08
翌週から、二人の作品も店頭に並ぶようになった。
と、ここで問題になったのがブランド名だ。
Insulo de Triの作品には、作家名の他に大体、ブランド名がついている。
美作さんの作家名は普通に名字をローマ字にしたMimasakaだ。ブランド名は、美作、つまり美を作る、make beautyの意味でM&Bだ。
それをそのまんま! と詰っていた峯岸といえば、作家名LiLica、だけだ。あんたの方がそのまんまだろ、峯岸梨々香さん。峯岸としては、Ririkaではなくて、Lilicaなのがこだわりらしいけれども。
「作家名は、Mimasaka&LiLicaでいいとしてさ、M&Bそのままなんて嫌だし、どうしようか?」
と店のテーブルに座って峯岸が呟いた。彼女の間に置かれた紙には、二人の名前がローマ字になったり、ひらがなになったり、英語になったり、漢字をくっつけたり、分解したり、色々といじくられている。
美作さんといえば、俺、そういうセンスないしなーと峯岸に丸投げしている。ように見える。
丁度来ていた常連のお客様が、テーブルでうんうん唸っている二人、主に峯岸をを見て、そっと尋ねてきた。
「あの、あの方達は?」
「あー、お見苦しくてすみません。その、作家です」
説明していいものかと一瞬悩んだが、美作さんは相変わらず手作り市に顔を出しているから顔は割れているし、峯岸も出来るだけ自分を売り込んでくれ、と常日頃から言っている。
「このアクセサリーつくっているのと」
と左手の美作さんのブレスレットを指差し、それから、
「あの絵を描いたのと」
壁の峯岸の絵を指差した。
「その二人です。今、コラボでアクセサリーを作っていて」
「へー、そうなんですか」
常連さんは目を輝かせた。そういえば、この人、美作さんのアクセサリーを何個か買っていったことがあるな。
「このアクセサリーも好きだし、壁の絵もいいなって思ってました。うわー、楽しみ!」
と弾んだ声をあげる。
それに、楽しみにしていてくださいね、と笑いかけながら、心のどこかでなにか黒い感情が沸き上がる。のを、強引に営業スマイルで押し込めた。
そのお客様が帰ると、
「みーしーまー」
行き詰まったらしい峯岸が助けをもとめてくる。仕方なく仕事の手を休めてそちらに向かった。早く決めてとっとと納品してもらいたかったし。
峯岸が書いた紙をとりあげて、眺める。
「別に二人の名前に拘らなくてもいいと思うんだけど」
一応、そういって別の方向性を提示してみたものの、
「そういう縛りつけないと一生決められないよ、あたし達」
なんでそんなことに自信満々なんだろう。
「大体、三島だってこの店の名前、自分の名字からじゃん」
「まあね。だから、私に救いを求めてもセンスないのには代わりないと思うよ」
「だけど、Insulo de Triってなんかお洒落!」
「それ騙されてるよ」
なんて言いながら、紙を上から下まで眺めて、もう一度下から戻って。
一つの文字列で目を留めた。minemi。峯岸のmineに、美作のmiなのだろう。
「これ、いいんじゃない?」
「ミネミが?」
「mineってマインじゃん。英語の」
「I my me mineの?」
「そうそう」
頷くと、峯岸からペンを受け取り、紙の上に書き込む。mine me。
「マイン ミー」
峯岸が読む。
「ローマ字読みするとミじゃなくてメになっちゃうけど。峯岸のミネと美作さんのミの意味だけど、こっちの方が、なんとなく、意味があるっぽくってよくない? 実は全然ないけどさ」
ただ名前をくっつけただけ、に比べたらだけど。
「いい! いい! 三島てんさーい!」
峯岸が手を叩いて喜ぶ。そこまで言われる程ではない。逆に恥ずかしい。
「ね、美作!」
「うん」
美作さんも紙を見ながら頷いた。
「いいね。三島さんに頼んで良かったよ」
そう言って笑う。
それに少し胸が高鳴って、
「じゃあ、納品書お願いします」
それをごまかすために早口で告げた。