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私は、Insulo de Triを私だけのお店にしたかった。だから出来れば、既製品だけじゃなくて手作り雑貨なんかを置きたかった。
インターネットを通じて、何人か手作り雑貨を作っている方に声をかけて、この店に置いてもらうようにした。
手作り雑貨系のイベントには積極的に顔をだして、良さそうな人を探していた。
美作さんも、そこで出会った人だ。
都内の神社の敷地内で定期的に行われている手作り雑貨イベント。そこで美作さんに出会った。
美作さんはアクセサリーを作っていた。それも折り紙や和紙を使ったアクセサリー。
折り紙を蓮や椿の形に折って、それを丈夫になるようにコーティングしてネックレスやピアス、ストラップなんかにしていた。
「これ、全部貴方が作っていらっしゃるんですか?」
並べられた色とりどりの折り紙達を見ながら尋ねると、美作さんは恥ずかしそうに頷いた。
「前付き合っていた人に唆されてはじめたら、はまっちゃって」
照れたように笑う顔が、可愛いと思った。
だから正直、下心があったんじゃないか、と問われたら否定は出来ない。
けれどもそれよりも大きく、強く、美作さんの作るアクセサリーにひかれた。
赤い千代紙で作られたネックレスを購入し、名刺をもらってその日は帰った。
帰ってから、名刺のアドレスにメールしてみた。よかったら、うちの店に置いてみませんか?
返事は思ったよりも快く引き受けてくれるもので、ほっと一息ついた。
その前に一度店を見てみたいから、とInsulo de Triにやってきた美作さんは、可愛らしいお店ですね、と笑った。それがとても嬉しかった。あんな素敵なアクセサリーをつくる人に可愛らしいと言ってもらえたことが、嬉しかった。
美作さんは、アクセサリーを置くことを了承してくれて、契約は成立した。店の奥、ちょっとしたテーブルのところで紅茶をだして、契約についての話を進めた。そこから少し雑談をした。
「最初はカノジョが喜んでくれるから作っていたんですけど、どんどん楽しくなっちゃって。でもこれが楽しくなるころに、フられちゃって。おまけに不景気のあおりを喰って、仕事も辞めることになって。それでアクセサリー作りだけが俺に残って」
だから今は週末にインターネット回線のキャンペーンの仕事をしながら、アクセサリー作成で生計をたてられないか、と目論んでいるのだ、と彼は言った。
「そういえば、ここの二階って住居になっているんですよね?」
申し訳程度に外に出ていた、空き室ありますのポスターを思い出しながら頷く。
「大家さんってどんな人ですか? 管理会社任せな感じ? 今のところ、もうすぐ契約切れるんで引っ越そうと思ってて」
「あ、大家は私です」
「え、そうなんですか」
美作さんは驚いたような顔をして、
「えー、じゃあついでに部屋の契約もしたいなあ」
おどけたように笑った。
その日はその話はそこで終わって、また改めてゆっくり部屋の契約について話すことになった。
確かに二階は一部屋空いている。
だけれども、女二人で住んでいるところに男性が入ってくるのは、峯岸が嫌がるかもしれない。あの子人見知りするし。そう思って、それとなく聞いてみた。
「別に?」
思ったよりもあっさりと峯岸は答えた。
「三島がいいと思ったんなら、三島が信用できる人だと思ったんなら、いいよ」
ぶっきらぼうにそう言うと、さっさと部屋にひっこんでしまう。慌ててその背中に声をかけた。
「ありがとう」
私の目を信頼してくれて。
その後、美作さんと峯岸を対面させて様子をうかがったり、作家としての付き合いから信頼できると判断して、Insulo de Triの二階、空き部屋は埋まった。
空き室ありますのポスターは剥がした。
これが現在の、この建物の現状だ。