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前世魔王の悪役令嬢は主人公になれない!?  作者: 亀梨名光
第一章 悪役令嬢は前世魔王!?
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第一話 勇者そっくりな先生・正統派ヒロイン・そしてケルベロス、ですわ

 バスが緩やかに停車する。


「丘目木高校ー、丘目木高校ー」


 私は運賃を支払うと、バスから降りて校門をくぐった。


 周りの視線が銀髪に集まるけれど、いちいちそんなこと気にしてられないわ。無視よ無視。


 と、無視を決め込もうとしたのだけど。


「こらそこの銀髪!」


 と、突然生活指導っぽい先生に怒鳴られた。さすがに先生を無視するわけにはいかないわよね。


 それにしても、地毛だと思われないのはいつものことだけど……いきなり怒鳴るなんて信じられない!


 私はその先生を睨み返そうと、顔をまじまじと見て。


 気づいた。


「勇者……?」


 その先生は、魔王ルシファーの宿敵、勇者ツルギにそっくりだったのよ!


「は? 勇者……?」


 きょとんとしてこちらを見てくる、勇者ツルギそっくりの先生。


 年齢は私が知ってる勇者よりずっと年上だけど、鋭いのにどこか人の好さそうな目鼻立ちはそっくり。


 でも、心当たりがないような反応だったし、ここで前世の話をしてもゲームのやりすぎだとかで取り合ってもらえないのがオチね。


「ゆうしゃ……ゆうしゅ……You should apologizeですわ!」


 私はごまかすことにした。


「この銀髪は地毛ですわよ!」

「地毛が銀髪……もしかして今日転入してきた伊妻六花……か?」


 どうやら自分の間違いに気づいたらしく、先生は目をしばたかせる。生まれつきかなり特殊な外見だから、パパが事前に先生には根回しをしておいてくれてたみたい。


「それはすまなかった。新学期から一段落して、生徒の風紀が乱れ始める時期だから、こちらも気が立っていてな」


 先生は頭を下げた。ちょっと厳しそうな先生だけど、生徒にちゃんと謝れるなんて、根はいい先生みたいね。思い込みでトラブルを起こすけど、自分に非があったらすぐ謝る……やっぱりアルメギドに召喚されたばっかりのころの勇者みたいだわ。


「私は()々(び)()(じゅん)。君が転入する二年A組の担任だ。教科は現代国語を担当している。お詫び代わりと言っては何だが、クラスまで案内しよう」

「えっ。今生活指導活動の途中ではなくて?」

「私が好きでやっているだけで、上からの指示ではないからいつ切り上げてもかまわんさ」


 好きで生活指導って……枇々木先生、厳しいを通り越して、ちょっと変わってる?


 でも、せっかくの好意を断るわけにもいかないし。私は枇々木先生についていくことにした。




「二年生の下駄箱はこの昇降口だ。A組は一番左側だ」

「あーっ! 先生!」


 下駄箱の前で説明を受けていると、突然廊下から大きな声が聞こえた。


「この時間に校門の前にいないなんて珍しい!」


 驚いてひょこっと廊下に顔を出すと、女の子が笑顔でこちらに駆けてきていた。


 身長は平均より二、三センチくらい低い感じで、逆に平均より二、三センチほど高い私との身長差は五センチくらい……彼女の逆毛を立てたボリューミーなサイドテールを計算に入れると同じぐらいの身長になるかしら。取り立てて特徴のない顔立ちなんだけど、それでも『かわいい』って第一印象になるのはきっと笑顔が素敵だからね。


「こら、(みなみ)! 廊下は走るな! それと、先生には敬語だ」

「あれ、先生その子は?」


 枇々木先生が目を吊り上げたのだけど、南さんというらしいその子は全然聞いていないみたいで、相変わらず敬語なしで先訊き返した。


「転入生の伊妻だ。——そうだ、南。確かクラス委員だったな。しばらくの間、伊妻にこの学校のことを教えてやってくれ」

「はーい! 伊妻さんっていうんだ。私は南ぴあの。よろしくね!」


 きらきらと目を輝かせて握手を求めてくる南さん。うーん、ちょっと苦手なタイプかも。


 魔王をやってた前世はもちろん、現世でも社長令嬢なんかやってるから、周りはおべっか使ってくる人がほとんどだった。


 勇者をはじめとして、アルメギドにもこの世界にも『根っからのいい子ちゃん』が存在することは知っているけど、それはやっぱり自分から見たら遠い存在で。その遠い存在を目の前にして、どう扱っていいのかわからないのよね……。


