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前世魔王の悪役令嬢は主人公になれない!?  作者: 亀梨名光
第一章 悪役令嬢は前世魔王!?
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第十五話 百合わんこに懐かれた!? ですわ

第一章完結です!

 翌朝。通学バスを降りると、タカヒロ君が校門の前で心配そうにきょろきょろしているのに気が付いた。


「ごきげんよう、タカヒロ君」

「あっ! 伊妻さん! よかった、なんともなかったんだね」


 私が挨拶すると、タカヒロ君の顔がぱっと明るくなった。


「ええと、タカヒロ君は今日、図書委員の当番じゃなかったかしら?」

「みんなが心配だからほかのクラスの子に代わってもらったよ」


 心配? 私たちが心配されるようなことって、昨日の一件しかないと思うけど……一件落着した時にはもう夜遅かったし、そんなにすぐ噂が広まるものかしら?


 腑に落ちない顔をしている私を見て、タカヒロ君が言った。


「昨日の事件の担当だったお巡りさん、僕のお父さんだよ。気づかなかった?」

「あ、あー! 言われてみれば!」


 小柄なタカヒロ君とがっちり体系のお巡りさんがどうも結びつかなかったけれど、確かにどんぐりみたいに真ん丸な目の形はそっくりよ!


「お父さんからみんなが事件に巻き込まれたって聞いて、昨日の夜から心配で心配で。でも、なんともなかったみたいでホッとしたよ」

「だいたいタカヒロ君のお父様とケロちゃんのおかげよ」


 私一人だったらどうなってたか……改めて考えると震えが来ちゃうわ。


「ねえ、ほかの三人もなんともなかったの?」

「馬淵君とぴあのさんは危ない状況にはほとんどかかわってないし、ケロちゃんは――直接殴られたりはしてなかったけど、もしかしたら筋肉痛にぐらいならなってるかも」


 なんて、噂をしていたら、バス停のほうからしゃんしゃんと、かすかに鈴のような音が聞こえてきた。


「何かしら、この音……?」


 校門からひょこっと首を出して様子をうかがう。と、私は絶句した。




 私が見たのは、大量の缶バッジとキーホルダーをつけたカバン。それを肩から下げた女子生徒が、校門に向かって歩いてきているのよ。その動きに合わせて缶バッジ同士がこすれて、時折しゃんしゃんという音を立てている。


 ええと、アレは世にいう痛バッグ、というものなのかしら。テレビの特集で写真は見たことがあるけれど、実物は初めて見たかも。


 私はしばらくバッグを見つめた後、今度は持ち主に視線を移す。すっごく小柄でナチュラルメイクの、愛らしい美少女だ。二つ結びにされた髪にはかなり強めのウエーブがかかっていて、それがまたカントリーテイストでかわいいの!


「あっ!」


 痛バッグちゃんもこっちに気づいたみたい。私はあわてて目をそらす。あんまりじろじろ見てたなんて感じが悪いし、私は目つきが悪いほうだから、万が一にらんでたなんて誤解されたら困るわ。


「ごめんなさい、タカヒロ君。何の話だったかしら」


 私はタカヒロ君との会話に戻ろうとしたのだけれど。


 しゃんしゃんしゃんしゃんしゃん――っ!


 痛バッグの音がすごい勢いでこっちに迫ってきたので、またそちらを振り向く。と。


 がばっ!


「伊妻お姉さまーっ!」


 突然痛バッグちゃんに抱き着かれた。


 ――え?


 あまりにも突然の状況に理解が追い付かなくて、三秒ぐらい思考が固まってしまったわ。


「ちょっと待って! どちら様⁉」


 多少強引に痛バッグちゃんを引きはがして距離を取り、私は最大の問題点を訪ねる。いきなりお姉さまなって呼ばれても、私に妹はいなくてよ⁉


「どちら様って……私ですよ、蛙ヶ口千和です!」


 かわずがぐちちわちゃん……蛙ヶ口千和ちゃん……ケロちゃん⁉


「あなた、ケロちゃんなの⁉」

「はい! 昨日お姉さまに言われた通り、もう自分のことを秘密にするのはやめることにしました。メイクと髪はそれでも馬鹿にされないように、本を見ながら一生懸命セットして――。あ、眼鏡はもともと伊達でした!」

「そ、そう。慣れないメイクでここまで変わるって、ケロちゃんって才能あるわね」


 まだ理解が追い付かない頭で、とりあえず適当にケロちゃんをほめておく。


 ええと、メイクと髪型は馬鹿にされないように変えたってことだから、今まで秘密にしていたことは、ほかに変わったところのことよね。


 となると――痛バッグしかないわよね。私は改めてその痛バッグをまじまじと見た。


 きらきらと輝く瞳のイケメンなアニメキャラたち。放映時間が深夜なのもあって、アニメ番組自体は見たことがないけれど、歌番組で取り上げられてたから主題歌だけは知っているわ。


 そんなアニメキャラの缶バッジを大量に持っているということは。


「ケロちゃん、オタクなの?」

「ちょっと違います!」


 ケロちゃんは少し前のめり気味になりながら、付け加える。




「私、腐女子なんです」




 え、ええと……フジョシ?


