二位は確かに小林太郎とあって、全教科九十点台後半ね。
「ふーん、小林君って知らないけれど、ずいぶんと頭いいのね」
「成績がいいのは高尾君と一緒ですけど、高尾君と違ってなんだか暗い感じですよ。ちょっと小太りでいかにもがり勉みたいな」
ケロちゃんが言う特徴を思い起こしてみると、そういえば廊下で何回かすれ違ったことがあるかもしれないわ。なるほど、彼が小林君ね。
「ねえ六花ちゃん」
ぴあのさんが私に話しかけてきた。ぴあのさんも小林君について何かあるのかしら?
「なんで日本史だけ成績普通なの?」
――小林君関係なし!? しかもよりによってその話題!?
「いいでしょ別に! 日本史苦手なのよっ」
ほかの教科よかったんだからいいじゃないの! 全体九位なんだし……!
「どうやらそのようだな」
背後から聞こえた声に、私はびっくりして振り返る。
「枇々木先生!」
そこには枇々木先生が手に答案の束を持って立っていた。
「聞いていらしたの?」
「キャー、先生最低ですっ。女子の会話を盗み聞きするなんて」
「これだけ大声で騒がれれば、嫌でもな」
私の質問にケロちゃんが悪乗りする。それに対していちいち真面目に答える枇々木先生。適当にあしらっておけばいいのに、やっぱり真面目よね。
「それより伊妻、現代国語! 点数は九十二点だが、文学史問題が全滅だ」
「あらっ?」
私は首をかしげてごまかそうとしたけれど……ごまかしきれないわよね。
「今回の文学史問題って、一問二点の選択問題が四問でしたよね?」
「それが全滅っていうことは――百引く二かける四で――ええっ!? 他満点なのにもったいない!」
うう、これは言い逃れできないわ。まさかこんな偏った成績になるなんて……。
「まったく。せめて『吾輩は猫である』の作者ぐらい覚えてほしいものだが、どうやら歴史は全般苦手のようだな」
「そ、その問題は二択まで絞ったわよ!」
「普通は夏目漱石一択だ!」
はぁ、と、枇々木先生が大きなため息をついた。
「ともかく、来年は受験生。苦手があるなら早めに克服したほうがいい。いつでも質問に来るように。歴史も高校生の範囲ならわかるから、私のところに聞きに来なさい」
「いや、歴史は歴史の先生に訊くわよ!?」
確かに枇々木先生は国語の先生だから文系だし、歴史もわかるでしょうけど、餅は餅屋ではなくて?
「そうか。それもそうだな」
なんでちょっと残念そうなのよ……?
「南。漢字問題三割! 蛙ヶ口。論説文二割!」
枇々木先生はぴあのさんとケロちゃんに雑にプリントを返すと、どこかに行ってしまった。どうしたのかしら?
「先生、八つ当たりとか大人げない……」
「八つ当たり?」
ぴあのさんの言っていることはよくわからなかった。
「でも、やっぱりタカヒロ君満点一位ってすごいわよね。きっとさぞや喜んでいるんじゃないかしら」
私はドアを開けて、教室に入った。テストも受け取って上位成績者表も見て、廊下にいてもすることがないしね。
「あ……伊妻さん。おはよう」
教室に入った瞬間、目があったタカヒロ君は、予想に反してとても暗い表情をしていた。
久しぶりにちゃんと教師してる枇々木先生。
担当教科が現代国語とかたぶんみんな忘れてた設定。