 同じどう扱っていいのかわからない相手でも、相手が悪意を持っているなら突っぱねて無視すればいいのだけれど、善意の相手にそんなこともできないし……。


「? どーしたの、伊妻さん」

「いえ、何でもないわ。それに下の名前、六花で結構よ」


 私は気後れしていたのをごまかすように、慌てて南さんの手を握り返した。


「じゃあ六花ちゃん! 授業が始まるまでにあちこち案内しちゃうね、行こう!」

「あっ、ちょっと!? 南さん!」

「わたしもぴあのでいいってば!」


 南さん、改めぴあのさんはぐいと私の手を引く。転びそうになるけれど、私はあわててその場に踏みとどまった。


「だから、私、まだ外履きから履き替えてなくてよ!」

「あ、ごめんごめん」


 私に怒られて、ぺろ、と、舌を出すぴあのさん。悪気なし、みたい。


 ——やっぱり苦手だわ、こういうタイプの子……。


「それじゃあ、まずはどこから紹介しようかなぁ。——そうだ、図書室に行こうか。途中で理科室とか音楽室とかの特殊教室の前も通るから!」


「ちょっと分かったからひっぱらないで!」


 どんっ、と、音がして、ぴあのさんの足が止まった。


 どうやら誰かにぶつかったみたい。まったく、廊下を走るからこうなるのよ。


「あ、あのっ……すみません……」


 おどおどとした表情でぴあのさんに謝っているのは、眼鏡をかけたおさげの子ね。この学校の校則では華美でないメイクなら許可されているはずだけれど、この子はノーメイクで逆に目立っている感じ。ずいぶんと背が低いけど、一年生かしら。


「あっ、(かわず)ヶ(が)(ぐち)さん。ごめんごめん! 急いでたから気づかなかった」

「いえ……あっ、その……よそ見していた私が悪いので……」

「知り合いかしら?」


 私はぴあのさんに尋ねた。


「あっ、そうだ。紹介するよ。転入生の伊妻六花ちゃん!——で、こっちが同じクラスの、蛙ヶ口千()()ちゃん!」

「同級生!?」


 私は思わず唖然。こんなに小さくて同い年……? 私はまじまじと蛙ヶ口さんを見つめた。私はちょっと背が高いからかなり見下ろす感じになって、なんだか悪いのだけど。


「あ、あの……すみません」

「いえ、謝るのは私の方よ。てっきり下級生だと思ってしまったわ。ごめんなさい。蛙ヶ口さんだったかしら。よろしくお願いするわ」


 私は握手を求めたのだけど。


「いや、あ……あの……その……すみませんっ!」


 蛙ヶ口さんはおびえた様子で後ずさる。


「? どうかしたかしら」


 私はじっと蛙ヶ口さんの目を覗き込んだ。


 その瞬間、私の脳裏に魔王としての記憶が稲妻のようによみがえったのよ。


 確かに今の姿かたちは全くの別人だけども、その橙色の瞳に宿る獣の眼光は間違いない。


「ケル——」


 獣将ケルベロス。魔王四天王最強にしてルシファーいちの側近。狗頭人身の魔族で、魔術にも体術にも優れた彼は、勇者に(たお)されるまでは無敗を誇っていた。


 まさか、私と同じ転生者……?


「ケル……なんですか? えっと……すみません……」


 相変わらずおびえた様子の蛙ヶ口さんを見て、私ははたと我に返った。


「ケル——ケロちゃん! そうよ、仲良くなろうと思ったからあだ名! ケロちゃん、いいでしょ?」


 私は無理やりごまかした。どうやら向こうは記憶がないみたい。と、なれば前世の話題はご法度ね。ちょうど蛙ヶ口さんなんて名前だし、古本屋で買った昔の少女漫画にケ『ロ』ベロスのケロちゃんっていたし。いいわよね、ケロちゃん。


「えっ……あっ、あの……」

「ケロちゃん安心して。六花ちゃんの髪は地毛なんだって。不良じゃないよ」

「そうなんですか!? 誤解してすみません……」


 まだ戸惑っているケロちゃんに、ぴあのさんが説明すると、ぺこぺこと私に頭を下げた。


 確かに銀髪なんて、普通は染めていると思うわよね。でも、まさか不良と勘違いされるなんて。失礼しちゃう。


 ——というか、ぴあのさん今さりげなくケロちゃんってあだ名、横から使ったわよね。別にいいのだけれど。


「気にしなくていいわ。それより、これからよろしくね、ケロちゃん」


 私は改めて握手を求めた。


 ケロちゃんは相変わらずきょろきょろしながらだったけど、私の手をそっと握り返した。


 うーん、ちっちゃくてかわいいわ。


 でも、私に全然心当たりなさそうね。やっぱり覚えていないのかしら……?


「あ、あの……急いでいるので、これで」


 ケロちゃんはそそくさと去って行ってしまう。うーん……やっぱりケルベロスの記憶があるとしたら不自然だわ。


 まあ、考えてみたら、前世の記憶なんか、あるほうが珍しいわよね。さっきの枇々木先生の時といい今回といい、不用意なコト言わないように気をつけなくちゃ。


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