「男の人同士の恋愛を描いた創作物が好きな人のこと、だよね?」


 横でずっと話を聞いていたタカヒロ君が、私の固まる思考回路に助け船を出した。


 言われてみれば、言葉だけは聞いたことがあるかもしれないわ。


「うちの図書館にも一昔前の耽美小説なら置いてあるけど、結構借りてく人いるし、腐女子ぐらいだったら気にすることないんじゃないかな。どんな感じが好みかとか聞かせてくれれば、おすすめを教えるけど」


 タカヒロ君がケロちゃんに笑いかける。こんな状況でも図書館の営業を忘れないなんて、さすがだわ。


「一口に腐女子と言っても、男性同士の恋愛のみを好むタイプから異性愛も含めて好きなタイプや女性同士の恋愛も好むタイプ、また創作上のみで他人事として愛でるタイプから自らが感情移入するタイプまで様々なのですが」


 ケロちゃんが自分の好みについて説明を始める。タカヒロ君に言っているのだろうけど、なぜかしら、寒気がするわ。




「私は女性同士の恋愛まで、自分のこととして大好きです!」




「ちょっと待ってそれで『お姉さま』⁉」

「はい!」


 つまりケロちゃんは腐女子で女の子が恋愛対象で、私のことが好きってこと……?


 確かにかわいい子だと思って気にかけてたし、偶然先生からかばう形になっちゃったり、不良から守っちゃったりしたし。


 同性だからあんまり考えてなかったけど、恋愛対象に含まれてるなら十分惚れられてもおかしくないだけのことをやっちゃったわ。


 でも。


「ごめんなさい、ケロちゃんの気持ちには答えられないわ」


 きっぱりと私は断る。別に女同士だから、とかいう偏見はないけれど……。


「わかってます。他に思い人がおられるのですよね。お姉さまを見ていればわかります」


 ぎく。馬淵君のこと、そんなに顔に出ていたかしら。馬淵君本人やぴあのさんには絶対にばれちゃいけないし、気を付けないと。


「でも、せめてお姉さまと呼ぶだけでも――だめでしょうか?」


 うるうると瞳を潤ませ、上目遣いに訊いてくるケロちゃん。断りづらいわ。


 お姉さまなんて呼ばれたらかなり目立ってしまう気はするけれど、すでに銀髪と社長令嬢の肩書で、他校生にまで知られるぐらい目立ってしまってるんだから今更よね。


「いいけど、私よりケロちゃんのほうが二か月ぐらい年上じゃなかったかしら。私のほうがお姉さまでいいの?」

「もちろんです! 気持ちの上の問題ですから、実際の年齢は関係ありません!」


 ぴょこんと飛び跳ねて、改めてくっついてくるケロちゃん。わんこの耳としっぽが見えるのは、あながち幻覚でもないわよね。だってケロちゃんの前世は獣将ケルベロス――。


 そこに思考がいたった時、ぞわり、と、背中に鳥肌が立つぐらいの嫌な予感が私を襲った。


「ねえケロちゃん、ケロちゃんが腐女子になった理由って、やっぱり漫画やアニメなのかしら?」


 わたしは尋ねた。


「一般的には男児向けアニメの二次創作からって人が多いんですけど、私は、その、よく見る夢がきっかけで」

「夢?」




「はい、黒い狗の頭をしたナイトが、ちょうどお姉さまみたいな銀髪で赤い目の美青年に陰ながら恋心を抱いている、そんな夢なんですけど」




「へ、へー……」


 私はショックを通り越して放心状態になっちゃった。


 ケロちゃんがよく見る夢って、間違いなくケルベロスの記憶だわ。


 つまり、ケルベロスはルシファーに恋心を抱いていたってことよね。一回生まれ変わってるとはいえ、本人が言うからには間違いないわ。


 今までだったらそこまで気にならなかったかもしれないけれど、今は私自身が恋する乙女。恋愛と友情が全く違うってことなんかわかるわ。


 つまり、ルシファーって……前世の私って――。




(一人も友達がいなかったってこと⁉)




 もちろん、ケルベロスの思いに気づけなくて、結果単身勇者ツルギと戦わせて殺してしまったこととか、ほかにも反省するべきところはあるのだけれど。


 一人ぼっちになるのが一番のバッドエンドだと思っている今の人生で告げられたその事実はあまりにも重すぎて。


 私は思わずその場にへたり込んでしまったわ。


ケロちゃんの属性がいい加減カンストしてると思います。

間章を挟んだのち二章スタートです!

皆さんお付き合いください!

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