第三十話 毒キノコで大パニック! ですわ
「ど、毒⁉ 毒って……」
ぴあのさんが驚く。
「何よ、しらじらしい! あなたが毒を盛ったんでしょ?」
会長夫人がぴあのさんをヒステリックに怒鳴りつける。声が会場に反響した。
「ちょっと! なんでぴあのさんなのよ! 馬淵君は国木田君のきのこタルトも食べてたでしょ?」
私は二人の間に割って入る。本当は国木田君だって疑いたくないんだけど、やっぱりあれだけ馬淵君のために頑張るつもりだったぴあのさんが毒を盛るなんて考えられないわ!
「だって、きのこタルトは私と町長さんのほうがたくさん食べたけど、なんともないもの! クッキーは俊樹君が一番食べてたから、そっちのほうが怪しいに決まってるわ」
「そんな――!」
ぴあのさんはまだ何か言いたげだったけれど、会場全体のいぶかしむ視線が自分に注がれていることに気付いたのか、口をつぐんだ。
どうしよう、私はぴあのさんを信じてるけど、客観的にこれだけ怪しかったらかばいきれない。
「きのこだよ」
客席から、かすかにそんな声が聞こえた。
「え?」
私がそっちを振り向くと、一人の観客が客席から立ち上がっていた。――って、タカヒロ君⁉ 今日、見に来てたのね。
「その中毒症状はきのこによるものだよ、間違いない」
タカヒロ君は舞台のほうに向かってゆっくりと歩いてくる。
「タカヒロ君⁉ どうしてそんなこと……」
「たまたま知ってただけ、かな。詳しい説明は後だよ」
舞台によじ登ってあいまいに笑うタカヒロ君の表情から、私はそれが『前世知識のチート』だと察した。確かに説明が面倒よね。
「そんな……じゃあもしかして私たちのタルトにも⁉」
会長夫人が青ざめる。でも、会長夫人も町長さんも具合が悪そうには見えないし。
「――そうか、ピックだ!」
最初に気付いたのは枇々木先生だった。
「このタルトに刺さっているピックの色はすべて違う。それで毒入りのタルトとそうでないタルトを区別したんだ」
なるほど。それなら馬淵君だけに毒を盛ることができるわ。なんでそんなことをしたのかはまだわからないけど……。
「そ、そんなの。そこの彼が適当に言ってるだけかもしれないじゃないか!」
国木田君が人差し指をタカヒロ君に突きつける。敬語じゃないのはタカヒロ君が年上に見えないからだろうけれど、やけに強気ね。
「そうだ。会長夫人がいきなり南さんを疑ったのもまずかったとは思うが、同じようにまた国木田君がやったという証拠もないだろう」
「証拠……」
町長さんに言われて、タカヒロ君がたじろぐ。証拠って言われても……そんなものあるわけないじゃない。
「そうよ、それとも何? 解毒剤の作り方でもわかるっていうの?」
会長夫人がタカヒロ君に詰め寄った。
「それ……なら一応わかるし、毒が体内で変化する前に、早くしないといけないけれども……」
「わかるなら作ってみなさいよ!」
言い淀むタカヒロ君に、さらに食ってかかる会長夫人。
「タカヒロ君、私からもお願い。私、トシ君を助けたいの!」
ぴあのさんもタカヒロ君に言う。そうよね、追い詰めるみたいで悪いけれど、やっぱり馬淵君を助けることが先決だわ。
「でも……材料が揃いっこないよ」
「どういうことなの?」
「だって材料……ニンジンジュースとおろしにんにくはまだいいとして、栗の渋皮は今の季節じゃ手に入らないし、ドラゴンの鱗なんてどうすれば……」
「何よそのおとぎ話みたいな作り方は! 結局でたらめじゃない!」
会長夫人の怒鳴り声をよそに、私とぴあのさんは顔を見合わせる。
「あの、私たちならその材料、用意できると思います」
「ちょっと、あなたたちも、遊びじゃないのよ?」
「まあまあ、会長夫人」
まだ怪訝そうな会長夫人を、町長さんが止める。
「確かにおとぎ話のようだとは思うけれど、身体に悪いものではなさそうだし、なにより他にどうしようもない。救急隊を呼ぶにしても、きのこなどの自然毒は解毒が難しいと聞いたことがある。ここは彼女たちに賭けてみないか」
会長夫人はしぶしぶといった様子で黙った。
「ありがとうございます!」
私とぴあのさんは町長さんに頭を下げた。
「僕はスーパーでニンジンとにんにくを買ってくるよ! 枇々木先生は馬淵君を医務室に運んでください!」
「わかった」
タカヒロ君が指示を出して、枇々木先生が答える。
私たちは全速力で舞台から降りると、それぞれ走り出した。私は自宅の方向、ぴあのさんは『エリーゼ』の方向。
――お願い、ポチ、馬淵君を助けて!
気が付けば三十話突破! 大賢者の前世知識が無双です。キャータカヒロクンカッコイー